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           何がなんだか…――。     「…………」    もう情報量が多すぎて、頭の中がぐちゃぐちゃだ。  何が真実で、何が嘘、偽りなのか――もう僕には判断しかねるところである。    ソンジュさんのトレンチコートを羽織ったままの僕の腰に、そっと手をあてがってるソンジュさんは、何かしゅんとした顔をして僕の伏せた横顔を見てくる――と、クゥン…喉を小さく鳴らした。  が…「んンッ」と、またそれをさも自分の喉の調子の悪さに起因したものです、と示すように咳払いをし、ソンジュさんは前をキリリと見据え。――たかと思うと彼、僕の胸元を、チラリと見下ろし…またさっと、顔を前に戻す。   「――本当は、家の前に着けてもらってもよかったのですが。…しかし今回は、地下から家に入るほうがいいでしょう。…では行きましょうか、ユンファさん」   「………、…」    こんな格好じゃ、確かに…レイプされた人のようだしな。恥ずかしい思いをさせてしまうよな――と、いうか。  もしかして、僕を、…僕が恥ずかしい思いをしないように、気遣って…――僕がそう考えている間にもソンジュさんは、僕の腰を抱いてスマートに誘導してくる。  僕はそうして誘導されるまま、ソンジュさんに着いて行くように、彼の隣を歩く。   「…………」   「…………」    歩きながら、僕は考えている。    別に…――僕は本当に、もうなんだっていい。  このままやっぱり期待ハズレでしたから、ケグリさんのところへ帰ってとソンジュさんに言われたとしても、…少なくともケグリ氏なら、本当に僕の両親のことを助けてくれてはいる。――わかりました、ありがとうございました、と僕はその時点で素直にノダガワ家に帰るつもりだ。  性奴隷として扱われようが、妊娠させられようが、ケグリ氏と結婚することになろうが、…もう何をされたって今更だ、僕はもうどうなったって構わない。    もう僕が守るものなんて、それこそ本当に――大切な両親くらいなのだ。    たとえばこのまま本当に、ソンジュさんと籍を入れることになろうが、別にそれはそれだ。――両親さえ困らなければ、僕は喜んで籍くらい差し出す。…むしろ、それで汚点になるのはソンジュさんのほうだ。    九条ヲク家に生まれた人が、性奴隷の僕なんかと結婚?    その結婚が確実に汚点となるのは、彼である。  そして、まさか賢いソンジュさんが、そのことをわかっていないはずもないだろう。――すなわち、ソンジュさんが僕と結婚したいだなんて、まずもって本気度合いの低い話に違いないのである。    どうして()()()()()をしてきたのかはわからないが――少なくとも、何かしら理由があってのことだろう。  その何かしらの理由は、もちろん愛に基づいているものではないだろうが。――愛されるわけない。   「………、…」    僕なんか、愛されるわけがない。  僕には、なんの価値もないのだから。――このオメガ属の体…それも、普遍的なオメガ属よりももっと出来損ないで、無駄に図体ばかりがデカくて、可愛げのないブスで、…ただ、穴がオメガなりであるから、というだけの価値しかない。    あるいはオモチャとしてもてあそんで、泣いたら面白い、傷付けたら面白い、ゲームの景品として欲しい――この図体のデカいアルファみたいな僕を虐げたら可笑しくて、痛快で、好きに言いなりにさせ、服従させたら気持ち良い。妊娠させたらあるいはアルファの子供が生まれるかもしれない。――そういう価値しか、僕にはないのだ。      別にもう――僕のことなんか、好きにしたらいい。     「………、…」    僕が、ソンジュさんの初恋の人…?    まさか――ありえない。  もしやソンジュさんが、あの『夢見の恋人』の作者――pine(パイン)”先生であったりして、…なんて、とんでもないファンタジーを考えそうになったが。    それこそユメミは、まさかの僕がモデルで…――もしかするのならあのカナエは、ソンジュさんご本人がモデルで。…確かにカナエは、ソンジュさんに似ている。青い瞳、金髪の、アルファ属の美少年だ。――まさか、いつかの僕に惚れたソンジュさんが書いた物語であったりして、なんて。    ありえない。    それは、とんでもないファンタジーだ。  なぜなら、pine先生は――僕よりも三つ年下なのである。……しかしソンジュさんは、どう見たって三十代か、せいぜいが僕と同世代くらいの人である。  この落ち着いた紳士の彼が、まさか今――二十四歳の若い青年であるはずがないのだ。         

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