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               僕は現実に引き戻されて、勝手に呆気に取られている。  目を丸くしている僕は、ナイフとフォークを構えたまま、オムレツを一口分に切り分けたまま――考え事に忙しくしていたせいで、おそらくは今までそのまま固まってしまっていたのだろう。――そんな僕を見ているユリメさんは、「アンタ大丈夫?」と苦笑い、モグスさんもははは、と可笑(おか)しそうに笑っており、ソンジュさんに至ってはもう食事を終えたのか、口元を白い布ナプキンでお上品に拭いている。   「すみません、ちょっと…考え事をしてて……」   「…ははっ…そ? ふーん…なんかソンジュそっくりね。コイツも考え事してるといきなりフリーズすんのよ、今のユンファちゃんみたいに」    ニヤリとしたユリメさん、もうすっかりステーキやら何やらを平らげて、食後の一服――匂いからしておそらく、ユリメさんと同じタバコ――を片手に、モグスさんが「そうそう」と笑顔で頷く。   「…話し掛けても無視っつーか、多分聞こえてねえんだよなぁ。今ユンファさんもそうだったけど」   「…あ、あぁすみません…、無視していましたか…正直、そんなつもりはなくて……」    話し掛け、られていたのか、申し訳ない。  じゃあ結果的に僕は、彼らのことを無視してしまったということだ。――それにしてもモグスさん、彼もまた頬が赤らんでいる。酔っているらしいが、呂律が危ういこともなく、彼は更に。   「いやいや、無視ってか聞こえてなかっただけでしょ? 俺の言い方が悪かったな、ごめんごめん。…大丈夫わかってるからよ、ソンジュで慣れてるから俺たちゃ…――ただユンファさん、フォークとナイフ持ったまんまフリーズしてっから、心配にはなっちまったけどねん」   「す、すみません……」    申し訳ないやら恥ずかしいやらで顔がかあっと熱くなり、僕はうつむく。  するとユリメさんモグスさん夫婦が、同時に笑い声をあげる。――彼らは笑顔もどことなく似ているのだが、はははは、とカラッとしたその笑い方までそっくりだ。…彼ら、仲良し夫婦なんだろう。   「かわいい〜、真っ赤になっちゃったユンファちゃん」   「可愛い可愛い、こらソンジュもベタベタに惚れるわ。いやでもなんか似てるよな、ユリメ? ソンジュとユンファさんって」   「ね。よっぽどユンファちゃんのほうがソンジュにピッタリじゃん。似た者同士仲良くやれよ、このお〜」   「……、…」    僕は胸が詰まるような思いに、そっと唇を合わせた。  ユリメさんがそうふざけて憎らしい風に言うと、ソンジュさんは僕の隣で、「ンッんん」と気まずそうに咳払いをする。――それによって()()に至ると尚の事、先ほどのユリメさんの心配が腑に落ちる。   「酔いすぎですよユリメさん。ところで今日のメニュー…――ユリメさんが作ったとお聞きしましたが、どうもオムレツだけではないですか。」   「…おお。美味かったろうが?」   「…どうしてあなたたちご夫妻は、こう…――なんでもかんでも、多く入れたら入れた分だけ良いものだと思っているのやら…、正直、チーズ入れすぎなんですよ」    俯きがちに、ぼそっとそう呟いたソンジュさんだが――隣を見れば、そう文句は言えども、もうすっかりオムレツを平らげているじゃないか(というかまあ、僕以外は皆さんもう食事を終えているのだが)。   「何よ、アンタ好きでしょ? アタシのチーズオムレツ。」   「…別に」    素っ気ないソンジュさんに、ユリメさんは長い前髪をかき上げながら「素直じゃねえなぁお前〜」とぼやきつつ、僕へと目線を転じた。   「…ほらユンファちゃんも早く食べな。美味し〜ぞぉ〜、はは…――早く食べないと、おばちゃんのオムレツだーいちゅきなボクに取られちゃうかもしんないから。ね、いっぱい食べな。」   「……はは…はい、ぁ、じゃあ…いただきます…――。」    ナイフとフォークの柄に添えていた僕の人差し指が、その形にヘコんで冷えている。         

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