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「……、モグスさんって、格好良い人ですね……」
ぼんやり…僕が呟くようにそう言うと、ソンジュさんもどこかぼんやりとした声で、「ええ…」とそれを肯定した。――ちなみに今度のモグスさんは、リビングへの扉ではなく、リビングの扉の手前、玄関から見て左手側の扉へと入って、消えていった。
「……、敵 わないな、あの人には……」
「……ふふ…、……」
ソンジュさんはポソリ…どこか少しばかりは悔しげに、それでいてモグスさんを心から尊敬しているような、そうしたふくよかなものを含ませた声で呟いた。
「…さ、ユンファさん…。お薬を塗って差し上げますから、あのスツールにお掛けになって」
ぼんやりとしていたソンジュさんだが、そこでふっと思い出したようにそう僕へ促す。…僕は頷いて、ゆるんだソンジュさんの腕から自然と抜け出し――この玄関の端に置かれた、丸い椅子…スツールに腰掛けた。
するとソンジュさんは、…その二メートルを越えている大きな体を小さくし、僕の足下に跪く。
「……、あの、やっぱり自分で塗りますよ……」
しかしこれはやはり、どうも罪悪感がある。
この家に初めて来たとき、ソンジュさんが靴を脱がせてくださったときもそうだったが、…自分は椅子に座り、人には自分の足下に跪かせて、何かをしていただく。――とは、とても僕が受けていい待遇ではないようである。
さながら王様か王子様…そのような、下手すれば僕が、ソンジュさんよりも上の立場になってしまったかのような扱いを受けることに――僕はいまだ、罪悪感にかなり近い違和感を覚えている。
「…………」
しかしソンジュさんは、僕のそれを無視した。
人間らしい姿のときよりも大きく見えるふかふかの手で、僕の片足を下から掲げ持ち、彼はすう…と上げてゆく。――そしてソンジュさんは「愛してるよ」と低く、甘く呟いては、…ちゅ…と。
「……ん…、…」
我ながらかなり小さかったが、声が出てしまった。
ぴとりと濡れた、ソンジュさんの黒い鼻先が、僕の足の甲にそっと訪れたその感覚に――また僕の足の甲に、彼はキスをしたのだろう――、僕の青白い足がひくん、とわずか跳ねる。
「…大丈夫ですソンジュさん、自分で…あの、…ぁ…」
やはり罪悪感が凄い、と僕は、ソンジュさんに持たれているその足を引こうとしたが、――するとぐっと強く掴まれ、むしろもっと彼のほうへ引き寄せられて、…僕は片足を、その人に突き出すような格好になる。
「…いや…ぁ、♡ …っいやソンジュさ、…汚いから、…」
いやそれどころか、せいぜいウェットティッシュで拭いた程度の僕の足の甲を、ソンジュさんはぬるぬるとした熱い舌で舐め回してくる。――擽ったい、よりももっと……僕はビクビクしつつも、足を引こうとしている。
だが、ソンジュさんは強い力で僕の足を掴み、上げ。
「…ひぁ、?♡ んぅ…♡ っだ、め、……ソンジュさん、…」
足の裏をベロベロと舐めてくる彼、ひくひくと僕の足の指が曲がるように反応し、…擽ったい。――擽ったい、擽ったいだけのはずが、体の中央がどこもかしこも疼いてしまう。
「……ぁ、♡ ぁぁ…♡ 擽ったい、やっ…んぅぅ…っ♡」
足の指の股、そこまで一つ一つ、丁寧にチロチロとしてくるソンジュさんの舌に、…今更。――変 な 声 …と、僕は口を片手で塞いだ。
「……んっ…♡ …んふ、ク…ッ♡ …くっ、くす、…っ薬、――薬を、そろそろ、……」
眉を顰め、手の下で口を動かす僕は薬、という理由を付けることで、これ以上足を舐められることを回避しようと試み――グッと僕は片手に握る、この傷薬のチューブを彼へ、突き出した。
が、しかし…――。
「……うぁ、…っ!?」
ガバリとその柔らかい肉球付きの手に、僕は膝頭を掴まれて、無理やり両脚を大きく開かされた。――僕は咄嗟、バスローブの腰紐の下あたりの布をグッと下へ下げ、隠そうとするが、…結局ほとんど隠れず。
「……ぁ、…ぁ…そ、ソンジュさん…み、見ないで、ください……」
「…ふふふ…、それは、どうして…?」
僕は泣きそうなほど恥ずかしくなり、顔中を赤くしている。――ソンジュさんはどこか色っぽい、艶のある薄水色の瞳で、バスローブの下でも開かれてはよく見える、僕の下着あたりを凝視しているのだ。
「…俺に足を舐められただけで…ユンファのおちんちんが、ちょっと大きくなっちゃっているから…? それとも…ユンファが足舐めに感じて、おまんこが濡れちゃったから、かな……?」
「……っ、ぁ、あぁ…あの、ごめんなさい……」
わかっていて…と憎らしくなるくらい、理由の全部を指摘された僕は、斜へと顔を伏せながら謝った。
正直いうが、ソンジュさんに足を舐められたというだけで、僕は…感じて、しまった。
「…ふふ…可愛いね、足も性感帯なんだ…?」
「……、…、…」
別に、僕は足まで性感帯じゃない、――と…思っていたのだが、事実足を舐められただけでなかば勃起し、濡らしているのだから、そういうことになってしまうか。
ソンジュさんは僕の開かれた脚、内もものあたりに鼻先を寄せ…――くんくん、その濡れて冷たい鼻を、内ももの上で滑らせながら、僕のそのあたりを嗅いでくる。
「……ん、♡ …ク、ぅ……♡」
ふんふんと鼻息、ぴちょ、とした濡れた感覚…僕は、その擽ったいような快感に、それだけでゾクゾクしてしまい、ざわりと内ももから腰辺りまでの肌を粟立たせる。
ペロ…と熱くぬるぬるした舌に舐められると、
「…ぁ、♡♡ んぅ…♡ ぅぅぅ……♡♡」
僕は腰からビクンッとし、そのままペロペロされるだけで、視界が狭まってゆく。――どんどん硬く脈打ってしまう僕自身、どんどん濡れてぬるついてくる下着、…期待している僕の体、――ソンジュさんの、そのふんふんと短い吐息を吐く鼻は、ペロペロとしてくる熱い舌は。
どんどん…僕の体の中央へと、おもむろに向かってゆく…――そのせいで期待している、浅ましい僕の全身は…じわりと熱が毛穴の奥から肌表面に、にじみ出てくる。
「…えっちな桃の味…えっちな桃の匂い…、こうしてゆくと…まるで太陽光をたっぷりと浴びた桃のように、どんどんユンファの体が熟れていくね…――完熟したら、どうなっちゃうのかな、ユンファは……」
「…ひ…っク、♡ あぁっ…♡ っ駄目、ソンジュさんだめ、…駄目です、…」
激しくふんふんと下着越し、ソコを嗅がれているだけでビクビクしてしまう、…が――僕はここでやっと、ソンジュさんの頭をぐうっと押しやった。
「…駄目…今、僕を抱かないで、……」
そして僕はその隙に、さっと慌てて両脚を閉ざした。
はっきりいって内ももをつけようとしたため、情けなくも内股気味になってはいるが――しかし僕の太ももに肉がないせいで、内もも同士はくっついていない――、僕はきょとんとやけにつぶらな目をして僕を見上げる、ソンジュさんを睨み下げる。
「…話が、先です。はぁ……本当にごめんなさい……」
性奴隷の癖に、セックスを拒むとは生意気だ。
頭の中で誰かが僕をそう叱ってくる、そうしたどうしようもない罪悪感は僕の中にある。
だが、ここはしっかりしないと駄目だ。――僕は結局、ナアナアにしてしまいそうなのだ。
ソンジュさんに触れられてしまうと、全部蕩けてしまうに決まっている。――それに、モグスさんは万が一なんかない、と断言してはいたものの。
1%でも万 が 一 の可能性があるのなら、辛くなってしまうに決まっているからだ。
ソンジュさんに抱かれたあとに切り出される別れは、何よりも辛いものとなるに決まっている――。
「……、それもそうですね…いや別に、えっちで誤魔化そうというつもりはなかったのですが、…申し訳ない……」
するとソンジュさんは、本当に少し申し訳なさそうな顔をして、俯いた。
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