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もう風化した作品と評されることもある『夢見の恋人』だが、それでもいまだ根強い人気作である『夢見の恋人』の続編を、世間の人々はきっと僕のみならず、なんだかんだ言ってもきっと、みんな待ち望んでいるはずだ。
だが、それも発刊されてから今にいたるまで(実に十年以上もだ)『夢見の恋人』の続編を待ち望む声が、多くあるにも関わらず…――。
そもそも『夢見の恋人』は、大人たちの勝手な束縛からカナエとユメミが二人で逃げ出したあと、甘く優しい、初めて同士の初々しいセックスをして――二人の行方はどうなったかわからないまま――事後、ベットの中で抱き合う二人の会話シーンで、終わる。
そして、その後の二人を描いた『夢見の恋人― 2 ―』…その作品の終わり方はどうも、“続 き ”を匂わせるような終わり方であった。――まあ物凄く簡単にいえば、結局二人は結ばれそうできちんとは結ばれないまま…なんなら救いがないような切ない状況になり、それでいてどこか希望があるようでもあり、どうなっちゃうんだ…? と読者を思わせておいて終わる、そうして非常に読者をやきもきさせる終わり方、とでもいおうか。
はっきりいって『― 2 ―』の読後感はもやもやする、というような終わり方なんだが、それでも『― 2 ―』が出たなら更に続くのだろう…と――僕のみならず、まあ読者はみんなそう思うところじゃないか?
しかし――なんとpine先生は、はっきりと『もうあの作品の続編を世 に 出 す つ も り は な い 』とおっしゃってしまったのだ!
しかも、その“世 に 出 す つ も り は な い ”という言い方は、ファンを大変もどかしく、悔しくするものである(何よりも僕がそのような気持ちだ!)。
なぜなら、pine先生のなかにはまだ『夢見の恋人』の続編がある、あるいはもうすでにその続編を書いたにも関わらず、先生自身がその続編をある意味では独 り 占 め し、『もう世の中の人にはカナエとユメミがどうなったのかを見せるつもりはありません』と言ってしまっているようなものだからだ。
そんなあまりにも続きが気になる、気になりすぎる終わり方にしておいて、pine先生は残酷にも「これより先はもう世に出すつもりはありませんから、あとは読者の皆さんが勝手にカナエとユメミがどうなったかを決めてください」なんて言うわけだから、僕のような熱心な読者としては、諦めるにも諦めきれないところがあるのだ。
まあ、とはいってもpine先生が発表したくない、するつもりがないというのなら、僕ら読者はどうしたって諦めるほかにはない。――そもそも先生は、今のところ他のジャンルのほうに夢中なようだし、…はっきりいってpine先生は『夢見の恋人― 2 ―』を出したあとから、顕著に作風が変わっているようにも思う。
すると、まあ、いや、致し方ないことでもあるのかな、と必死に呑み込もうと、理解しようと、僕も試みてはいるのだ(それでも大ファンとして…)。
いや、創作をする人は何かしらに感化され、影響されてものを作るというじゃないか。――ならもしやpine先生は、『夢見の恋人』とは真逆の魅力がある魔性の何かに取り憑かれて、そうしてそれの続編を書く気が起こらないのかもしれない。
――そうなら仕方がないことだ。
それに実際、pine先生が作品を出すたび出すたび、必ずといっていいほど大きな話題になる。…ニュースにもよく取り上げられているくらいなのだ、いつか大きな文学賞を取るんじゃないか、いや、まだその賞を取っていないほうがよっぽどおかしいのだ、とさえ言われている。
海外でも翻訳されたものが出版されていて、いやもちろんそれだけでも凄いが、海外でも凄い人気だというし、しかもその翻訳はこだわりたいからと、pine先生がご自分でされているという。――凄すぎる…さすが天才だ。
そして、その出す作品出す作品すべてがミリオンセラーとなって、文庫本になって、(僕のようないまだ続編を待ち続けている熱心なファンも少なくはないが)すっかり『夢見の恋人』は、pine先生のそのほかの輝かしい記録に埋もれてしまい、今となっては“隠れた名作”扱いだ。
そうなれば状況的にも、もしかしたら書きたくとももう書けないのかもしれない。
そもそもかなりお忙しいことだろう――翻訳に執筆に、インタビューにメディアミックスにと、てんやわんやだろう――が、それのみならず、たとえば出版社の人に、『夢見の恋人』よりもこういう作品のほうが売れるから、もっとこの作風の作品を出してください、と言われているだとか、そういった大 人 の 事 情 が先生に降り掛かっている可能性だってきっとあるのではないか。
なんにしたって素人の、ましてや一ファンの裁量でどうこうできるものでないのは確かだ。…読むだけの僕らファンがいくら続編を待ち望もうとも、その作品を一から創り出しているpine先生のお気持ちや状況が(今や奇跡的に)合致でもしなければ、まず『夢見の恋人』の続編が世に出ることは、これからもないことだろう。
「……はぁ……」
だが、僕が生きているうちに、ワンチャン続編が出たりしたら僕は、涙するほど嬉しいんだが…――望み薄、だろうか…? 神様……。
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