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婚約者がいる中、僕とソンジュさんが結婚…それも、彼はどうも僕以外の人とは結婚するつもりはなさそうである――ヤマトではアルファ属のみ多重婚が許されているが、「ユンファさんとしか結婚しない」とはっきりいっていた彼である――し、では、いざ仮に僕とソンジュさんが結婚をすることとなった場合、これまでは彼と結婚をするつもりであったその人にソンジュさんは、「やっぱりあなたとは結婚しません」なんて、あまりにも突然で身勝手な婚約破棄を言い渡しかねないことだろう。
あるいはその人とだけ結婚をするはずが、僕とも結婚をする…なんて妥協した形に仮になったとしても、いわばその程度の妥協で、まず許されるはずはない。
すると、たとえ僕にはそのつもりがなくとも、格好としてはほとんど略 奪 愛 という形になってしまうわけだ。
つまり…ソンジュさんの婚約者はすなわち、突 然 婚 約 者 に 捨 て ら れ る 、という状況にもなってしまうわけだし、なんなら横からいきなり自分の婚約者(ソンジュさん)を僕に奪われた、と思うに違いない。
そうなれば少なくともその人は、突然の不幸せを感じるはずだ。…もしか僕を、僕たちのことを恨むかもしれない。
そして僕は、その婚約者の座を奪った酷い奴になる。
ソンジュさんだって、人生を共にすると決めていた婚約者を呆気なく捨てた、酷い人になる。
下手すれば不倫に近しい視線を向けられかねない。――そうなったら醜聞以外の何物でもない。九条ヲク家のソンジュさんにとってのそのような醜聞は、彼の世間での評判を大きく下げることとなるに違いないのだ。
そりゃあユリメさんが怖い顔をするわけである。
しかしもちろん僕は、誰かからソンジュさんを奪いたいなんて少しも思っていない。
誰かの幸せを奪ってまで――僕は自分が幸せになりたいだなどと、そんなさもしいようには考えられない。
「…………」
確実に、ソンジュさんを好きになったのは僕のほうが後だ。――それに、その婚約者の人はソンジュさんのご両親にも認められているのだろうが、一方の僕はもちろん認められてなどいないし、そもそも認められることもないだろう。
それこそ僕は身を引くべきだ。
側にいたい…どんな形であっても構わないから、ソンジュさんの側にいたい。――僕のその気持ちは本物だ。
それこそ愛人でいい。…愛人ならあるいは、という気持ちが強まってゆく。――いや、愛人関係ですらも認めてもらえない可能性のほうが高いにはそうだが、ソンジュさんと僕が結婚をするよりはまだ…これは一縷 の望みである。
確かにソンジュさんもとても可哀想だ。
好きな人と結婚をする自由さえ与えられず、親が勝手に決めた相手と結婚をしなさい、その人と子供を作りなさい、自由恋愛をする権利なんてお前にはありません。――そういった彼が、せめて人生を共にする伴侶ばかりは唯 一 の 我 儘 として、好きになった人を据えたいと思うことは、はっきりいって理解もできる。
しかし、だとしても…僕の、貴方が好きという気持ちだけで――僕が好きという気持ちだけで、結婚なんかしたら…貴方は最低だ。僕も最低だ。あまりにも無責任だ、本当に勝手だ。
「……、…、…」
やっぱり貴方は、どうしたって僕には叶わぬ人だ。
――やっぱり僕は、身を引くべきだ。
結婚なんかしてはいけない。絶対につが…――あ の 関 係 にも、なってはいけない。僕たちの運命は、共に在ってはならないのだ。
“運命の……”――それはきっと、神様の悪戯に過ぎない。
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