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それにしても、なるほど…――さすがだ。
「……、やっぱりソンジュさん、社交界だとかに精通してらっしゃるんですね…」
僕がボソボソとそう言うと、ソンジュさんのその鋭い横顔は前――おそらくは室内へ入るための道か――を向いていたが「…は…?」と僕に、歩きながら振り返る。
僕はあえて、この完璧なエスコートを、彼の特別な感情によるものと見なしたくないのだ。
「…いえ、こんな…僕なんかの腰を抱いて、スマートにエスコートなさるから……」
「…………」
「…条件反射といいますか、身に染み付いてらっしゃるのかと…僕は女性でもないし、はっきり言ってそんなこと必要ない男ですが…」
だから、やめてくれと言いたかったつもりだ。
というか、スマートも何もない。――南京錠付きの赤い首輪をして、こんなボロボロなワイシャツを着て、乳首やニップルピアスを透けさせ、下腹部にある淫紋のタトゥーなんてチラつかせている僕が相手では、どれほど上品にエスコートしようが、どうしたって変な二人だ。
「…、ぁ…はあ、なるほど…まあ――そう、ですね…」
明らかに何言ってるんだコイツ、という顔をして僕を見ていたソンジュさんは、何か歯切れ悪く渋々の様子ながらもそれを、肯定する。
「…確かに、条家の者が社交界慣れしているという点は、その通りです。――条ヲク家の男がエスコートの方法を、幼少期から学ばせられるというのはまあ…、事実ですよ」
「…大変そうですね…」
「……、ユンファさんは…お、…俺が何をしたら、喜んでくださるんですか」
「…………」
何を、したら――って。
僕は、自分でもそれがよくわからない。――いや、わからないということは…つまり。
「…ソンジュさんにしてほしいことは、何もありません」
「……、そう、ですか。わかりました。――何かあるようでしたら、どうぞ遠慮なく言ってください」
「…………」
僕はソンジュさんに、何も求めていないのだ。
そう…今、よくわかった。――彼に何かを求めるということはすなわち、ソンジュさんに期待するということだ。
でも、期待なんかできるはずがないだろう。
「…逆に…してほしくないことも、あれば…はっきり言ってください。…」
「…………」
ふっと思う。
それに関してだけは、思い付くものがある。
中途半端に優しくしないでほしい。
僕のことを、性奴隷として扱ってくれたほうが、僕はまだいくらか気持ちがマシなのだ。――だからどうか、優しくしないでほしい。
「……僕に優しく、なんて…なさらないでください」
「………、…」
ソンジュさんは僕の隣で、ほんの僅かな音を立てて息を呑んだ。
「…僕に優しくしないでください…、あとできれば、僕のことは性奴隷として扱ってください…、そのほうが、正直楽なので……」
「……、…、…」
ソンジュさんは前を向いたまま、それに何も言わなかった。
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