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               ソンジュさんの子を――妊娠して、こい。     「…は…? ぁ、あの、いえご主人様、しかし、…」    僕はあまりの衝撃的な命令に目を見開き、さすがにそこまでは、と首を横に振った――しかし、もちろん両頬を顎から回ったケグリ氏の手に押さえつけられているため、かなり小さな振り方となった――。  するとケグリ氏はぬらりとその目の眼光を鋭く光らせ、「なんだ、奴隷の分際でご主人様に逆らうのか?」と低く言うと、持っている僕の顔をぶんと投げ捨てた。   「…っう、……」    その衝撃に僕はドタ、と身を崩して床に片手を着き、…僕の、信じられないと朦朧としはじめた意識に入り込んでくる――ケグリ氏の、低く命令する声。   「…バカタレが…だからお前は馬鹿の出来損ないなんだ。――契約書にもあるだろうがユンファぁ!」   「…ひッ…ごっごめんなさ、…ごめんなさい、ごめんなさいご主人様、お許しください、…」    怒鳴られると、ぎゅっと僕の体は竦む。  僕はうなだれ、カタカタ震えながら肩を縮こませる。   「…私が()()()()と言ったら、お前は素直に、いつでも、何人でも、誰との子供であっても。お前は。ご主人様が妊娠しろと言ったら、妊娠するのだよ、ユンファ。――いいな? ()()()()()()()()()()()()()()。」   「…、……、…」    でも、でも、でも、でも僕、――僕、   「いやな、ユンファ…私はずっと欲しかったんだ、()()()()()()()が。…」   「……、…」    アルファの子供。――アルファの子供。…そのワードばかりが僕の脳内にエコーして鳴り響いている。   「いやユンファ、まさかお前のような、馬鹿で愚図で。ブスで淫乱で。オメガにしても全く出来損ないの。誰にでも股を開くような、タダまんの。どうしようもない変態オメガのお前なんぞが、――私たちに、本気で求婚されていたとでも思っていたのかね…?」   「……ぃ、いいえ…」    わかっていた。  僕なんか…――僕なんか、誰にも愛されるわけがない。  それこそご主人様がたにさえ、僕は愛されない。   「オモチャにして遊んでいただけだよ、ただの都合のいい道具だ、お前なんぞ。…そうして遊んどるうちに、あるいは、アルファの血が入っとるオメガのお前と…同じくアルファの血統を受け継いだ自分たちの間に、アルファの子供を作ろうとしていただけなんだ。」   「………はい…」    そういえば…ソンジュさんも、僕が五条ヲク家に生まれたと言っていた。――いや、だからなんだよ。  ということは僕、その五条ヲク家にはふさわしくないと捨てられたってことだ。――馬鹿で淫乱なオメガだから。   「…お前にアルファの子供を孕ませ、産ませてやろうな。――なあユンファ…じゃなきゃお前のような、どうしようもない淫乱のマゾ肉便器を、誰が娶ろうなどとするものかね。誰にでも股を開く、汚い体のくせしてなぁ…恥を知らんか恥を。常に体中からザーメンのにおいがしてたまらんわ、臭いぞぉ、なあユンファ」   「……はい…ごめんなさい…」    たしかに…――僕の体は、汚くて臭い体だ。    アルファの子供を妊娠してこい。  ソンジュさんの子供を妊娠してこい、か――別に、いいや……別に…、別に、もうなんでもいいや…。  どうせそうじゃなくても、いつか結局は孕ませられるんだし――むしろ…誰の子かもわからない子供を妊娠するより、マシかもしれないし。   「…ユンファ、妊娠するまでは帰ってくるなよ。お前なんかそれくらいしか役に立たんのだからなぁ、――オメガお得意の色目でもなんでも使って、あのアルファを誠心誠意誘惑して、たっぷり子宮に中出しされまくってきなさい。…わかったか…? お前は今から、あのクソ生意気なアルファの性奴隷でもあるのだ。おい…っ」   「…ひっ、…ぅ、…ごめんなさい、ごめんなさい、はい、…」    ケグリ氏に蹴られる。  この命令口調は僕に呪いをかける。暴力を振るわれると、僕の気持ちは空っぽになってしまう。絶頂してしまうと、僕の気持ちは空っぽになる。その上で命令されると、僕は…――もう……全部、諦めているから。いい、大丈夫、何されても、どうなっても問題ない。   「ただし、私たちの性奴隷だってことも忘れるなよユンファ。その首輪と乳首のピアスは絶対に外すな。…絶対に忘れるな、…お前は、ユンファ…私のものだ。」   「…は、はい…」    僕はきっと、この人から離れてもそれらを外すことはしないだろう。――いや、とてもじゃないがそうはできないのだ。   「ユンファ。…それと――毎日全裸でオナニーしてる写真を、私に送るんだぞ。…わかったかっ?」   「…ぅグ、……っ」    髪を鷲掴みにされて上げられながら、また低く命令される。――僕はもう、この人に逆らうことはできない。   「…は、はい、ご主人様…、…」    逆らえないのだ。  ご主人様の性奴隷だから、おもちゃだから、肉便器だから、人形だから、言いなりの家畜だから、――できなくなってしまった。…気持ちが空っぽになると…逆らうという思考が、なくなってしまうのだ。――刻み込まれているからだ。  ぼやけた僕の視界に映る、ケグリ氏の血走ったギョロ目、そのニヤニヤとした笑顔。   「…メッセージで命令もするからな、毎日きちんと確認して、きちんと報告しなさい。――おい、お前はどうするんだったか、言ってみろ」   「…っはい、はい、――あ、あの人の、…アルファの子供を、妊娠してきます、ご主人様…っいやらしく誘惑して、な、中出し…たくさんナマナカで、セックスしてもらって、…きます…、妊娠、してきます……」 「よぅしいい子だ。励めよ、ユンファ…」   「…は…はい、ご主人様…――。」    するりと髪を手放され、…僕は脱力して床に手を着き、うなだれた。      僕は人形だ。――言いなりの人形だ。  僕は、このケグリ氏の都合の良いあやつり人形なのだ。    体に、頭に、僕の魂に――刻み込まれてしまった。    僕はこの人たちの都合の良い人形で、この人たちの利益を生むための道具で、いつでもご使用いただけるオナホで、どのような人にも脚を開いて使っていただく公衆肉便器であり、好きなようにもてあそび遊んでなぶっていただけるおもちゃ、彼らの温情で飼っていただいている家畜で、そして――このノダガワ・ケグリ氏とご一家の、妊娠するか否かまで支配されている、虐げられて当然の、言いなりの性奴隷である。  僕は、そのことをこの一年半で――自分の肉体に、精神に、魂に命令され、刻み込まれてしまったのだ。         

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