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                     つまりpine先生は、これはおよそ人の成せる技ではない才能だ、と恐れられるほどの鬼才として、今も昔も文学界に君臨し続けている――のだが。    あの『夢見の恋人』は、切なく甘酸っぱい高校生同士の話で、いわゆる純愛小説カテゴリの物語――しかしそれ以降の先生は、それっきり続編が待ち望まれる『夢見の恋人』はおろか、純愛系の物語を一切書かれなくなった。    そもそもpine先生の作品は『夢見の恋人』だけ、どこか他の作品とあきらかに作風が違っている。  ほかの作品はドロドロした人間関係だとか、粘着質な男女関係ものとか、まあありていに言えば、『夢見の恋人』以外()()()()()()()人間関係ばかりを描いているのだ(官能小説のほうも(しか)り)。  まあミステリーなんかではたまに、可愛らしい関係性の男女を描いたりもするのだが、それも決して物語のメインではなく――ミステリーなら当然だろうが――サラリとその二人の恋愛模様を、作品のスパイス程度に描いているだけである。    その点『夢見の恋人』だけは、どことなく少女マンガ的というか、いや少女マンガ的とはいえ、主人公も恋人になる人物もどちらも高校生の男の子なんだが…――作風としてはそういう、それ以外の作品でpine先生を知った人なら珍しく思うくらい、純愛をこれでもかと押し出している作品が、『夢見の恋人』なのである。    それこそ、pine先生のほかの作品を読んでハマった人ならばおそらく、『夢見の恋人』だけはどうもハマるにハマれない作品…かもわからないほどだ。    しかもその『夢見の恋人』は、デビュー作の一作目、それと続編、連続で出した二編以降、もう新作は世に出ていない。  ある意味で初期からのファンか、『夢見の恋人』でハマった人以外、すっかり風化した作品である、という人もいるくらいだ。――しかしその割に、二作目の終わり方はなんとも言えない、()()があるような…そんな終わり方なのである。           

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