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               更にソンジュさんはあのあと、ケグリ氏たちに土下座させたままで更に、さんざん言わせた。――「ユンファ様のお綺麗なお体に触れさせていただきまして、たいへん身に余る光栄でした」――「ユンファ様のお体に当たり前のように粗末なおちんぽを入れた自分が、今は恥ずかしくてたまりません」――「ユンファ様のナカに醜い駄目な子孫を残す精液を吐き出した私は、駄馬にも劣るブサイクなカエル(太った醜い豚、汚いドブネズミ)です」――…などなど。    それにもうモウラは従わなかったが――ケグリ氏とズテジ氏は、僕の間近な足元に土下座し、それを繰り返していた。      途中から僕は、もう面倒になってきていた。  なぜ僕は、こんな人を恐ろしく思っていたんだ?    そう思いかけていたが、――やはりケグリ氏のその見開かれたギョロ目を見ると、僕は身が竦むような思いがまだ鮮明に残っていた。…自分がもしや一週間でも自由になったのかと、そう頭ではなんとなくわかっていたのだが、そのたった一週間後にはまたケグリ氏たちに支配される、僕は性奴隷なんだ、という認識は、いまだ僕の中にある。  それどころか僕はその一週間後、ソンジュさんにこんなことをさせられたノダガワ家の人々に、以前よりももっと苛烈な扱いを受けるに違いない。    先ほどはなぜか笑ってしまったが、もしあれがケグリ氏の耳に届いていたら…――恐ろしくなって、僕はまた身を縮め、凍り付いた。    そして、ケグリ氏に散々なことを言わせていたソンジュさんは今、立ったままでまた黒いタバコに火をつけ、それを吸っている。――それを何口か吸ったあと、彼はケグリ氏に「すみません…ちょっと立ってくださいませんか、ケグリさん」と声をかけた。  するとケグリ氏はよたよた、としつつもすぐに立ち上がり、怯えた顔をして彼に向かい合う。   「…出して。」    にわかにそう言ったソンジュさんに、おどおどとケグリ氏が震えながら目を白黒させる。   「…は、? 何を、何をですか、」   「…()()()()がせいぜい差し出せるものって…いったい、なんだと思います?」   「っは、……」    怖いほど優しい声のソンジュさんは、ケグリ氏に()()()()()、とそう要求し――ケグリ氏は何を出せと言われたのかもわかっていなさそうだが、怯え混乱しているからか、おずおずと()()をするようにソンジュさんへ、その膨れ上がった片手の甲を差し出した。  すると、目線を伏せてその手を見下ろしているソンジュさんは真顔で、おもむろに――ケグリ氏のその手の甲に、…タバコの灰をとんとん、と落とした。   「っあ゛ッつ、…っツ…! ふぐ、!」   「…あぁ失礼…私は目が見えていないもので、灰皿かと……すみません。私はケグリさんに、()()()()()()、と言ったつもりだったのです。」   「…………」    いや…ソンジュさん、今はサングラスをかけていない。  もちろん彼のその、ややタレ気味の切れ長のまぶたも開かれており、今もあきらかに自分へと差し出されたケグリ氏の、その焦げたクリームパンのような手の甲を見ていた。  そしてソンジュさんは、その淡く冷ややかな水色でケグリ氏を、神妙な顔をして見ている。――当然ながら熱がり、思わず手を引いて振り、…それからふー、ふーと鼻息を荒くしながら自分の手を見下ろし、確かめているケグリ氏。      の、額に――ジュッ。     「…ァがア゛ッ!」      と…ソンジュさんはタバコの火の先を押し付け、…そのタバコの火を消した。――額を押さえて目を見開き、身をかがめたケグリ氏に、ソンジュさんは白々しい冷ややかな声で。   「あぁ失礼、うっかり…目が見えていないので――大丈夫ですか、ケグリさん…?」   「…ぁぁあ、…ぁあ…」    ボタ、ボタ、と、ケグリ氏の汗だか鼻水だかが、フローリングの床に落ちてゆく。――ソンジュさんはポイッとタバコを床へ捨て、…懐からハンカチを取り出し、すっと上品にケグリ氏へそれを差し出す(先ほど彼が吐いたあとに口を押さえていたハンカチである)。   「…は゛ーっ、は゛ーっ、は゛ーっ…」   「…あらあら…そんなに熱かったですか? これは大変失礼いたしました、ケグリさん。()()()()()()、治療費も上乗せしておきますね」    もはやぜいはあと息をしているケグリ氏の、その脂汗にまみれた頬を、突然優しい手つきでちょんちょんと拭いてあげているソンジュさん――どれだけサディストなのか、…本当に恐ろしい。   「………、…」    いや、僕にしてもこれは決して他人事ではない。  なぜなら僕は、今から一週間、このサディストの――性奴隷となるのだから。    そんな父親とソンジュさんを見ているモウラは、いまだステージ上に片膝を立てて座っているが、かなり不機嫌そうな顔だ。…いっそソンジュさんを睨み付けている。  一方ぼうっとしたズテジ氏は、まだ僕の足元に這いつくばったまま、見下ろした僕と目が合うなり――いきなりガバッと、僕の脚にしがみついてきた。   「ユンファぁ、ユンファぁ…いかないれぇ、ユンファぁ…」   「……、…っ」    泣きながら僕を見上げ、子供のように甘ったれた舌っ足らずでそう言ってくるズテジ氏が――僕には正直、やっぱりおぞましいものにしか、見えない。             

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