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「…ええ。――いいですよ。…」
僕はソンジュさんから深く顔を背けたまま、ほとんど自暴自棄にそう答えた。――どうせ本気なわけがない。
というか、仮にも本当に自分と結婚しろ、という意味の言葉であったとしても、僕はそれでも構わない。…別に、もうこうなっている言いなりの人形、言いなりの性奴隷の僕の籍くらい、もう好きなだけ好きなようにしたらいい。
「……本当に…俺と、結婚してくださるんですか」
「…ええ。僕なんかでよければ、どうぞ煮るなり焼くなり、お好きになさってください。」
僕の声は我ながら冷ややかで、平坦である。
結婚するしないの会話にはまるで似つかわしくない、至ってどうでもよさげな声である。
「いいのですか。…一週間、その…俺と恋人になって…何かと確かめてからでも……」
「…ソンジュさんは、作品のために恋人になれとおっしゃっているのに、どうして僕が、何かを確かめるんでしょうか。…そもそも、僕はそれで、何を確かめるんですか」
僕はだんだん苛立ってきた。くどくど、くどくど。
ソンジュさんはくどくど再三、あたかも僕を尊重しているようなポーズばかり取ってくる。
「…ですから…俺と、結婚したいか、どうか…、というか……」
「ええ、したいです。…もうケグリ氏のもとに戻りたくはありませんから。――でも、貴方と結婚したら、僕の両親の面倒をみてくださいますか。…そうならお願いします。ただ、それが駄目だというなら、僕は貴方とは結婚できません。…」
こう言えば満足なんだろう、と強い調子でいうと、ソンジュさんは少し慌てたように。
「っもちろんです。もちろん…それはもちろん…、ただ、ユンファさんのお気持ち的に…」
「なら構いません。…僕の気持ちなんてどうでもいい。僕の両親が困らないなら、僕のことはお好きになさってください。――貴方がお望みなら、僕は結婚でも妊娠でも何でもいたします。もう失うものなんか、僕にはありません。」
「………、…」
ソンジュさんはそこで黙り込んだ。
ピィ、ピィ、ピィ、と、車がパーキングモードに入った音がしている。――どうやらこの険悪な状態で、ソンジュさんの家に着いてしまったようだ。
まあ…それのほとんどは僕のせいなんだが。
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