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                「…ユンファさんが嫌なことは…しません。」   「…あ、あの…いえ、僕が嫌といいますか…」    意外とソンジュさんって、わかりやすい感情表現をしてしまう人なのかもしれない――からこそ、勝手にキューンと鳴る喉を、グゥゥと唸ってしまう喉を、ガルルッと威嚇してしまう自分を恥ずかしく思っているのか(彼、するとたびたび咳払いでごまかしていただろう)。  いや、だからといってほだされちゃ駄目なんだが。――ときおり犬…いや、狼のような感情表現が見えるとはいえ、ソンジュさんは間違いなく狡猾なサディストである。   「…どうせすぐ家に着くなら、家でも…あの、ここでキスするのは正直、ソンジュさんにとってはリスクが……」   「嫌じゃないんですね。なら俺は構いませんから、しましょう、キス。…」    パッと僕を見て目をキラキラぁ…――とさせたソンジュさんは、…もし本当に犬なら、今しっぽをブンブン振っていることだろう。   「……、でも、大丈夫なんですか…?」    僕がいぶかしく問うと、ソンジュさんはニコッと笑って頷く。   「…ええ。そもそも俺は、ここの住民に()()()()()()()()()()()()()()()()()()ので。」   「はあ…本当に…?」   「はい。…いやご心配ありがとうございます。やはりユンファさんは、大変思慮深い方なのですね。」    爽やかな微笑みでそう言われると、…結局僕は押し切られてしまう。   「……まあ、大丈夫なら…もう、どうぞ…、…」    もう、別に――好きにしたらいい、と、結局ほだされた僕である。   「ふふ…では。……」    うっとりと半目開きで至近距離、僕を見つめてくるソンジュさんの淡い水色の瞳――彼はふ、と顔を傾け、結局僕の唇をそっと…優しい力で、食んできた。   「……ん……」   「……、……」    はむ、はむ…と、まるで僕の唇を柔らかいゼリーだとでも思っているかのように、そのゼリーを崩さないように優しく、優しく唇で食むようなキスをしてくるソンジュさんに、僕は目をつむった。…そのまま、返さないのも失礼だろうと僕は、同じような加減で唇を動かす。   「……ふ…、…」   「……、…」    なんて…優しい、キス。  ふわふわとやわらかいキスだ…このキス、やっぱり――カナイさん、……やっぱりソンジュさんは、カナイさんだと思うのだ。   「………、…」    涙が滲んでくる。――あの夜を思い出して。  カナイさんはあの夜も、僕にこの優しいキスをしてくださった。――このままの、同じキスを。    でも、もしかすると貴方は、あわやひどい勘違いしている。…僕が、大切にするべき宝物なのだと。――いや、確実にソンジュさんは勘違いしているのだ。…僕のことを“美しい(ぎょく)”なんて言ったくらいなのだから。    僕はそんなに綺麗なものじゃない。  現に今もソンジュさんに口付けられて、こんなに優しいキスに、少しずつ子宮をひりひり疼かせている。…今にも淫蕩な気分に溺れそうになっている。――ぬる…と僕の口の中へ入り込んできたソンジュさんの舌は、僕なんかの機嫌を伺うようにつつましく、僕の舌をチロチロ舐めてくる。   「…は…っん……、…っ」    僕は息継ぎをし、いよいよ顔を深く傾け、ソンジュさんの舌にくねくねと自分の舌を絡めた。――ねちねちとヒルが絡み付くように。ヘビがゾリゾリとその鱗で獲物を剃り上げながら、その身で絞め殺すように。  クチュクチュといやらしい音をわざと立てる。        溺れてしまう。もう体が熱い。          もう…――濡れている。              

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