304 / 689

2

                  「…この辺のホテルどこだっけなー」   「…………」    オメガ排卵期がきたオメガを、ただ犯したい。  この男の目的は、潔いほどに明らかだ。――世の人はまことしやかにこう噂する――オメガ排卵期を迎えたオメガの膣内は、ただ入っただけで動かずとも、もはやそれだけで射精してしまいそうになるほどの、極上の快感をもたらす。    たちまち性器から全身、脳に至るまでとろけてしまうような、極楽へと行ける体…――その噂を鵜呑みにして――この男はさながらハイエナのように、僕のオメガ属の体に、僕のフェロモンにたかり、ただ、そのオメガである僕を犯したい…というだけのことだ。   「…………」    僕はもういい加減慣れている。  このような男はこの世の中に、嫌というほど溢れ返っているのだ。――『DONKEY』のお客の中にも、そりゃあもういくらでも、うんざりするほどそういう男はいた。    あの店は、キャストのオメガにオメガ排卵期がくると、その間は休暇を取らさせるシステムであった。――ただそれを逆にいえば、キャストは()()()()一週間店を休む、ということになる。  するとその休暇から、オメガ排卵期の周期を逆算することなど、わりに容易なことなのだ――。     『…ねえユエくんさ…、明日あたりから、個人的に会わない? オレ明日くらいから、ちょうど仕事が落ち着くんだよね…――温泉旅行しよ。温泉、浸かりにいこうよ。』      こうして僕のオメガ排卵期の周期を逆算し、あわよくばソレがきた僕とセックスをしたい、と誘ってくるお客は、その実一人や二人じゃなかった。――まあそれ関係なく、そもそも個人的に会いたいというお客はいたが、やはり()()()が一番、()()()()誘われることが多かったものである。    とはいえ、店のルールで個人的なやり取りは禁じられていたが。しかし、そもそも僕はオメガ排卵期がくれば必ず『AWAit』で開催される、乱交パーティーの()()()()として売り出されていたのだから、もはやそれ以前の問題である。  このところの僕は、毎月、あの会員制ハプニングバー『AWAit』で――こう、売り出されていた。     『オメガ排卵期の(ユエ)を犯し放題、中出しし放題、あなたも(ユエ)を孕ませられるかも!?』      その売り込み通り、僕は犯されてきた。  僕のオメガ属の体にたかる見ず知らずの男たち、何十人に好き勝手、めちゃくちゃに…――それも、事前に避妊薬を飲ませてもらえないことさえあった。  妊娠の恐怖に怯えながらも、叩かれるから、殴られるから、拷問されるから――ガタガタ震えて、引き攣った笑みを浮かべながら――『オメガ排卵期がきてる僕を犯してください、僕を孕ませてください、おまんこのナカにザーメンいっぱい出してください、種付けしてください、妊娠させてください』  …もちろん幾人もに中出しされたあとは、必ず避妊薬を飲ませてもらえた。時折土下座で泣きながら懇願させられることもあったが、それでも僕は、毎回避妊薬を飲めた。    だから僕は、受精こそしていたかもしれないが、着床…つまり妊娠の経験はない。――とはいえ、僕が妊娠させられるかも、と本気で怯えていたほうが、いわく臨場感があって面白いし、人は興奮するそうだ。  どうせ避妊薬を飲んでいるから大丈夫、と僕が安心していると、お客もそれを察してつまらなくなるんだと。  本当に妊娠させられるかもしれない…――そう僕が怯えていたほうが、中出しを楽しめるのだと。   「……、…」    ――所詮僕なんかオモチャだ。  僕の体も、僕の精神も、…僕の魂…――僕のその全てが、あの店ではただのオモチャだった。  人を楽しませるためだけにもてあそばれ、金を稼ぐためだけに都合よく利用されて、およそ物扱いにも近い――有り体にいえばオナホ扱いだが、しかし――単なる本物のオナホよりは便利で、反応も返す馬鹿で面白い存在。    そんな性奴隷、そんな、家畜にも劣るただの性玩具。  そんな僕が…――ソンジュさんの側にいることを、許されるわけがない。       

ともだちにシェアしよう!