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             僕は今、「ですがとりあえず、お薬だけは先に塗りましょう」とソンジュさんに言われるまま、あのスツールに腰掛けたままで――僕の足元に跪いている彼に、その通り軟膏タイプの傷薬を、膝の頭に塗っていただいている。   「…ユンファさんは膝もまた華奢で真っ白く、とてもお綺麗ですね……」   「……、…」    それにしても…手の形こそ人間のように五本指、そして手のひらがあり、ふわふわの豊かな毛が生えているが、…手のひら側にあるソンジュさんの黒い肉球は、思っていたよりもぷるぷるのぷにぷにであった(黒い爪は尖っていて長いのだが)。  ――いやわんこの肉球はほとんど、アスファルトの道など、お散歩に耐えられる程度には硬いものだ、という認識が僕にはあるのだ。…そりゃあそれすらも可愛く愛おしいわけだが、ちょっとばかりカサカサしているものなんだと。  しかし、今ぬりぬり…と僕の膝頭に傷薬を塗り込んでいるソンジュさんの肉球は、…やわやわのぷにぷる。――正直気持ちいい。   「…肉球、ぷにぷにですね……」    僕はなかば疑心を持って――なぜわん…いや狼なのに、こんなに肉球がぷにふわぷるっとしているのかと――そう呟いた。…すると、ソンジュさんは僕の膝に目線を下げたまま、はは…とどこか困ったように笑う。   「……そりゃあ元は人間ですので…手のひらにだって、そう硬度があるわけじゃないのですよ…――当然ながら、日常的に手を着いて歩いているわけではありませんし、散歩なんかも、たまにしか行きませんのでね……」   「あ、なるほど…、……」    ぷに、ぷにょ、と僕の骨ばった硬い膝頭――今はもう片方に移っている――に、ソンジュさんのふっくらとした指の肉球が擦れてやや引き攣れ、…それがまた何というか、本当に気持ちいい。あたたかいし、人間の指とはまた違ったこの、しっとりとしたぷにぷに感。――これは()()だ。   「…ひと粒で二度美味しい、というか…」   「……? はは…なんのことやら……」    何かと僕の心や何やらを見透かすソンジュさんだが、さすがにこれに関してはわからなかったらしい彼、どこかそう困ったように笑った。――だが僕は、「いや、」と弁明を。   「…人間の姿のときのソンジュさんの指も、このぷにぷにの肉球の感触も…どちらもいい感じ、です…そう言いたくて」   「…はは、それはそれは…嬉しいことです。――癒やされてくださってるんですね、俺の肉球に…」   「はい、それはもう」    僕は本気で癒やされている。  このぷにぷにの肉球に。――手の形こそ人間のようだが、肉球。…魅惑的な、肉球。  僕が素直に頷くと、ソンジュさんはふっと曖昧な笑顔を上げて、僕を見上げてくる。   「……しかしユンファさん…まだ俺のことを、()()()()()だと思ってらっしゃいませんか…? それこそ…犬、だとか…」   「……、あ、ぁぁいいえ、まっまさか、…そんな失礼な……」    図星の、更に中央にグサッと刺さるソンジュさんの言葉に、僕は目を白黒させながら慌てて首を横に振った。   「…()()()()の、()()()()ですが…、…ふぅ……」    呆れ顔のソンジュさんはそれでいて、どこか諦めたようにため息ごと顔を伏せると、チューブからまた一センチほど白い傷薬を絞り出して、…今度は僕の足の裏に。――僕の片足のつま先を、跪いたふかふかの腿の上にのせてくださっては、ぬりぬり。…ぷにぷに。   「……俺のことをいつまでもそうやって、()()()()()()()()だなどと思っていると、あとで後悔しますよ……」   「…そ、そんなつもりでは…すみません、…あの、もうわかってるつもりです、――これが…ベタ惚れという、か…溺愛というか…、そういう…モグスさんが言っていた、()()なんですよね…?」    僕は――()()()()()()()()とはわかっていても――ソンジュさんの機嫌を直そうと、先ほどモグスさんに教えていただいた()()()()を、彼へ言ってみる。  さすがに“可愛いワンちゃん”は失礼極まりないと、ソンジュさんが嫌な気分になってしまうんだということは、これまでにももうよくわかっている。――なかばはそうだが、しかしもうなかばは――こうして、わざわざ擦り傷にも満たない程度の僕の傷を過保護なほど心配し、ご自分の手で塗ってくださるソンジュさんのこれは、――なるほど、と僕は本当に思っているところもあるのだ。    なるほど――どうも過保護なレベルだとは思うが、しかしだからこそ――これが溺愛、ベタ惚れ…というやつかと。  僕は本当に、()()()を得たようなのである。   「……ふふ…しかしまだまだですよ。…それに俺は、可愛いワンちゃんなどではなく、…狼ですのでね…――。」    (けだもの)なんだからな、なんてしたりとそう言うソンジュさんだが――過保護になり、こんなにも優しく傷薬を塗ってくださっている上、伏し目がちな、その金色の毛で覆われたまぶたのゆるみもまた、とてもじゃないがそのようではない。――しかし、強いていうなら。   「……ソンジュさんは…狼になっても、本当に綺麗ですね」    薄い金色の毛皮、淡い水色の瞳を持った美しい狼だ。   「……、ユンファさんのほうがお綺麗だ…。……」    そう低く甘い声で呟いたソンジュさんは、また僕の足を軽く持ち上げ――ちゅ…と、僕の、キスマークの一つ浮かんだ青白い足の甲に、口付けた。         

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