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「………、…」
僕の唇が、勝手に突き出される。
いや、そりゃはしゃぐだろ。――と。
思えば、なのだが…庶民の僕が、こんなセレブな浴室にいて、まずはしゃがないわけがない。――そうだろ?
たとえ、僕が二十七歳の男であったとしても、この感じはどうしたってはしゃいで仕方がないシチュエーション、そしてその場所ではないだろうか?
「……、…、…っ」
純粋な少年みたい? 可愛いだ?
いや。――多分、いま五十代の僕の両親だって、はしゃぐに違いない。…つまり、特別僕が子供っぽい…なんてことはないはずだろう。
端的にいおう。
…僕は今更――物凄く、恥ずかしい。
「………、…」
泡風呂なんかに、つい子供みたいにはしゃいでしまって、ソンジュさんに可愛い、なんていわれたことに、…今僕は、何ともいえない恥ずかしさを感じている。――カアッと僕の両耳の周りにだけ、真夏の熱い空気がじっとり、訪れて纏わりついているようだ。
つまり、ソンジュさんの「可愛い」は、こういうことだと思うのだ。――僕が、二十七歳という年齢に見合わず、どうも子供っぽい男だ、と。
そもそも恋愛に疎い件に関しても、そうして子供っぽいと思われている節がある。可愛い、可愛いって、無知で馬鹿で、経験の足りない子供みたいだ、と。
ある意味では何も知らないから穢れていないようで、無垢そうに見えなくもなくて、いわゆる“天然”というような、――ヌけていて、脇が甘くて、本来その“天然”というのは別に褒め言葉とも言い切れないが、一部の人には褒め言葉となるじゃないか?
しかし僕が思うに、“天然”というのは――ことに、男へ言うその“天然”というのは――子供っぽい、という。
ふんわりと君は馬鹿だ、ふわっふわの脳タリン、脳内お花畑、何も知らないんだな(笑)と…それを良く言えば。
(子供みたいで)可愛い、なのだろう――。
「……、…」
おい。――二十七歳なんだぞ、その年齢の男だ、僕は。
…なんというか…そう。――ちょっと、馬鹿にされたのだと思って、…ムカつく。あと三年も経てば、僕はもういよいよ三十歳。現段階でも三十路だ。
いくら僕が世間知らずの箱入り息子だからって、ご自分が経験豊富な人だからって、そこまで馬鹿にしなくてもいいじゃないか……――。
「……? ふふ、何をそんなに、ムッとして……」
「……ぁ、…あっそうだ…、…」
いや、いや、いや――ここは。
ちょうどいいことに、僕が立 派 な 大 人 の 男 だとアピールできるものが、真後ろにある。――今もなお、シャリッと…今、起こっている。
「…ナイフ…とか、ありますか。林檎、剥きましょうか?」
僕は、後ろのソンジュさんに振り返った。
むぐ、と目を点にして、唇を引き結んでいたソンジュさんは、うん、と頷く。…いや本当に、ナイフまであるのかよ…(聞いといてなんだが)――ゴクリ。…喉を鳴らして口の中のものを飲み込んだ彼、軽く立って、また隣の冷蔵庫をぱかり。
「………、…」
うぉデカ…ち、……僕は思わずサッと顔を背ける。
いや、同性なのだが圧 倒 的 すぎて、もはや目のやり場に困る――というかそもそも、男だって他人の男性器が見えるような場面では、目のやり場に困っているものだ――が。…数多の男性器を見てアレコレしてきた性奴隷の僕においては、はっきりいってこの困った感じ、だいぶ久しい感覚だ。
というのも…萎えていてそ の サ イ ズ は、やっぱり狂っている、という意味で――しかも、更 に デ カ か っ た アレが、アレ、アレが、僕のナカに、さっき…アレが全部…いやよく入ったな?
「…………」
本当によくやった、僕。
――いやに誇らしい気分になってきた。
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