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                 そうして僕は大学生の頃に『夢見の恋人』を読んでから、すっかりpine先生の大ファンになっているため、これほど先生ご本人に関しても詳しくなっている。  もちろん彼が描いたどのようなジャンルにおいても、僕はすべて読んでみた(piña(ピーニャ)名義の官能小説も含め)。そして、それはあくまでも当然だろうが、天才のpine先生が描く作品はどれもこれも全部、本当に面白かった。    しかし…人の好みはそれぞれ、さっきも思うようにさまざまな理由があって『夢見の恋人』だけは合わない、という人が多くいて当然だとも思っているし、それに関しては致し方ないことだとは思っているが…――あえて断言しよう。    僕はやっぱり、『夢見の恋人』が一番大好きだ。  僕個人としてはやっぱりあの、良い意味でのファーストインパクトがあるからか、僕はpine先生の作品の中で『夢見の恋人』が一番大好きな作品なのである。  叶うなら続編…――いや、それこそそんなのは、一ファンの我儘に過ぎないのだが。     「……、…」    それでも…今の僕の、一つの生きる希望にもなっている。…それでもいつかpine先生の気が変わって、いつかあの『夢見の恋人』の続編を読める日が来るのではないか。    原作者であるpine先生ご本人が描くカナエとユメミの行く末を、いわば『夢見の恋人』の“トゥルーエンド”を、僕が生きているうちに、いつかは知ることができるのではないか。  ――そんな淡い希望を光として、僕は生きられているところもあるのだ。…たかが小説、されど小説だ。  単なる娯楽、だが、人の人生を変えることもできる凄い娯楽を生み出してくださる、僕が敬愛するpine先生…僕を救ってくれているpine先生の小説は、僕の人生を変えたといっても過言ではない。    pine先生の作品は、読者に夢を見せてくれる小説だ。    誰かの夢を、誰かになった夢を見られる小説。  僕にもまだ夢を見せてくれている――pine先生のお陰で、僕はまだかすかでも夢が見られている。  pine先生は、本当にとても素晴らしい小説家大先生だ。       「……、…」    って、違う。  ――そう…だ。      ソンジュさんが――僕の敬愛する大先生。          pine先生、かも…しれないんだった――!          「……、……」    ゴクリと僕の喉が鳴る。  いや、いや、あり得ない話だとは思う、いまだにそう思っている、だが…一つの可能性として、だ。    それこそユメミが、本当に、まさかの僕がモデルだったり…して、なんて…――いやそんなまさかな。  まさかそんな…じゃあ僕、敬愛するpine先生とこい、恋人、プロポーズ、けっ…結婚、いや契約、…でもソンジュさんは本当に、――なんというかそれは願ってもない、いや、――いや、いや、ど、どう処理したらいいのかまるでわからない。  それに、もしあのユメミのモデルが僕だったら、とか…それはなんというか…――なんというか、だ。  いや、そもそも僕はじゃあ、そうだと仮定した場合、ソンジュさんに――カナイさんよりももっと――以前に、会ったことがある…のか。     「……、…?」      そんな…あった、かな、もっと前に会ったこと――?     「……ねえユンファちゃん? 大丈夫?」   「……、えっ? あ、あ…」    テーブルを挟み、ユリメさんがテーブルに片腕を着いて身を屈め、心配そうに僕の顔を覗き込んでいる。       

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