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「…ははは…、可愛いなぁユンファさんは……」
「む、…え…? ふふ…」
僕の口を舐めていたソンジュさんはそう呟いたが、よっぽどソンジュさんのほうが可愛いじゃないか。――今は彼、人間の僕なんか足元にも及ばないほど、大きくて人懐っこい、可愛いわんこそのものだ。
ふさふさの尻尾をブンブン振って僕に乗りかかってくるソンジュさんは、僕の片腕の肘あたりをふんふん、ガブッと袖だけ噛み付いてみたり、ペロペロ――ふんふんふん、と辿り――僕の手のひらまでペロペロ、指も。
「…はは……」
わんこだなぁ。もうこれは完全にわんこだ。
そしてソンジュさんはまたガバリ、僕に乗り掛かってきては、ペロペロと僕の首筋を舐めてくる。
「…んっ…、はは…ぁ、あの、首は擽ったいな……」
わりと重たいが、しかし悪い気はしない。
可愛くて人懐っこいわんこにペロペロ舐められるとは、犬好きとしてはむしろ天国、ご褒美のようなものだ。
ただ…ぬるぬるして熱く、しかも人間の舌より長いので…ちょっと、――ただの悪戯でも、さすがにちょっと…なんというか…――ビクッとしてしまった。
「……っあ、…あの、あのソンジュさ、…」
長い鼻先を、バスローブの隙間――胸元にふんふんと突っ込んで、はだけさせ…ペロン。
「…ぁ、♡ ん、♡ あの、やめてそこは…ぁ…っ♡」
乳首を、胸板全体を、熱くてぬるぬるの舌に、めちゃくちゃにペロペロされている。
まあまあ、これくらいはないこともないか、悪戯してるんだろ…――あっ!
「……はぁ…っ?♡ だめ、…そ、…なところ…っ?」
なんでそんなところ、
僕の内ももに潜っていったソンジュさんの顔、ペロペロされる僕の内もも、…ふんふんと嗅がれる、下着越し。…興奮した犬のように荒い鼻息、――僕は、彼のその狼の頭を両手で押し退けようとしている、のだが、
「……あっ…♡ は、あぁっ…♡ ぁ、♡ あ、あ…だめ、そこはだめ、…」
下着越しにベロベロ舐められている…――いや確かにわんこってなぜか、股間の匂いを物珍しそうにフンフン嗅いでくることもあるんだが――。
かたかたと太ももが震える。――いや、物凄い罪悪感が、可愛いわんこをバ タ ー 犬 にしてしまったかのような…物凄い、罪悪感が。
しかし…僕のその罪悪感を払拭したのは意外にも――ソンジュさんの、この悪い響きの言葉であった。
「……はは、これは…セ ク ハ ラ 認 定 さ れ ず の 舐 め 放 題 …、いいことを知ってしまった…。ユンファがあんな慈しみの微笑みを浮かべてくれるしね…、俺のことをた だ の 犬だと思って、こんなに無防備になってしまうなんて…――可愛いなぁ本当にユンファさんは…、うぅん、可 愛 い ワ ン ち ゃ ん でいるのも悪くないね……」
「……、…、…」
おい。いや――そう、だった。
(至極当たり前のことを今更思い出したのだが)ソンジュさんは、僕にいやらしい思いをいだくはずもないわんこなんかではなく。…時折セクハラ魔になる、い ろ ん な 意 味 で の 獣 であった。もちろん中身はア レ …あのままなのだ、そんなこと当たり前だが。
下手すれば、僕のあんなところやこんなところをペロペロ舐めてきていたのだって(慰めや悪戯なんかではなく)、あるいは下心が故であった可能性もある――。
「おっと心の声が…いけないいけない……」
「……、…、…」
悪いが丸聞こえだ。
僕はソンジュさんのペロペロ攻撃を粗雑に手で押し退け、避けつつ…しかしなんだろう、どうも呆然としてしまう、この裏切られた感というか――ショックというか、信頼している可愛いわんこに下心を見つけてしまった、というような…――駄目だな僕、もはや完全にソンジュさんのこと、(この姿だと余計)マジでわんこだと思っていたらしい。
ふう…と上がるソンジュさんの顔は、(謎のショックで)ぼーっとしていた僕の片耳に寄り。
「……わん…。ほらユンファさん…可 愛 い ワ ン ち ゃ ん を、もっと可愛がって…?」
「…っん、♡ ……っ、…も、…」
そう僕の敏感な耳に囁いてきたあと、ぬるぬるペロペロ、ふんふん、ふうふう…――人間のときより鼻息が、
「…や…っ♡ ふク、…んぅぅ…っ♡♡」
人間のときより舌が熱くてぬるぬる、ゴソゴソ、ぴちゃぴちゃ、ぬちゅぬちゅ、ぐちゅぐちゅ…――僕の頭の中にそういった音がいっぱいになり、…僕はぐっと。
「…んグッ」
「…だっ駄目、駄目もう、こら、……」
だがさすがに僕だって、そこまで無力なわけではない。…僕は、ソンジュさんのマズルを優しく掴んだ。――これはマズルコントロールというんだが、こうすると犬は従いざるを…って、まだ僕、ソンジュさんをわんこだと思い込んでいるらしいな(ついリリに言うノリで「こら」なんて言ってしまったし)。
すると、超大型犬サイズのソンジュさんに――ぐっと。
「……わ…っ!」
ドタッと押し倒されてしまった。
そして、上に乗りかかってきた――というか、僕を組み敷いてきた――ソンジュさんに見下げられている。
ん…? ととぼけたような顔のソンジュさんは、僕を翳った水色の瞳で見下ろしながら、くいと首をかしげる。
「…俺のマズルを掴むなんて悪い人だ。狼にそんなことをなさったら、本気になってしまうよ……まあ正直、ユンファさんのこ ら に関しては、少々良い気分でしたがね……」
「……、…、…」
勝てない、らしい――こんなに尻尾をぶんぶん振っているわんこでも、ソンジュさんには。
お、犯される…――とすら、思う。
言葉を失い呆然としている僕、彼は僕の首筋に鼻先を寄せ、ふんふんふんっと嗅ぐなり、またペロペロしてくる。
「…ひぅ、♡ うぅ…♡ そ、ソンジュさ…っ? げ、玄関で、…」
僕は咄嗟、ナイスなことを言えたらしいのだ。
玄関で襲わないでください、というのが、皆まで言わずとも伝わったらしく――ふ…と顔を引いてくれた彼。
「……、それも確かにそうですね。玄関なんて場所で、気高きユンファさんを抱くわけには参りません。――では、ベッドに行きましょうか…?」
「……は…っ?」
引いてはくれたが…くいっと、神妙な表情の狼の顔を傾けるソンジュさんは、顔こそ狼…というか、犬…というかだというのに、――当然だが、やっぱり中身は何も変わっていない。…というか、僕はそれよりも思うところがある…今 の 、彼 と …?
「……ぁい、いや、その、…あ、あと、で…? あ、あのほら、…その前に話すこともありますし……」
「……、それは――その通りですね。失礼。えっちの前に、しっかり話をしなければ。ナアナアはよくありません」
すると、思い直して納得してくれたソンジュさんは、やっと僕の上から退いてくれた。
「……はぁ…、…」
僕はさっと上体を起こし、一先ず安堵のため息をつく。
そしてバスローブの合わせを直しつつ――内心、僕はかなり複雑である。
「……、…」
仮に。
これからの話の運びによっては実現しないにしろ…仮に、なんだが、…この“狼化”した状態のソンジュさんとセックスに至ったら――僕って、ある意味でわ ん こ と ス る ことになる…んじゃないのか。
獣姦というんだったか…――それはなんとなく、ちょっと、…悪いが嫌だ。いやもちろん、ソンジュさんは“狼化”するとはいえ人間である、人間のアルファ属、アルファ男性…そう、彼はちゃんと人間なのだ、人間の男性、それは僕だって、さすがにわかっているのだが。
「……、…、…」
わかっていても、ちょっと…――。
ちょっと…それは…こ の 姿 だと…抵抗が…――。
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