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ソンジュさんは伏し目がちに、滔々 と続けてゆく。
「そして二つ目。幸いなことに貴方は、オメガ属として生を受けています。…そう…アルファと子を成せばかなりの高確率で、アルファ属の子を産むことができる属性です。――つまりユンファさんは、九条ヲク家の跡継ぎを生むことができる…と、俺の両親は思うことでしょう。」
「…………」
五条ヲク家に、オメガ属として生まれた僕――だからこそ、僕は九条ヲク家に生まれたソンジュさんのパートナーに相応しい。
その根拠を語るソンジュさんは、やはり感情的なものは今何も彷彿とさせない、淡々とした声で。
「…五条ヲク家の血を引く貴方と、九条ヲク家の血を引く俺…――俺の両親は、まずこの婚姻を拒むことはないかと。…なぜなら…俺たちの間に生まれる子供は、両 親 の 高 貴 と さ れ る 血 統 を 受 け 継 い だ 子 供 とされるからです。」
そこでソンジュさんは、つっと淡い水色の瞳を動かして僕を横目に見てくる。――今は狼の顔をしており、白目がほとんど見えないために、見ているとどことなく不安になる目だ。
「…それほど確かな、誇り高き血統を持つユンファさんとの結婚…むしろ、下手なオメガと結婚するより、俺の両親は喜ぶかもしれません。…というのもユンファさんは、タ ン ザ ナ イ ト の 瞳 を持っていらっしゃいます。――そう…貴方はオメガにして、五条ヲク家の“神 の 目 ”を持って生まれている。…もし貴方がアルファ属として生を受けていた場合…貴 方 が 、あ の 五 条 ヲ ク 家 の 次 期 当 主 と さ れ た くらいなのですから。」
「………、…」
ドキリ、とした。
息が一瞬止まったくらいだ。
僕は混乱しそうになり、揺らぐ瞳をまた伏せた。
「…俺は先ほど言い忘れていました…――不思議な話ですが…、その実“神の目”を持って生まれる子供は、同じ両親の間にた っ た 一 人 しか生まれません。…つまり五条ヲク家は、チュンファさんご夫妻の孫の代に至らなければ、後継者は生まれませんが、…しかし……」
「……はい…」
その先の言葉が気になったあまり、僕は釣られて、ここで初めて相槌たる返事をした。――すると、ソンジュさんは何かし た り と思ったか、余裕をたっぷり含ませた声となり。
「…ユンファさんが俺と結婚をしてくださり、そして俺が、九条ヲク家の当主となったとき…――俺は、く だ ら な い 古 い 習 慣 を ぶ ち 壊 し て 、変 え て ゆ き た い のです。…要するに…」
僕の耳に寄ってきた、ソンジュさんの口元。
甘くゆったりとした囁き声が、僕の脳内に、こう言葉を反響させて残す。
「…ユンファさん、貴方はオメガだが…――次 期 五 条 ヲ ク 家 の 当 主 と な る べ き お 人 だ 。」
「……、…は…?」
僕は突然のそのセリフに、全く理解が追い付かなかった。
「…どうです? 九条と五条…“神の目”をもつ同士、そのトップ同士が結婚をする…――正直前代未聞のことではあるが、これ以上に高潔な血統を示せる婚姻もないことでしょう。ならば尚の事、俺の両親がこの婚姻を否定する理由もない……」
「……、…、…」
どう、といわれても。
今はどうとも言えないで、僕は逃げるようにまぶたを閉ざした。あまりにも瞳が動揺に揺れすぎて、目を開けていられなかったのだ。
「…そして俺たちは、アクアマリンの目を持つ子と、タンザナイトの目を持つ子を生めばよいのです…――姓なんて後々どうとでもなりますし、何より、俺が九条ヲク家の当主として、新しくさまざまなシステムを構築してゆきますから。…貴方が受けたような悲劇は、そして俺が受けたような悲劇はもう、俺が二度と繰り返させません。」
「……――。」
そりゃあ…立派なことだ。
応援したい、と思った。――いや、応援したいと思ってから僕は、その気持ちがあまりにも他人事だとすぐに気が付いた。
僕はソンジュさんと結婚をしたら、彼と共に、条ヲク家を変えてゆく役目を担う――ということになるのだろう。
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