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              「…ミルクも入れましょうか…?」   「…………」    僕が何も言わずとも、ミルクピッチャーからとぉ…と紅茶へ注がれてゆく白。――ふわぁ…と紅茶の中で、まるでクラゲのようにふくらみ踊る、そのミルクはもう、白には見えなくなっている。…それと同時に紅茶のほうもまた、透き通った赤茶色ではなくなっている。  まるで煙に巻かれたようだ。…どんどん取り返しがつかなくなってゆく――もう一見にしても、確実なる変化をそこに見る。   「…ミルクというのは…俺の運命かもしれませんね…」   「…………」    角砂糖とは違う。  紅茶に迎合した白いミルクは、勝手に混ざり合ってゆくのだ――はじめこそ分離したように、クラゲのようになっていたというのに…あっという間にもう、僕の目の前には、ミルクティーができている。   「…ね、ユンファさん…? これが…俺たちの運命なんだよ……」 「…………」    勝手に混ざりあった紅茶とミルクを、ソンジュさんの握ったスプーンが軽く混ぜれば、いよいよもう境目などない。完璧に一つとなった…紅茶とミルクが一つになって完成――ミルクティーができあがったのだ。  ひと欠片のチャンス――甘い角砂糖入りの、ミルクティーが僕の目の前にある。   「…さあ、どうぞ。…召し上がれ…――俺たちの、この甘い運命(紅茶)を……」 「……、…」    僕はぼんやりとした意識の中で促されるまま、ティーカップの取っ手を摘み、片手の指もカップに添えて…――その紅茶を少し、静かに口に含んだ。   「……、…甘い……」    あたたかく、ほんのり甘い…――まろやかでこっくりとしたミルクが先にきて、その中に砂糖の甘味がやさしく存在しており、それでいて少しだけ、紅茶の渋味も感じられる。  しかし、その紅茶の渋味というのは今、こうなると旨味になっている。  そして、芳しい紅茶の香りが、砂糖の甘い香りと、ミルクのこっくりとした香りに混ざり合い――なんとも言えない、ホッとするような良い香りだ。    それでいて、ミルクと砂糖は引き立て役である。  不思議と、紅茶の渋味の含まれた甘い香りが、際立っているように感じられるのだ。――ほのかな砂糖の甘く香ばしい香りと、ミルクのこっくりとしたふくよかな香りこそが、紅茶の甘やかで爽やかな香ばしさを、際立てているようだ。   「…そう…それでいい…。貴方は抗うべきではない…――こんなに甘くて美味しい紅茶が飲めるというのに、どうしてユンファさんは、俺たちの運命に抗うのです…?」   「……、…――。」             

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