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              「…ねぇねぇ、おにいさんたちさぁあ…?」 「――……?」    甘ったるい、のんびりとした口調の、可愛らしいその女性の声――いや、いっそ幼い女の子の声に聞こえるほど、甲高く甘い響きの声――は、ある意味で裏切らない。  というのは、そこに立っているこの女性――なんて言うんだったか…あぁそうだ、――ゴスロリ…?  そういった、華奢な鎖骨や首元が出ている白い襟(黒いラインが入っており、何となくセーラー服の襟っぽい)に、黒いフリフリのワンピース…それもただのワンピースではなく、ドレスのようなひらひらのワンピース…を着ている、容姿からしてもツインテールの可愛らしい女性なのだ。――その可愛い声に見合った見た目、というか。   「…? ちょっとごめん、一回切るわ、…」   「…………」    男もまた彼女に話しかけられ、異変を察して、電話口に切ることを伝えると、通話を切ったようだ。  そしてそのゴスロリの彼女は、くいっと小さな顔を傾けて、…その実隣り合う僕と男の――男のほうばかりを覗き込むように、じっと大きな丸い、ピンクの目で凝視している。   「…あのさぁ…何してるのお?」   「いや何って、…」   「いけないんだぁ〜、こんなとこで……」   「…………」    言いながら彼女は顎を引き、男のことを上目遣いで見つつ、腰の裏に両手を隠し、そうこてんとまた反対方向に小さな顔を傾ける。…さらさらと動いた彼女の長い、軽く巻かれたツインテールの黒髪には、彩度の低い濃ピンクのメッシュが入っている。  そして彼女の黒いチョーカーをした細い首から、白く華奢な鎖骨が見えるほどまで、そのワンピースの襟元は開いて、胸の中央には黒いリボンがついている。    背は178センチの僕と比較するに160程度か…、大きな二重まぶたの目――キラキラと輝く、ピンク色の瞳――桃色の小さな唇に、控えめながら綺麗な形の鼻、ひらひらのゴスロリワンピースと、リボンとレースの髪飾りで彩られたツインテール――色白の小さな顔は、まるでお人形さんのように可愛らしく整っている。   「…ねえ…まりあたちの車のそばでぇ、そ〜いうことやめてよお〜…ツーホー。しちゃおっかな?♡」   「…………」    にこっと笑った彼女、えっと…フランス人形…? のような――その容姿にしろその甘ったるく高い声にしろ、ある意味では女性らしいというより、少女らしいというような…そんな女性だ。だが、思うに成人しているようには思えるのだ。  そして彼女はどうやら、僕が背にしてしたワゴン車の持ち主だったらしく――フェラチオの場面に出くわしたわり、やけに彼女、平然としてはいるが――。   「…あっすんません、早く行くよ、…」   「…………」    言いつつ赤髪の男は慌てて下を向き、自分のモノをしまっている。――しかし早く行くよも何も、もたついているのはこの男だ。…もちろんこの男の心境こそ(同じ男として)理解はできるが、かなり焦っているらしい。   「…ちょっとレディ! えってか嘘、あたしたちの車に…やだこんなことある? ――てかレディ離れて、この男よ、この人連れてっちゃったのコイツだから! 危ないから離れて!」   「……、…?」    え、…こんなことあるのか…――とは、僕も思った。  というのは、先ほど僕が地面に座り込んだとき、「大丈夫?」と道ばたで声をかけてくださった――あの、ハスキーな声をした女性もまた、カッカッカッカッ…とピンヒールの音を鳴らしつつ、此処へと駆け寄ってきているのである。       

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