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                「……ところでユンファさん、水はもうよいのですか」   「…あぁ、もう大丈夫です……」    ソンジュさんはまだ水要りますか、と聞いてきたが、僕はやや俯きがちなまま、力なく顔を横に振った。  すると「そうですか」と答えたソンジュさんは、シャリリ。――僕の後ろで、真っ赤な林檎に齧りついている。    ちなみになのだが…――この林檎にしろミネラルウォーターにしろ、どこから出てきたって。   「……、…ユンファさんも食べますか?」    と…僕の顔の横にかざされた、囓りかけの林檎。  赤い表皮がソンジュさんの鋭い歯にえぐられて、白っぽい黄色の身がぽっかりと見え、その均等に歯がえぐった筋道にしろ、じゅわりと黄色っぽい果汁が滲んでいた。  そして、ふわっと香るその瑞々しく甘い香りは、本物に近いベリー系の入浴剤の香りに混ざっても相性がよく、本当に良い匂いだとは思う。    だが、僕は今、食欲がない。   「…いえ…というか、なんか、…す、凄いですね…、林檎…――お風呂場に……」    呆れるくらい…別世界に迷い込んだような、それっくらいの衝撃を受けている。――たかだか林檎ごときに、なんて人は思うかもしれないが。  断った僕に、ソンジュさんは手に持つ林檎を引いてゆき、何か僕の後ろで得意げだ。   「……此処、サウナなんかにもなりますから…汗をかいたあとは水分のみならず、ビタミン、ミネラル補給も必要なのです。…汗をかくと、水分とともにミネラルなどの栄養も流れ出ていってしまう…――その点フルーツというのは、水分補給も兼ねられ、栄養価も高いですし、糖分補給もできますから…かなり理にかなった食材かと。…」   「……あぁ…なるほど…、……」    いや、それはそうかもしれないが――信じられるか?  この林檎やら、ミネラルウォーターやらが、どこから出てきたって――驚いたことに。  この浴室の、シャワーフックがある壁の対面――ちょうど浴槽の隣のその壁に、小さな冷蔵庫が埋め込まれていたのだ。…そして、そこにはミネラルウォーターやお茶、オレンジジュースなどのペットボトル、それから林檎などのフルーツが、いくつか入っていた。…セレブすぎる。   「……セレブ……」    ベリーの芳醇な香りが立ち込める、うす青い泡風呂に入りながら、隣の、苔生した黒い岩から流れ落ちる水を見る。…チョロチョロチョロ…という水音――落ち着く。    ――やはりセレブすぎる。   「…セレブ…? はは、どうも。…」   「…………」    褒め言葉として受け取られたらしい。  シャリリ…――林檎、皮剥かなくていいのか。  まあ、丸かじりしても問題ない果物だとは思うが。   「……、…、…」    いやセレブすぎる…――やっぱり、セレブだ。    泡風呂の中で、真っ赤な林檎を丸かじり。  もはや西洋映画でだって、そんなことしているシーンを見たこともない。      異次元レベルだ…――。       

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