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「愛してる……やっとこうして俺の手元に帰ってきてくれたのだから、もう絶対に逃さないよ、ユンファ……」
「……、…、…」
あまりにもソンジュさんは、確信している。
というよりは、否が応でも僕のことを手に入れようと…いや、もはやもう手に入れたと見做 している上で、もう逃がすつもりなどないと僕のことを握り締めているようだ。――憮然としている僕、ソンジュさんはにわかに、僕のうなじをぺろんっと舐めてきた。
「……あ…っ♡ やっい、いや、嫌だ、…っ」
それだけで僕の口からはしどけなく声がもれ、体がガタガタ震えて、力が抜けてしまう。
またカプ、と甘噛みされると、ビクンッと僕の腰が大きく跳ね、「ぁぁ…っ♡♡」…腰が反れ、瞬時に強張った全身が――緩まると、ぐったりと僕の全身が脱力する。
しかし、僕のその力が抜けた体を前で、僕の胸板を押さえるようにして支えているのはやはり、ソンジュさんの大きな獣の手のひらなのだ。
「…は、…い、嫌…嫌だ…ソンジュさん、駄目です……」
マズいとは思いながらも結果深くうなだれるようになっている僕は今、無防備にもソンジュさんに、自分のうなじを晒しているような格好となってしまっている。
「…駄目…? まだ素直になれないのだね、俺のユンファは……でも大丈夫だ。俺、わかっているからね…――まさか俺のユンファが、俺のことを本気で拒むはずがない。…そんなはずはない、…俺、ユンファさんのことはなんでもよく知っているから……大丈夫、…問題ない……」
「……、…、…」
駄目…だ。
ソンジュさんはまた、「問題ない」と言った。
彼はもう今、正気じゃない。――壊れてしまった神様は、決して邪 なつもりはまるでない上で人間を苦しめ、罰を与えて、殺してしまうものなのだろう。
清らかであるからこそ、ベストを尽くすにおいて、結果的に人間をもてあそんでしまう。
「……は…、……」
僕はもうぐるぐると目が回って、脱力しきってしまった全身が、それでいてガタガタ大きく震えている。
だが…僕はせめてと重たい片腕を動かした。
ソンジュさんに晒しているうなじを隠そうと片手を上げ、どうしてもゆっくりとした動きになってしまったが、それでもガタガタ震えながら――自分のうなじに翳した僕の、その手は。
「……い…っ!」
ソンジュさんの手に捕まり、ギリッと強く締め付けられる手首の痛みに体が竦んで――ぽとりぽとりと汗か涙が、僕の鼻先を伝って下へと落ちる。
「……なんで…? なんでそういうことをするの…なぜ俺のことを拒むの…! 捨てるの…? ユンファさんは、本気で俺を裏切ったの…? ユンファは俺のことが嫌いなったの、ユンファはまた俺から逃げるの、ユンファ…ユンファ…ユンファ…俺のものなのに、ユンファ…ユンファ…」
「……ソ、…ジュ…さ、……」
泣いているソンジュさんに何か言いたくとも、僕の喉は強ばり、恐怖心に栓をされて詰まってしまっている。もう彼の名前すらちゃんと呼べないのだ。
痛い、――ギリギリと手首を強く握られ、背中で僕の腕は無理やり彼に捻じ曲げられる。
「……ッツ、い、いた、…ッ」
「…俺から逃げた…また逃げる…なあ、本当に許されたとでも思っていた…? はは…許すわけ、…」
「…ごめ、…な…い……」
僕のこの謝罪は命乞いにも近しく、今にも殺されてしまうという緊迫感に、ゴクリと僕の喉仏が上下する。
いや、いっそ僕なんかをソンジュさんがつがいにするくらいなら、僕は彼に殺されたほうがいいのかもしれない。
「…っ許すわけ、…っないだろ? いけない人、いけない人、いけない人、本当に悪い人、狡い狡い狡い…っ! もうこれ以上俺のことを馬鹿にしないで、許さない、…もう許してあげない、…」
「……ッ、そ、ソっ…ジュさ……ッ」
そのソンジュさんの声には、嘲るような笑みが含まれつつも、泣いているような震えがあった――が、次の瞬間には僕のことを後ろから抱きすくめてくると、甘ったるい笑みを含ませた声で、こう僕に囁いてきた。
「ねえユンファ…? 俺たち、一つになるべきでしょう…。ふふ…俺たちは結ばれるべくして出逢ったというのに、どうして俺から逃げたの…? 貴方はなぜ俺たちの運命から、そうやって必死に逃げるのかな…? なぜ…? ねえ、なぜ抗うんだろう、なぜ逆らうんだろうか貴方は…俺に…――本当、貴方って悪い人だ……」
「……、…、…」
冷や汗が、止まらない――。
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