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                 僕が中一のとき、だったか――。  父さんと母さんは、僕が彼らと、血の繋がった家族ではないことを、僕に打ち明けてきた。    テーブルを挟んで座り、僕に向かい合っていた二人はなぜか、自分たちが悪いことをしたわけでもないというのに、とても申し訳なさそうな顔をしていた。  はじめに僕ははっきりと、単刀直入に「ユンファは、自分たちとは血が繋がっていない子供なんだ」ということを言われた。  そのあと、母さんは重たい口をそっと開いた。「私はね、ずっと赤ちゃんが欲しかったの。でもね、お腹の病気で、赤ちゃんがどうしてもできないの」と言ったが、彼女はそのことに関して、さほどシリアスになっていた様子はなかった。ただ、よほど僕のほうを気遣っているような、慎重な口調であった。――「お父さんも、それをわかっていて私と結婚してくれたんだ。でも、あるときね…神様が、ユンファをくれたのよ。ずっと赤ちゃんが欲しかったけど、諦めてたところに、赤ちゃんのユンファが来てくれたの」そう優しく微笑んだ母さんは、複雑そうな顔をした父さんへ振り返った。    父さんはうんうんと頷き、僕の目を見ていた。  そして「正直、忘れていたくらいなんだ。ずっとユンファには言わなきゃいけないと思っていたんだけど、君があまりにも僕たちの、本当の子供のように育ってくれて…楽しくてね、本当に幸せで、僕ら、忘れていたんだ。――君が、養子なんだと。…血の繋がりがない、…でも、家族だ。ユンファは僕たちの本当の子供だ、でも、でもな、君だっていつか知らなきゃならないと…」――父さんのほうが、泣いていた。…泣くのをこらえて、目を赤くして潤ませ、切実に、ときおり詰まりながらもそう言っていた。    そんな父さんを見て、母さんは笑った。  何も泣くことないでしょう、と笑い――「でも血の繋がりがないからなんなの? とか、思っちゃ駄目? 私、ユンファを産んだようなもんだと思ってるよ。――お腹を痛めてはないんだけど、なんか…ユンファを産んだ気がしてるんだよね。ゼロ歳のときから貴方を、私たち苦労して育てたんだもん。ねえ多分、私が記憶喪失になってるだけじゃないかしら?」なんておどけて、父さんはそれに何も言わず、鼻をず、ず、と啜っては、ティシューで鼻をかみ。   「…僕はユンファを愛してるんだ、本当に愛してる、こんなに愛して、…それだけはわかってくれユンファ゛…っ」――と、いよいよテーブルに突っ伏し、…おいおいと号泣した。    そんな父さんは「君を傷つけたならごめん、ごめんなユンファ、君に幸せになってほしい、僕はユンファのことを、何よりも宝物だと思ってるんだ、奇跡だ、諦めていた子供ができたんだから、本当に君は、神様からの贈り物だったんだよぉユンファあ゛…っ」と泣いてガラガラの声でそう続け、母さんは父さんの背中を撫でながらも。   「ちょっと。()()って何よぉ、私も産んだ錯覚してるくらい愛してるの! ずるいでしょ?」と、嫌そうな顔をして、父さんの背中をバシバシ叩いていた。「自分だけ株上げようとしないでよ。ふざけんじゃないわよ、ぶっ飛ばすわよ」「ごめんジスさん、ごめんだって僕、…だってユンファに嫌われたくないんだ、…ユンファに嫌われたら僕生きていけないよ、…」「あたしだって嫌われたくないわよ! アンタずるいわ!」――僕は呆然として、僕の両親のこの掛け合い(夫婦漫才)を見ていた。    とにかく…この二人の様子からして、僕は本当に愛されている、ということはよくわかった。――もしかしたらその告白に、その当時は何かしらふっと複雑な思いが一瞬あったのかもわからないのだが、…それは本当に、一瞬のことだったと思う。     「……――。」      会いたい。  本当は、凄く会いたい。      僕はいつも、両親のことだけが気掛かりだ。        でも…――どうして会えるだろう。  どうして、こんなふうになってしまった僕が、両親の前に立てるだろうか。――とても恥ずかしくて、恥ずかしくて、情けなくて…とても無理だ。…無理だ、もう…会えない。会わないほうがいい。      愛してる――誰よりも、幸せを願っている。  忘れないでいてくれたら、僕はもうそれだけでいい。        今まで本当に、ありがとう。         

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