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               ソンジュさんはスマホ画面を見下ろしながら、少し悪い微笑みを浮かべている。   「…クリスさんは、元役職付きの軍人だったそうです。――そして退役してからは、ユジョンさんのパーソナルトレーナーを勤めていたそうですが。…おちゃらけた彼と接していると、どうも…とてもじゃないがそうは思えませんけど、その実かなり厳しかったそうで」   「…………」    ふっと冷笑を鼻からもらし、彼は目を瞑るとゆるく、ゆっくりと顔を横に振りながら。   「軍人と…その軍人に鍛えられた人に、あのぶくぶく醜く肥えたガマガエルとオス豚、そしてヒョロガリのドブネズミが、敵うはずもありません。――それこそ女性だからとか、中年女性だからと馬鹿にした日には、ユジョンさんの闘志に火をつけるだけでしょう…」   「……あぁ…」    話を聞くに、そうなんだろうなとは思う。  それこそ僕も、お会いしたときには気を付けるべきだ。  いや、というかソンジュさん今、お上品の口調のなかでしれっと醜く肥えたガマガエルとオス豚、ドブネズミって普通に悪口言ったよな。――まあもう、それは正直今更なのだが(あんなサディスト全開だったし、そのサディストのときはもはや粗暴な言い方もあったし)。   「…ましてや彼らは、実に十年以上の付き合いなのです。…この二人のパートナーシップの強力さは、ただ血の繋がりがあるというだけで各々が、お互いを蹴落とそうというゲスガ…いえ。――ノダガワ家の方々じゃ、まず敵いませんよ。…各々が強くたくましいながら、その二人の息は、まさしく阿吽の呼吸なわけですからね。」   「…ほぁぁ……」    正直あまりにも凄すぎて、間抜けな声が出てしまった。  というか今、ゲスガワって言いかけたよな。――ソンジュさんはかなりノダガワ家が嫌いらしい。…いや、もちろん嫌われるべき人らだとは僕も思うが、しばしば彼の本音が聞こえてくる。   「…それに…念のため彼らには、証拠集めと同時に――おあつらえ向きな、()()()()をお任せしてあります。…それが何かいうと…ノダガワ家の皆さんの、()()()ですよ。」   「…………」    それを大義名分と言うのか。いや言っていいのか。   「ふふ…九条ヲク家の者として、曲がりなりにも十条のノダガワを放置することはできませんのでね。ましてや犯罪者を野放しにするわけもない…その実、監視役としても依頼しています。――まあ軍隊式に鍛え上げられれば、さすがにあの害獣どもでも家事や炊事くらいなら、できるようになるでしょう。…それで少しはドブガワ家のやつらも、ママのおっぱいを吸うしかできない赤ん坊からは、成長なさるんじゃないですか。」   「…………」    そしてソンジュさんは「あぁ失礼。ノダガワ家の皆さんでもね。」と訂正し、ふふふ、と低く不敵に笑った。――いよいよドブガワって言ったな。…もはやほぼほぼ悪口だったじゃないか。多分意図的なんだが、今更訂正されても僕ははっきり聞いてしまった。  多分…わりと普通にソンジュさん、本当はけっこう口が悪い人だ。――とはいえ、実はけっこう、僕としてはスカッとする悪口なのだが。           

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