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               そしてソンジュさんは、あいかわらず僕の手を引き、僕の腰の裏を抱いて、ゆったりとしたピアノの音に合わせて緩やかに踊りながら――人形のように整った真顔を、くいと少し傾けて見せる。   「…俺が思うにケグリは、ユンファさんに異常なほど執着しているように思います。――それこそ最終的には、貴方と本当に結婚したかったのかもね…」    ソンジュさんの言っていることは、僕もはなはだ同意するところだ。――「ええ」と合わせてステップを踏みながら答えた僕に、ソンジュさんは確信の自信を深めたのか、やや口調を強くする。   「…やはり貴方もそう思いますか。ケグリは、どうやらユンファさんに、本気の恋をしている。――分不相応な、ね。」   「…そうかもしれませんね…」    そこでかなり真剣な顔をしたソンジュさんは、さらにケグリ氏を責めるような、激しい強さのある口調で。   「…ですが、単純な恋心というのも少し違うかと。――あの男はおそらく、ユンファさんをあのまま支配し続けたかったのですよ。…」   「…………」    支配…――性奴隷として、ということだろうか。  ソンジュさんは僕のその考えを、やはり僕の目を見ただけで神妙に見透かしてきた。   「……ユンファさんはきっと、性奴隷としての立場のみのことだとお考えでしょう。…貴方は今、自分は心の底からケグリたちに支配などされていない、とお思いかもしれません。――しかし、()()()()()()()()()()()()()()。…いいですか、ユンファさん。」   「………、…」    僕は――ソンジュさんの、僕の目を射抜くような真剣な眼差しをぼんやりと見ている。…その人の、ゆったりと言い聞かせるような強く固い声が、僕の頭にこう響く。     「貴方は、ケグリたちに、()()()()()()()()()()のですよ。…肉体のみならず、精神、思考も、感情も…()()、ね。」     「……、…、…」    僕…――僕、…支配…支配されて、いる。  ソンジュさんは、少しまぶたを細めて目を翳らせる。   「ユンファさんの尊厳を壊し、言いなりの性奴隷として…もう戻れない、あとには引けないという状況になったユンファさんを支配し、最終的には……」   「わからないんです…、…」    そうなのか、どうなのか…僕にはもうわかっていない。判別がつかないのだ。――自分の意思なのかもしれないし、ケグリ氏の意思なのかもしれない、ケグリ氏に言われたから、指示されたからそうなのかもしれないが、…彼らの命令に頷くのはたしかに、僕なのだ。   「わからないんです……、僕、でも…ケグリ氏たちが見えない僕の思考まで、支配できるわけがないんじゃないですか…、それに、彼らを憎んでいました、僕、ちゃんと……」    するとソンジュさんは真剣な目をしたまま、「いいえ」ときっぱり否定した。   「……それこそが、()()()()()()()()()()の恐ろしいところなのですよ…」   「……マインドコントロール…?」    なんだっけ、それ…――。  ソンジュさんは立ち止まり、つう…とその切れ長のまぶたを鋭く細めると、さらに僕の腰の裏を抱き寄せてくる。   「…マインドコントロールというのは…――他人の精神を支配し、人知れず操るものです。…しかし、そのマインドコントロールをされている人は、あたかも自分の意思で決定、判断したというように感じている…、貴方は元来、とても賢い人だ。」    ソンジュさんは、鋭く真剣な目をしている。   「…ユンファさんには、多角的かつ複雑に思考する能力がある。現に…――先ほども決して、貴方は二元論で物を語りはしなかった…、ユンファさんは、属性によって判断できることはない、とおっしゃいましたね……」   「………、…」    僕は、小さくそれに頷いた。  するとソンジュさんは、その眼光を強めたのだ。     「…しかし…――ご自分を淫魔と称するユンファさんは、()()()()()()()()は…善と悪、その()()()()()()()()()()()()()()()()()()でしょう……」             

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