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                 僕の靴を舐める――ケグリ氏と、ズテジ氏。  ケグリ氏はヤケが興奮になったようにベロベロと、ズテジ氏はぼんやりとしながら、ペロ、ペロ、と力なく。 「ズテジ、お前も舐めるんだよ」と先ほどソンジュさんにどやされたズテジ氏は、ひっと喉を鳴らしながら「はい、はい、」とすっかり従順になって、僕のほうへと来たのだ。――ただ、モウラは涙目ながらムッとして、いまだステージの上にいる。  ソンジュさんはそんな二人を見ることもなく、遥かかなたをぼんやりと眺めながら――とはいえステージ裏、ビロードの真紅の天幕を遠い目をしてなんとなし眺めている、というようだ。…それでいて彼は、機械的な声で。   「…わたくしのようなみっともないカエルは人ではありませんので、ユンファ様の初体験を奪ったことも、ユンファ様のファーストキスを奪ったことも、ユンファ様の人生のうちの初体験には、まったくカウントされません。…」   「……わだぐじは、みっともない、カエルです、ゅ、ユンファさま、の゛、…人生には、私が奪った処女も、ファーストキスも、…カウント、されまぜん゛…っ」    ケグリ氏は僕の足元でそう繰り返すが、ズテジ氏はただ緩慢な舌の動きで僕の革靴を舐めながら、「豚です…豚です…」とボソボソひとり言のように繰り返している。   「…ですが、わたくしケグリは身のほどをわきまえず、貴方をレイプしたことを、ここに心を込めて謝罪いたします。…ごめんなさい、ごめんなさい。何とぞ、愚かなわたくしをお許しください、ユンファ様…」   「…………」    天幕を眺める、楽しそうな微笑み――その横顔は、怖いほどに整っている。…サディスティックな鋭さがありながらも、やけに優しげな、どこか神聖な美しさのある微笑みをたたえているソンジュさんの横顔は、だからこそもっとサディストの恐ろしさを漂わせている。 「…身のほどを、わきまえず、…っレイプをしてしまい、…っ大変申し訳ございませんでした、! ごめんなさい、本当に申し訳ありません、愚かなわたくしをお許しくださいユンファ様、…」    やっと終わると、その気配に早口でそう言い、ケグリ氏はまた僕の足下に頭を下げて、土下座した。   「……はぁ……」    僕はその人の土下座姿を見て、思わず薄いため息を吐いてしまった。――僕の目は潤んでいる。…もうよくわからない。      しかし、僕はなぜか…――。       「…ふふ…」      笑って、いたのだ。――なぜだか、腹の底から小刻みな笑い、そのような震えが僕を支配している。  そもそも…どうしてこんな、――ご主人様がたの、汚辱のお姿を…僕は、ずっと眺めていられたのか。     「…クク…ふふふふふ…、…」      わからないが…――妙に、笑えてくるのだ。    するとソンジュさんは「よくできましたね、ケグリ」と(今更だが)還暦も間近なケグリ氏を優しい声で呼び捨てにし、明らかに見下した褒め言葉、…いや、ある意味ではこれも責める言葉に違いないが。…そう言うと、僕の背中をするりと撫でた。   「…ほら、お前たち…僥倖(ぎょうこう)でしたでしょう…――ユンファ様のお美しい、“タンザナイトの瞳”を見させていただき、本当にありがとうございました、は…?」    そう立ち上がったまま、ケグリ氏の背中を見下げるソンジュさんの目は、完全にその人を見下している。――ところで、…タンザナイトってなんだろう。タンザナイトの瞳?   「…ゆっユンファ様の、…タンザナイト…? の美しい瞳を見せていただき、…ありがとう、ございました゛…っ」   「ありがとうございました…」    僕の足元にいるケグリ氏とズテジ氏はそう言ったが(というかやはりケグリ氏も、()()()()()()がなんなのか知らないらしい)、…今や片膝を立てて座っているモウラは不機嫌そうに、そっぽを向いている。  そんなモウラに向けられた、あざ笑いに細められているソンジュさんの目は、鋭く妖しい眼光を放っている。   「…ククク…、よくわかりましたよ、そこのドブネズミ…――どうやらお前はまだ、愚かにも自分の立場が理解できていないようですね。…いや…まあどちらにしても、まさか土下座程度で償えるものではないか。…どうぞ()()()()()。」   「………、…」    モウラは何も言わず、ムッとして動かない。  ソンジュさんはすっと真顔になり「これで許されると思うなよ、お前ら…」と低くつぶやいた。   「…………」      なんだか…――馬鹿らしくなってきたな。           

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