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「…この辺のホテルどこだっけなー」
「…………」
オメガ排卵期がきたオメガを、ただ犯したい。
この男の目的は、潔いほどに明らかだ。――世の人はまことしやかにこう噂する――オメガ排卵期を迎えたオメガの膣内は、ただ入っただけで動かずとも、もはやそれだけで射精してしまいそうになるほどの、極上の快感をもたらす。
たちまち性器から全身、脳に至るまでとろけてしまうような、極楽へと行ける体…――その噂を鵜呑みにして――この男はさながらハイエナのように、僕のオメガ属の体に、僕のフェロモンにたかり、ただ、そのオメガである僕を犯したい…というだけのことだ。
「…………」
僕はもういい加減慣れている。
このような男はこの世の中に、嫌というほど溢れ返っているのだ。――『DONKEY』のお客の中にも、そりゃあもういくらでも、うんざりするほどそういう男はいた。
あの店は、キャストのオメガにオメガ排卵期がくると、その間は休暇を取らさせるシステムであった。――ただそれを逆にいえば、キャストは定 期 的 に 一週間店を休む、ということになる。
するとその休暇から、オメガ排卵期の周期を逆算することなど、わりに容易なことなのだ――。
『…ねえユエくんさ…、明日あたりから、個人的に会わない? オレ明日くらいから、ちょうど仕事が落ち着くんだよね…――温泉旅行しよ。温泉、浸かりにいこうよ。』
こうして僕のオメガ排卵期の周期を逆算し、あわよくばソレがきた僕とセックスをしたい、と誘ってくるお客は、その実一人や二人じゃなかった。――まあそれ関係なく、そもそも個人的に会いたいというお客はいたが、やはりく る 前 が一番、個 人 的 に 誘われることが多かったものである。
とはいえ、店のルールで個人的なやり取りは禁じられていたが。しかし、そもそも僕はオメガ排卵期がくれば必ず『AWAit』で開催される、乱交パーティーの目 玉 商 品 として売り出されていたのだから、もはやそれ以前の問題である。
このところの僕は、毎月、あの会員制ハプニングバー『AWAit』で――こう、売り出されていた。
『オメガ排卵期の月 を犯し放題、中出しし放題、あなたも月 を孕ませられるかも!?』
その売り込み通り、僕は犯されてきた。
僕のオメガ属の体にたかる見ず知らずの男たち、何十人に好き勝手、めちゃくちゃに…――それも、事前に避妊薬を飲ませてもらえないことさえあった。
妊娠の恐怖に怯えながらも、叩かれるから、殴られるから、拷問されるから――ガタガタ震えて、引き攣った笑みを浮かべながら――『オメガ排卵期がきてる僕を犯してください、僕を孕ませてください、おまんこのナカにザーメンいっぱい出してください、種付けしてください、妊娠させてください』
…もちろん幾人もに中出しされたあとは、必ず避妊薬を飲ませてもらえた。時折土下座で泣きながら懇願させられることもあったが、それでも僕は、毎回避妊薬を飲めた。
だから僕は、受精こそしていたかもしれないが、着床…つまり妊娠の経験はない。――とはいえ、僕が妊娠させられるかも、と本気で怯えていたほうが、いわく臨場感があって面白いし、人は興奮するそうだ。
どうせ避妊薬を飲んでいるから大丈夫、と僕が安心していると、お客もそれを察してつまらなくなるんだと。
本当に妊娠させられるかもしれない…――そう僕が怯えていたほうが、中出しを楽しめるのだと。
「……、…」
――所詮僕なんかオモチャだ。
僕の体も、僕の精神も、…僕の魂…――僕のその全てが、あの店ではただのオモチャだった。
人を楽しませるためだけにもてあそばれ、金を稼ぐためだけに都合よく利用されて、およそ物扱いにも近い――有り体にいえばオナホ扱いだが、しかし――単なる本物のオナホよりは便利で、反応も返す馬鹿で面白い存在。
そんな性奴隷、そんな、家畜にも劣るただの性玩具。
そんな僕が…――ソンジュさんの側にいることを、許されるわけがない。
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