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              「…………」    混乱してしまった結果――僕は思考するのをやめ、ぼーーっととりあえず、ソンジュさんとモグスさんの会話を耳に入れている。……でも、とにかく、ほだされないようにしなければ。…これ以上傷付くのはゴメンだ。   「ていうかさぁ、泣いてる好きな人を慰めることもできねぇのかお前は。ソンジュぅ、お前って、そんな童貞みたいだったぁ?」   「…っそ、それは…だから、――俺…俺なんかが、最低な…俺、俺がユンファさんに触れる権利なんかない…、おっ俺が、彼を傷つけたんだ。わかってるから、それは……」   「じゃあ俺が慰めちゃお。」   「…ッガルルル…」   「…そうやって、…すーぐ威嚇する。冗談だよ。…そぉんな怒るんだったら、お前が慰めてやれっての。――なあ、じゃあなんで傷付けた?」   「………、…」    すると黙り込んだソンジュさんは、……僕の片手に、その大きな片手をそっと添えてきた。彼は、僕の横顔に顔を向けているらしかった。   「…ごめんなさい、ユンファさん……」   「………、いえ…」    そう謝られると、僕の暗い気持ちが不思議とふんわり、落ち着きを取り戻した。    そして僕は、思い直した。    ソンジュさんを許すとか、許さないとか…そもそも、僕は思えばそんな立場でもないだろう。  僕が勝手にショックを受けていただけだ。――はじめから“恋人契約”と言われていたというのに、…よくよく思えば、ただそれに自分の気持ちが追い付いていなくて。    馬鹿馬鹿しい話が、多分僕は…――ソンジュさんのことを、…好きに、なりかけていたのだ。  ましてや()()()()()()()かもしれないと思えば、僕は…別に騙されたわけでもないのに――モウラのときのように、もてあそばれたわけでもないのに、…勝手に騙された、もてあそばれた、裏切られたと感じた。      いや、それは…好きになりかけていた、そうじゃないか。      正直ソンジュさんのことを、おこがましくも――僕が、好きになってしまったからだ。  でも、許してなんかやらない。――僕が、僕を、許してなんかやらない。    僕は精一杯、口元を笑顔の形に作った。   「…大丈夫です。傷付いていません――さっきは本当に、また、過去の辛い記憶が、…フラッシュバックしてしまって、…それだけですから」   「……ユンファさん…、俺が傷付けたこと、わかっています。――()()()のですよ、申し訳ないが、…っ貴方は見られたくなんかないだろうが、俺には……見えてしまうんだ…」   「………、…」    そう…だった。  じゃあ、僕、――僕の…恋心も、もしかして。   「………ッ」    僕は酷いショックと羞恥心に、顔中が熱くなった。――これ以上見られたくないと、僕は隣のソンジュさんから深く、横に顔をそむけた。  顔中が火をつけたように熱く、耳も、首元まで熱い。  …イーブンじゃない。――僕ばかりが彼を好きなんだと、ソンジュさんにバレてしまっているなんて。   「……、ユンファさん…その、さっきのモグスさんとの会話…あ、あれ…――正直、どう、思われますか…」   「…っな、何とも…、何とも思いません…」    別にあんなの、真に受けることはないだろ。  僕は別に、現実に婚姻届を目の前に突きつけられたわけではなく、本当に結婚指輪を差し出されたわけでもない。  一週間で僕をケグリ氏に返さないつもり、というのだって、思えばソンジュさんは、期間を延長するかもしれないし、あるいは短縮するかもしれないと。――そういう意味で、今のところは一週間で僕をノダガワ家に帰さない、ということなのかもしれないわけだ。    ましてや、二度と返さないなんて…まさか――なら、期間を設定している理屈がなくなることだろう。   「……ユンファさん…――本当に…け、結婚…して、くださいませんか、俺と…」   「…………」      僕はもう、一喜一憂することに疲れてしまった。           

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