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「……はぁ、…っ」
僕、幸せにならなきゃ…――リリのためにも。
僕は薄く目を開け、濡れた頬を手の付け根で拭った。
「…ご自分で涙を拭われるとはね。俺の存在意義を否定されているようですよ、ユンファさん…? ふふ……」
「…んっ……、ふふ…っ」
すると、慰めてくれているのだろう。――ソンジュさんは、また僕の頬をペロペロと舐めてきた。
ちょっとザラザラしているが、どちらかというと熱くてぬるぬる…これも懐かしい感覚だ。
「わっ…もうソンジュさん、…」
僕の上体は後ろに傾いた。
ソンジュさんが、大きな(わんこの)体で僕に乗りかかってきて、迫るようにペロペロしてきたからだ。――ただ僕は、彼のその悪戯に笑っている。
「はは、…もう、んっ…、…ふふ……」
顔を背けてはいるのだが、わんこに舐められるのはそもそも慣れているし、何より、その子が舐めたいなら好きなだけ舐めさせてあげるものだ。――犬なりの愛情表現を拒むより、噛むようなことをしないなら、ありがとう、と受け取ってあげたほうがいい。
「……はは……ぁッ、…」
でも、…く、首筋は、擽ったい。
熱い舌に、ぬるん、ぬるん…と敏感な首筋を舐められビクッとしてしまった僕は、肩を竦めた。――だが、ペロペロしてくるソンジュさんのうなじ辺りを撫でつつ、笑みを浮かべながらそっと彼の目を見ようと覗き込むが。
「…ソンジュさん…? はは、首はちょっと擽った…、んむ…ッ」
ペロンッとされた僕の唇。
むっと唇を上下合わせて閉ざすが、ペロペロされている。
「……ふ、ククク……」
「…むぅ、…んっ…ふふふ…っ」
襲 わ れ る …か。なるほど、モグスさんが言っていたのはつまり、こ う い う こ と だったようだ。
いやとはいっても僕は、わんこに唇をペロペロされるのにも慣れているので、そう嫌な気持ちもなく、また危機感もない。…しかし、まあ確かに言いようによっては今、僕は確かに襲 わ れ て いるか。――ただ、いわく犬がこうしてくるのは、信頼してるよ、大好きだよ、というサインなんだそうだ。
そして、それは狼由来のことだそうなので…アルファの人間とはいえ、ソンジュさんもきっとそのつもりなのだろう。――ある意味では、キス、というような。
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