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              「……婚姻…契約、というのは…」    僕がそっと目線を向けると、ソンジュさんは手にある書面を見下ろしたまま――ややあって。   「…簡単にいえば…俺とユンファさんが、契約し…結婚をする…――“契約結婚”、ということですよ」   「………、…」    契約…結婚。  ソンジュさんは、僕に「結婚してください」と。――契約…なら、あれは、……もうわからない。  僕はうつむき、手に持ったままのマフィンや、水筒のフタに入った薄茶色のミルクティーを見下ろす。    僕と本当に結婚がしたい、のか。  あるいはさっきのプロポーズは、その“婚姻契約”を持ちかけられただけ…だったのか。――正直いって、わからない。…ただ…もしかしたら僕はむしろ、そうして契約上の、と付いていたほうが――まだ納得し、受け入れられるのかもしれない。  もし僕のその気持ちを理解し、見抜いていた上でソンジュさんが、僕に恋人、結婚と…そうした“契約”を持ちかけているのだとしたら――。   「…………」   「…ふふ…、とりあえず、マフィン召し上がってください。…お腹が空いていては、頭もよく回らないでしょうし、物事をネガティブに捉えてしまうものでもありますから。お腹が満ちれば、お気持ちも多少は落ち着くかと」    ね、とソンジュさんは僕の肩を撫でて、そう優しく促してくれた。   「……、…はい…」    それもそうだが…凄く久しぶりに、マフィンなんて甘くて美味しいものを食べる僕は、また少し、怖い。――最近じゃ精液塗れの残飯とか、そんなものしか食べていなかったから。…ソンジュさんは僕のそれを見抜いたのか、僕の耳にそっと唇を寄せてきた。   「…じゃあ…俺がユンファさんに、魔法をかけてあげる…」   「……、魔法…?」   「…うん…、俺が()()()()()()から…そうしたら貴方は、きっと食べられるよ……」    そう言ってするりと離れていったソンジュさんは、片手に持ったままのファイルの中から、一枚の紙を取り出した。――それは…。   「…たとえ、これが()()()()()ではなかったとしてもね…、俺は、貴方のためならば何でもいたします…、……」   「………、…」            “性奴隷契約書”――。           

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