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                  「――…ッハ、……」    ビクンッと跳ねた自分の体に起こされる。  ドクドクと痛む心臓に、全身に伝った汗が僕の体を舐め回し、――しかし、…眠りから覚めて見えたものは、   「……、大丈夫…? 怖い夢を見たのだね…」   「…は、…は…、…ソンジュさん……」    約束通り、僕の手を包み込んだまま、起きていた――ソンジュさんの、心配そうな顔だった。  僕は悪夢を見ていた。――いや、悪夢、というよりは、記憶である。  風俗店『DONKEY』での()()()()()()()…それと、僕は最近毎晩、眠る前に神へと祈るようになった。…そして祈りながら眠りに落ちることも多く、大概は左耳につけたピアス、銀の十字架を握ったまま眠る。――すると、不思議と安心するのだ。  まるで神様に手を包み込まれているような、そんな安心感がある。    ただ…そうして眠っている僕に忍び寄り、ノダガワ家の誰かが、眠ったままの僕を犯すこともしばしばだった。――寝込みを襲われ、勝手に体を触られ…僕は、あの家では眠るとき、女性物風の下着のみを着用するように命じられていたために、僕に誰かが挿入するのも容易かった。    僕の体は、男性器を迎え入れると、途端に濡れる。  自己防衛本能かもしれない。――あるいは、本当に僕の体が、淫魔のそれそのものだから、かもしれない。    あのときの僕は、そうしてケグリ氏に犯されながら――ケグリ氏に、祈ることを馬鹿にされながらも、…それでも神に祈った。…ぶつぶつと声に出ていたのかもしれない。ケグリ氏は楽しげに、そんな僕を馬鹿にし、犯して、お前は淫魔だ、お前の本質は悪魔だ、馬鹿め、この淫乱、神の許しなど、罪深いお前が得られるはずもないのに、…そう言いつつも、むしろなぜか、ケグリ氏はいつもより興奮し、――あの夜は一晩中、ほとんど抜かず、ひたすら僕の膣内に、何度も何度も射精した。    僕はあのとき、あまりにもショックで…――せめてもの小さな聖域、僕の大切な箱庭をも、ケグリ氏に犯され、穢されたような気がした。  十字架を握りしめ、ひくひくとしゃくり上げながら犯され、終わったあとも一人、僕はベッドの上でうつ伏せになり、啜り泣いていた。――惨めにも膣口から精液を垂れ流し、事後の男性器を無理やり口で清めされられたために、口から生臭い唾液を垂れ流しながら、思っていた…あぁ、僕は、そうか、僕は、本当に。    本当に、淫魔なんだ。  僕は悪魔なんだ。――決してもう、許されないんだ。  救われないんだ…――だから僕は今、犯され続けた。…ナカに何度も出されて、好き勝手されて…眠ることすら許されず、憩いの時間さえ、神は僕に与えなかった。  神は許さなかった。神は僕なんか救わない。…悪魔を救う神はなく、この地獄で罰を受けている僕を、きっと自業自得だと天国から僕を見下ろし、嘲笑っている。――これさえも、神のみこころ。      僕なんかが助けを求めても、無駄なんだ…――。      それでも僕は、…神様に縋ることをやめられなかった。  罪深い僕が救わないとしても――どうしても僕は、救ってほしい存在があった。…お恵みを与えてほしい存在が、幸せになってほしい存在があったのだ。彼らは何も悪くない。むしろ彼らは、貴方に愛されるべき存在だ。彼らは、許されるべき、救われるべき存在なのだ。      せめて…僕の両親のことは、お救いください――。       「……はぁ…、…」    ため息すらカタカタと震えている。  僕の目頭の涙を、指先でそっと拭うソンジュさんは、「大丈夫だよ…此処は安全だからね」と――僕の激しく波打つ心臓を、その荒波を鎮めようと、優しく言ってくださる。   「…これじゃあ、寝るにも疲れてしまうね…、それだけユンファさんの心が、辛い状況にあるということだよ……」   「………、は……」    僕はぎゅっと眉を寄せ、…ソンジュさんの体にくっついて、縮こまる。――怖い。目を瞑ることさえ怖い。…またあんな夢を見てしまいそうで、目を瞑ったら一人になりそうで、無防備になってしまいそうで、まぶたの裏に、またすぐ怖いものが浮かんできてしまいそうで、――でも…目が覚めても、貴方がいてくれて、本当によかった。…あれはもう、夢になったんだ。   「……大丈夫だからね…、俺が守ってあげる…」   「……は…、…、…」    僕を抱き締め、僕の後ろ頭を撫でてくれるソンジュさんに、…僕は頷いた。    あれはもう、()()()()()()んだ――。         

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