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               僕の頭を撫でつつ、さらに言葉を継ぐソンジュさんは、はは、と少し困ったように笑ったのだ。   「…それに、さっきの知識にしたって、結果的に俺が貴方よりも多く知っていただけですよ。――俺だって、ユンファさんから教えていただいたことはいくつもありますし、これからも俺が、貴方から学ぶことはとても多いに違いありません。」   「…………」    正直…やっぱり…――ソンジュさんは、素敵な人だ。  シンプルに優しくて、やはり僕には、どうしてもこの人が、悪い人のようには思えない。――いや、たとえソンジュさんが悪い人であったとしても、少なからずその人に救われた僕は、彼になら騙されていいと本気で思っているのだが。  ソンジュさんは緩めたまぶたの下、愛おしそうなその美しい水色の瞳で、僕の目を見つめてくる。   「それに…色恋に関して疎いユンファさんも、はっきり言ってとても可愛いです。正直キュンとするよ、俺は…」   「……、……?」    可愛い…――知識や経験がないことが、可愛い?  どういう理屈だ? そんなものなんだろうか? 子供っぽいとか、馬鹿っぽくて、ということか?  僕がソンジュさんの顔を見ながらなんでだ、と考えていると彼、困り顔になり「…いや、やっぱり少し悩ましいかもしれません…、まさかこれほどポカンとされるとは…」と、ボソリ。――僕が馬鹿すぎてか?    そしてソンジュさんは仕切り直すよう、また僕の目をじぃっと甘く見つめてくる。   「まあとにかく…それとね、俺からユンファさんに注ぎたいものは全て、何もかも嘘じゃありません。――貴方への気持ちも、俺が貴方にして差し上げたいことも、そのすべてが()()()()です。…俺からユンファさんに捧げる一挙手一投足、一言一句はすべて、俺の気持ちからの()()()()()()()()()に基づいているものなのですよ。…」   「……、……」    うっ…――ロマンチックすぎる。  うっかり、僕はロマンス作品のワンシーンに入り込んだのか、ぽーっとした現実味のない今に目が回りそうだ。…顔が火をつけたように熱くなり、僕は目線を伏せて逃げる。 「……ふふふ…まあ、この言葉すら優しい嘘、甘い夢に思われてしまうのかもしれませんが…――いずれ俺は必ず、貴方の信頼を勝ち取ってみせますよ。…」   「……っ」    しかし、くいっと顎を掴まれて上げられ、――目があったソンジュさんは、したりと強気に笑っていた。   「……愛しています、ユンファさん…」   「……、…、…」    むしろ…僕、このほうが死ぬかもしれない。  この顔の整ったソンジュさんに、これから一週間…?  こういうロマンチックをたっぷり注がれる可能性が頭にチラつくと、耐え切れる気がしない。――僕の人生の中のロマンチックなんて、せいぜいがあの『夢見の恋人』だけのことだ。…はっきり言って僕は、恋愛小説を始めとしてロマンス作品なんか、正直あの小説しか触れてこなかった。  僕は顔を下へ背け、真顔で目を開き、パチパチとまばたき――熱くなって乾いた目玉に潤いを求める。   「……はは、可愛いな…シャイなんですね」   「…ぁ、ぃぇ……」    シャイというか、まあ処女は失いこそしていても、いろんな意味で童貞だし――いや、仮にも一週間まともに僕が恋愛をするとなったら(いわく“恋人プレイ”では駄目だそうなので)、…初手がこのロマンチスト作家様である。確かに僕は二十六まで何の経験もなかったが、まあそれはさておいても、感覚的な意味で僕が普通レベルの男だとすると、正直どうも片手落ち感が否めない。    そもそも…興味が、なかったのだ。  僕が恋愛的な憧れを持つようになったのも、あの『夢見の恋人』に影響されたからだ。――逆にいえば、僕の恋愛の知識はほぼあの作品の情報の他にない。…そりゃあ“恋人プレイ”はやってきたが、あんなのは人が求めてきたままにそれっぽく振る舞っていただけであり、リアルな恋愛に関しては僕、ほとんど初めて恋をするようなものなのである。   「…ぃゃぁ…どうしたらいいんでしょうか、僕……」    どうしようか――何気にピンチかもしれない。   「…どうもしなくていいんです…、ただユンファさんは、俺を愛してくださればそれで…――ふっ…ククク…」   「………、…」      貴方に言ったら、おこがましいことだろうか。      それに関しては――もう。             

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