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「…………」
僕はダイニングテーブルに戻り、また椅子に腰掛ける。
そんな僕の目の前には、あたたかいホットココア――モグスさんが「食えないなりにせめてこれ飲みな」と淹れてくださった、白いマシュマロの浮くホットココアがある。
それが入ったクリーム色のマグカップで、冷えた両手をあたためながら――僕はそのホットココアを見下ろして、…考える。
確 信 した…とはいえ、これはただの憶測だ。
こんなのは僕の、ただの憶測だが…――ソンジュさんは、もしや。
“「ね。よっぽどユ ン フ ァ ち ゃ ん の ほ う が ソンジュにピッタリじゃん。似た者同士仲良くやれよ、このお〜」”
「…………」
あのユリメさんのセリフ、正直僕にはもう、こ う としか捉えられない。
誰 か よ り も よっぽど――僕 の ほ う が 。…つまり。
ソンジュさんにはもう――既 に 決 め ら れ た 婚 約 者 が い る んじゃないのだろうか。
彼の唯 一 の 我 儘 …――それが、…僕。
つまりソンジュさんは、ご両親に決められた自分の人生の道筋――九条ヲク家の当主を継ぐことを受け入れる代わりに、せ め て も の 我 儘 として。
ご両親に決められた相手ではなく、恋 を し た 僕 と 結 婚 が し た い 。――そればかりの我 儘 は、せめて許してほしいと。
「……、…」
彼のいう唯 一 の 我 儘 とは、自 分 の ご 両 親 へ と 向 け た 我 儘 なんじゃないだろうか。――僕はどうも、そう考えてしまうのである。
ソンジュさんは――。
これまで必死に耐えて、十分い い 子 でやってきた。
なんにでも従い、一生懸命期待に応えようと努力し続けて――本当は自由に自分のやりたいことを、自分の人生の舵取りを自分でやりたいところをぐっと堪え、両親の舵取りにおもねることを決めた。
“「…なぜだ…? 俺はただ幸せになりたいだけなのに、…好 き な 人 と 結 婚 す る 幸 せ す ら 与 え ら れ な い というのか、俺は幸せになったらいけないのか、俺は…操り人形なんかじゃないんだ、…幸せに、なりたい…愛されたい…愛されたい、愛されたい…愛して、…俺を愛してよ…俺を見て、俺の話を聞いて、俺を見てよ、俺を見て、お願いだ……」”
「…………」
これは悲痛な、彼のご両親への願いだったのではないだろうか。
自分の人生のその他は、もう全て九条ヲク家に明け渡すから…だからその代わり、せめて、せめて結婚ばかりは――生涯を共にする伴侶を決めることばかりは――本当に好きになった人としたい、という…悲しい我儘。…好きな人と結婚をして、好きな人と子を成し、好きな人と生涯を共に歩んでゆく幸せばかりは俺にも、許してほしい。
その自 由 ばかりはどうか、自分にも与えてほしい。
ちゃんとこれからも、初めから何もかもが決められていた窮屈な人生にも、自分は甘んじるから。だからどうか、それだけでも――好きな人と結婚をすることだけはどうか、許してほしい。
もし、ソンジュさんの真 実 が そ う であるなら…――。
「……、…――。」
僕は、どうしたらいい。
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