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「…まずは契約内容を、口頭でお伝えしますね。…変更したい点があればおっしゃって。…それこそ契約内容は、二人で擦り合わせて決めるべきことかと思いますので……」
そう神妙な表情で言いつつ、彼の目線はその――“性奴隷契約書”へ、切なげに注がれている。
「………、…」
性奴隷契約――性奴隷と、内容を擦り合わせて決める?
いや、別に僕は構わない。――僕のことを性奴隷だとは思っていない。…ソンジュさんはそう言っていた。
そう言っていた彼が、僕とのその“性奴隷契約書”を用意していたことは、確かに矛盾しているようだろう。
ただ…僕は、何となく――ソンジュさんは、僕のためにあえてこの“性奴隷契約書”を用意していたのだと、直感している。…たとえばケグリ氏たちのように、僕のことを性奴隷として支配し、僕の肉体をめちゃくちゃに陵辱して、僕を都合のよい存在としたい。――というような思惑ではない。きっと…ソンジュさんは、僕のためを思って、…僕を安心させるため…というように、僕とこの“性奴隷契約”を交わそうとしているような気がするのだ。
ソンジュさんは僕の目にすっと神妙な目線を向けながら、滔々 となめらかに話し始める。
「…では、まず一つ目。――ユンファさんは、常に俺の性奴隷であるわけじゃありません。…俺がプレゼントする首 輪 を 着 け て い る と き だ け 、貴方は俺の性奴隷となります。…それ以外のときに関してはもちろん、ユンファさんは、俺の恋人です。…」
「…………」
と…――つまり僕は、あのノダガワ家にいたときのように、常にソンジュさんの性奴隷として過ごす、というわけではないらしい。
首輪が性 奴 隷 の 証 、というのは同じだが、それこそケグリ氏は、毎日僕と風呂に入るとき以外はあの赤い首輪を外さなかった。――そして風呂から出たらすぐ、また僕の首にあれを嵌め、南京錠で鍵をかけていたのだ。
何となく――や っ ぱ り 、というような安堵感がある。
ただ…問題があるのだ。――僕が今もつけているこの赤い首輪、…南京錠が付けられている。…つまり、ケグリ氏以外の誰もがこの首輪を、外すことはできない。
ふふ、と僕の疑問の目を笑い、ソンジュさんは口角を上げて。
「…なお、俺が首輪をつけろ、と言った場合と…ユンファさんが性奴隷となりたいとき、自発的にこの首輪をつけた場合……その両方の場面で、俺たちは一時的にご主人様と、性奴隷の関係性になるものとします。…」
美しく微笑むソンジュさんは、僕に軽くくいとその小さな顔を傾けて見せる。
「…これを簡単にいえば…そ う い う 気 分 のときに、そ う い う プ レ イ をする、ということです。またもちろん、お互いにそれを拒む権利も有します。」
「…………」
ということは、つまり――あ く ま で も プ レ イ 。
ケグリ氏たちのように、僕を徹底的に性奴隷として扱い、人としての尊厳を、本 当 の 意 味 で 奪 う 形での性奴隷契約ではなく――あくまでもプレイ として、僕は首輪を着けているときだけソンジュさんの性奴隷となり、またそのときばかりソンジュさんは、僕のご主人様となる…ということらしい。――や っ ぱ り が、重なる。
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