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「………、…」
ハンカチを敷かれた、赤いスポーツカーのステップに、僕は座った。――ソンジュさんに座れと言われたのだ。
すると何も指示をされていないというのに、モグスさんが僕の足下にひざまずく。
「……?」
え、と思った僕だが、――モグスさんはそのまま「失礼しますねぇ」とニコニコしながら、…僕の革靴に手をかけ、脱がせようと。
「あっ…大丈夫です、なるほど、靴を脱がなきゃ乗っちゃ駄目なのか、…なら自分で脱げますから……」
なるほど、そうか。…と、僕は自分でその革靴のかかとに、もう片方の靴のつま先を引っ掛けた。
いや聞いたことはある、…車にこだわりのある人は、車内であろうとも汚れるからと、車内も室内同様に土足厳禁にしている人もいるのだとか。
それくらい大事にしたいのは、こんなに高級そうなスポーツカーなら、まあ当然だろう。…僕だって素人ながら、格好良い車だなぁと思うくらいだ。
そうして僕が自分でずらした靴を、モグスさんは取って地面に置く。――僕はもう片方もそうした。
するとモグスさんの背後に立っているソンジュさんが、
「じゃあモグスさん、そ れ 。――ついでにお 返 し し て き て く だ さ い 」
「はいはい。…」
と、言うとモグスさんも当然のように、その僕の革靴の内側、かかとの部分に指を引っ掛けて持ちながら、立ち上がる。
「………、…」
え、返すって…か、返すって?
「…さあ、どうぞユンファさん。今度こそ、乗り込んでください。…」
「……、あ、あの……」
僕…靴、ないんだけど。それ、持って行かれたら…?
と僕は困ってソンジュさんを見るが、…彼は「早くしてくださいユンファさん、私が乗り込めません」と急かしてくる。
「ぁはい…、……」
なので仕方なく、僕は黒い靴下を履いたかかとを車内のステップに乗せて、腰をかがめたままに乗り上げ、後ろから車内に入る。――そうして車内に入った僕は、間違えれば頭をぶつけてしまいそうだと慎重になりながら、頭を低くした姿勢を保ちながらその黒い革張りの後部座席の奥へ。…そこに座る。
「…………」
あ…性奴隷には、靴なんて贅沢だとか、そうい…いや、多分違う…――なら、こんな高級車なんかにそもそも僕を乗せないだろうし、…やけに尊重された扱いだっただろう、ステップの部分になぜか(先ほどソンジュさんに僕が借りた茶色い)ハンカチまで敷いてくださって、…?
「……?」
車内が土足厳禁なのはわかっているが、――僕、これでは外を靴下で歩くことになって、…えっ?
「………、…」
「……ふぅ…、…」
「……っ??」
ええ??
ハンカチを回収して乗り込んできたソンジュさんは、…茶色い革靴を履いたままである。――そのまま僕の隣の席に座った彼は、外でモグスさんが身をかがめて僕らを覗き込みながら、「ちっと用がありますんで、ほんのちょびーっとばかし待っててもらっていいですか」と気持ち申し訳なさそうな笑顔で言うのに、…僕のほうへそのサングラスをかけた顔を振り向かせ。
「…すみません、少々お時間をいただきますが。」
「……ぇ、ええ、それはもちろん大丈夫です…、……」
が…――僕、靴…僕の靴が、…あ、身分の違いか?
九条ヲク家のソンジュさんは土足OK、性奴隷で庶民の僕は駄目…ってことか?
「………、…」
で、僕…――やっぱり、外を靴下で歩かないといけないのか?
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