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              「……、…、…」    今ソンジュさんに口頭で聞かされた内容と、その“性奴隷契約書”の書面の内容は、全く相違がなかった。――つまり、完全に同じ内容である。  ソンジュさんは「確認が済んだら、サインしてくださいますか」と、…ベッドサイドテーブルの上にあるボールペンをさっと取り、僕の右手にあるマフィンを預かって、そのボールペンを握らせた。   「…ぁ、ええ……、…」    えっと…別に、構わないのだが。  この“性奴隷契約書”にサインするのも、またもちろん“恋人契約書”にサインするのだって、僕は決してやぶさかではない。――別にやぶさかではないが…、何か。  ()()()()()()…“()()()()――それらがどうも、引っかかっているのだが。    まあいいか…と、僕はその“性奴隷契約書”に、自分の名前『ツキシタ・ヤガキ・ユンファ』を、ソンジュさんの膝の上、ファイルを下敷きにして書いた。――それからもう一枚、と取り出されたその“恋人契約書”にも、僕は続けてサインする。    そうして僕がサインする――正式にソンジュさんとその両契約を締結する――と、ソンジュさんはその二枚の契約書をさっさとファイルの中へしまい、「写しはいかがいたしますか。…これはユンファさんがいつでもご覧いただけるように、常にこの冷蔵庫の中へ入れてはおきますけれど」と事務的に聞いてくるので、…なら別に、と僕は首を横に振った。    するとソンジュさんはふっと不敵に笑い、そのファイルに挟まった二枚の契約書を、また冷蔵庫の中へとしまいつつ。   「……念のため、言っておきますがね…――そもそも…“性奴隷契約”なんてものに、法的拘束力などカケラもありません。…まあもちろん、“恋人契約”に関しても同様…性奴隷契約なんてものは結局、双方の()()()()()()()()()()以上の意味は、持たないものなのです。…」   「………、…」      え…――と、僕はキョトンとした。         

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