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あのだだっ広く昼間のように明るいリビングへと入ると、焼けた肉やハーブのような、食欲をそそる良い匂いがする。
僕の背中に添えられたソンジュさんの手、僕たちが歩いて向かうのは、ほとんど壁のような高い窓ガラス――夜景が見渡せる――の前に置かれた、縦長のダイニングテーブルのほうだ。
そしてそのブルーチーズのような柄の、大理石らしい広いテーブルの上には、ずらりと料理が並んでいた。
一つ一つの席の前、四人分だ。――よくあるワイングラス、白い皿の真ん中に黄色いオムレツ(サイドに銀のナイフとフォーク、スプーンが置かれている)、赤身肉のステーキが盛られた丸い鉄板、バゲットの入った籐かごと、細かく切られた野菜たっぷりのミネストローネが入ったボウル、取皿らしい空の丸い皿、空の小さなサラダボウル。
そして、テーブルの真ん中にはワインクーラーに入ったワインの瓶、何か緑色の煮物…? 大皿の唐揚げ、大皿の色鮮やかなサラダ。――に、なぜか居酒屋メニューの小鉢(たこわさ、キムチなど)が、いくつか…見知らぬ長髪の女性の前にだけある。
いや、見知らぬとはいえども、おそらく彼女はモグスさんの奥さん、ユリメさんだとは思うのだが。
既に席に着いている彼女は、かなり痩せ型の女性だ。
大きな黒い目はややタレ目ぎみだが、一見クールでサバサバしていそうな人である。…柳眉はつり上がりぎみ、真っ赤な口紅、鼻は高くしっかりとして格好良い印象だ。
頬にもやや骨や筋が見え、かき上げたままのような長い前髪、腰を越えるほど長い髪は黄みのあるグレー、その髪にはところどころに金色が見えてキラキラ輝いている――白髪をそのまま染めたかような感じだが、それがむしろとてもおしゃれだ――。
彼女の口紅と同じくらい真っ赤な半袖Tシャツは、僕が一瞬びっくりしたくらい胸元がV字にざっくりと開いて胸の谷間も見えているが、どうしてかいやらしい印象はない。
彼女の椅子の背には革ジャンがかけられている。
彼女はテーブルの上に置かれた灰皿の前に座り、ふーっとタバコの紫煙を吐き出しながら、テーブルの側までやってきた僕たちのほうへ、振り返った。
「…おぉ遅いんだよぉお前、ソンジュう〜、もうアタシ大分酔い回って…――んぁ? 誰その人。」
ソンジュさんを見るなりニコッとした彼女は、確かにもう既に赤らんだ顔をしている(側に置いてあるワイングラスには少なくなった赤ワインが入っているため、それを飲んでいたのだろう)。…ソンジュさんに向けられたその笑顔は、モグスさんによく似てカラッと明るかったがしかし、チラリと僕を見て訝しむその黒い目は、シンプルな疑問を宿している。
するとソンジュさんは僕の肩を抱き、にこやかに。
「…こんばんはユリメさん。――この人は俺 の 婚 約 者 の、ツキシタ・ヤガキ・ユンファさんです。」
「……、…」
お、おい…こ、婚約者? ――僕はパッと隣のソンジュさんに振り返ったが、彼はチラリとその青い瞳だけで僕を見下ろし、狼の大きな口の端を少しだけ上げ…してやったり、というような微笑みを浮かべている。――その上、パチンと僕にウィンクまでしてきた。
あぁなんてこった、なんでそんな紹介の仕方…――僕は呆れに目玉を回し、あらぬところをぼんやり眺めながら、まばたきを多くしてしまう。
するとユリメさんは眉を顰め、僕のことを睨むような恐ろしい目でじっとりと見てくる。
「婚約者…?」
「ぁ、…ぁ、あの…、はは……」
肯定をするわけにはいかない。かといって否定するのもどうか、迷った僕は結局どちらともなく笑って誤魔化し、複雑な顔をしているかもわからないが、とりあえず口角だけは上げて彼女へ会釈した――すると彼女も、何か釈然としない顔ながら会釈を返してくれた――。
気まずい…ピキンと凍り付いたような重々しい空気となったこの場に、穏やかな流れを生んだのはやっぱり――先ほど車内でもそうだったが――モグスさんである。
彼はひと足先にこのテーブルの元に着いて、今は忙しそうに料理を取り分けているが、ひょいっと肩を竦めながらもこの女性を片手(というかサラダ用のトング)で示しつつ。
「…ユンファさん、これ。――俺のカミさんのジュウジョウ・ユリメ。」
「……あ、は、初めまして…ツキシタ・ヤガキ・ユンファと申します…」
「おお初めまして…ユリメです……」
どうも僕ら――ユリメさんと僕は、複雑そうな表情が一致して、同じような顔を見合わせている。
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