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                 僕を抱き締めていたソンジュさんはふっと離れ、僕の腰の裏に手を宛てがって――「さあ、行きましょうか」と、おだやかな声で言った(豹変ぶりが凄い)。…「え、ええ…」と僕は困惑しつつも彼の隣を歩いて何歩か車に歩み寄り、そうしながらもその人の横顔を眺める。    ソンジュさんはまたサングラスを掛けていた。  昼の明るい太陽光に透けている黒茶のグラスの下、その両目もまたぴっちりと瞑られていた。――が、彼は僕のほうへ顔を向けるなり、すっとまたその目を開けた。  そしてふっと下――チラチラと僕の上体を見るなり、   「……ユンファさん」   「はい、ごめんなさい遅くなっ…」   「いえ。そうではない。――……、…。」    ソンジュさんは何か顔を横へ背けつつ、おもむろに自分が着ているトレンチコート――店内から変わらず、前が開け放たれたまま――を脱ぎ始めた。  そしてチッと舌打ちをし、「その格好…」――ぼそりと冷ややかに、僕を責めるようなその言葉にハッとした僕は、咄嗟にうつむいてボストンバッグを前に寄せ、自分の胸元を隠したのだ。   「…あっご、ごめんなさい、…その、…急いで出てきて、いや、その…ひっ…引っ掛けて、…破いて、というか……」    気を抜いていた僕は、今着ている白いワイシャツが薄いばかりか、前のボタンが弾け飛び、ほとんど閉ざされていないことを思い出し、自分の体を隠したのだ。――これでは明らかに、さっき手荒く犯されました、というような格好の上(いや、それは事実なんだが)、そもそもこのワイシャツは生地が薄いために、乳首も、ニップルピアスも、その全部がうっすらと透けて見えている。  ましてや僕は先ほどケグリ氏に犯されていて、汗ばんでいる僕の体では、なおのことのみならずはっきりと、背中なんかまで透けて見えていることだろう。――これじゃ、ほとんど上裸だ。    僕は羞恥心から、今にも泣きたいような気分になり、焦っている。   「…あの、あの、っ本当にごめんなさい、…僕、…あ、あ…――が、我慢、できなかったので、僕が、…っ僕がご主人様を誘って、犯していただいて、…」    それなのに、…僕はケグリ氏(ご主人様)に言えと命令された通りのセリフを、なかば無意識に口にしていた。  首元の赤い首輪だって、カッターシャツの襟から見えている。――もう何もかも全部見えている。…それはいつものことじゃないか。  それなのに、とたんに恥ずかしくなった。今更だ。見られることには慣れているが、こう涼やかに指摘されるといつもよりひどい羞恥心を感じてしまったのか。――あるいは相手が、カナイさん…いや、ソンジュさんだからだろうか。…いや、そうなら「僕が淫乱で我慢できなかったのでご主人様に犯していただきました」なんて、なぜ言える?    わからない、…本当に。――でも、僕は()()()()()()()()()()()。   「一週間ご主人様のおちんぽを恵んでいただけないので、…ごめんなさい…、ごめんなさいごめんなさい、ごめんなさ…、…」    そうして混乱しながら、うなだれた僕の肩に、ふわ、と自分が着ていたトレンチコートをかけてくれたソンジュさんは、僕を――優しく、抱き締めてきた。   「…構いませんよ。――どうせ車で移動しますし」   「………、…」    僕は、つい、固まる。  ソンジュさん、本当に何か良い匂いがする。香水だろうか、爽やかで甘い、マリン調の…――彼にふわりと抱き締められると、…ふっと…僕の強ばった心が、それだけで不思議とやわらぐ。   「………、…」    あ、と思った――これ、カナイさんの匂いだ。    正直、はじめは気が付かなかった。――でも、ソンジュさんがカナイさんじゃないかと疑ってから嗅ぐと、…たしかに、同じ香水の匂いだった。   「…………」    やっぱり、ソンジュさん…――カナイさん、なのか…?  そう思うと、僕の頬は熱くなった。         

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