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              「――まあ残念ながら…条ヲク家にまつわる者たちは、そうした非情なことをよくするのです。…」   「……、…、…」    冷ややかな低い声でそう言うソンジュさんに、ゾクリと悪寒が走る。――今にもうなじに噛み付かれて、あわや殺されそうなまでの恐怖があるのは、…()()()()僕が確かに、オメガ属だからだろうか。   「…条ヲク家の者というのは、はっきりいってみな勝手で、残酷なんだ。…倫理観という点でいえば、世間の人よりよほど無いといえるかもしれません。――オメガを伴侶にはしても、生み出すべきはアルファのみ、という家の勝手な都合で……」   「…………」    そうか…そういう、ことだったのか。  母さんから、そのことは何となしに聞いていた。――あの喧嘩のときだ――ただ…僕らの中でその話題はあれっきり、どこか暗黙のルールで、口に出してはいけないことのようになっていたから、あれ以上のことは何も知らないが。――でも、きっと僕の両親は、僕が五条ヲク家に生まれた子供なんだと、知っていたのだろう。   「…五条ヲク家に生まれたユンファさんですが、オメガ属で生まれたために…生まれてすぐ、七条家の末裔であるお宅、ツキシタ家へ…――養子に出された、そうですよ。…」   「…………」    なるほど、と僕は、不思議と穏やかな気持ちで、ソンジュさんのその言葉を受け入れている。  僕の両親は、あるいはいつか…――自分たちの口から、今ソンジュさんが教えてくれたようなことを、告げてくれるつもりでもあったのかもしれない。…今は言えない…そう言った母さんを、僕は信じている。   「…ちなみに…ユンファさんは、現五条ヲク家当主、ゴジョウ・ヲク・チュンファさんと…三条ヲク家、現当主の弟さんである、サンジョウ・ヲク・ユンバイさんご夫婦の間に、お生まれになられました。――まあユンバイさんは、五条ヲク家に婿入りされていますので、今の名字は五条、となっていますがね。」   「………、…」    ん…え、じゃあ僕、――つまり。  そもそもヲク家同士…というのもあるが、()()と、どちらにも付いているということはつまり、僕の()()()()()()()()()――()()()()、なのか。  いや、オメガを娶って、アルファの子孫を生むというから、てっきり…――それで僕は、アルファ属の血が濃い。    実の両親ともに、アルファ――で。  しかも母親は、五条ヲク家の、現当主――信じられない、…混乱してきた。   「…また、ユンファさんのお名前にも確かに――“五条の花”が付けられています。…と、いってもまあ、まずおわかりにはなられないかと思いますので、軽くご説明いたしますね。…」   「……ぁ、ええ……」    五条の、花?  …あ…確かにまあ、僕の名前は曇華(ユンファ)――月下美人という花から付けられた名前、だとか。   「…我々条ヲク家には、名前に各家ごとの象徴を用いるしきたりがあるのです。例の九雀(クジャク)同様、お守り、といったようなものでしょうか。――昔からこのヤマトでは、名前を含めた言葉に、何か不思議な力が宿っている…と、信じられてきましたでしょう。」   「…はい、そうですね…」    そう…――だからこそその名残りで、“正式な名前”。  …つまり名前の漢字は、両親と自分、そしてこれから配偶者となる人にのみ教える、という風習が、いまだこのヤマトには残っている。   「……ええ。たとえばそれは…九条ヲク家なら、()()です。――俺の名前もそう、松の樹と書いて松樹(ソンジュ)と読みますが……我が家は外から嫁いできた母以外、名に、この()()()()を持っています。」   「……なるほど…」    僕はぼんやりとしつつ、膝を抱えてソンジュさんの言葉を聞いている。――その人は相変わらず、僕の腹をゆるく抱いているのだが。   「……ええ。そして五条ヲク家の象徴というのが、つまり…()、なのです。もっといえば、五蝶(ごちょう)…蝶と花…ですがね。――そのため、現五条ヲク家当主のチュンファさんにも、(ファ)、という字がある。…そう…それは、ユンファさんの名前にもありますね。」   「…………」    僕の名前は、曇華(ユンファ)――つまりホンファの言葉で、月下美人という花の名前だ。  そして、僕の実の両親の名前は、ゴジョウ・ヲク・チュンファ、ゴジョウ・ヲク・ユンバイ…――。     「……、…、…」      いや、まさか…? まさか…とは思うが――。        ()()バイから――ユン。        チュン()()から――ファ。       「――……。」    もしかして――僕の曇華(ユンファ)という名前は、実の両親の名前を組み合わせた、名前なのか…?         

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