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                  「……、…」    いや、まずはロールモデルを見付ければいいんじゃないか? ロールモデルというのはまあ普遍的に、人生の師匠だとか憧れの人、理想の人、目指すべき人生観を持つ人、と、そういった感じではあるものの、しかし、恋愛などの場合でも理想的なロールモデルさえ見つけておけば、あるいは困ったときに(今もまあそれなりに困っているが)参考にできることもあるかもしれない。    ただ残念ながら僕は、芸能人のおしどり夫婦などには詳しくないので、はっきりいって遠い憧れのカップルはいない。ましてや何かしらの物語のカップル、というのは、現実での恋愛の参考にしたところで馬鹿を見るのは明らかだし(そんなことをして許されるのは、せいぜい夢見がちな十代までである)、そもそも僕は、ロマンス一辺倒の作品には明るくもない。  …となれば、身近なカップルか…――例えば先ほど見たばかりのモグスさん、ユリメさんご夫妻はどうだろう。   「…………」    ――いや駄目だ。  確かに彼らは仲良し夫婦というようだが、何というかあのお二人はどうも見るに、もう恋人関係というよりか、()()()()()()()()()()()()()()()のようである。    そう、いわばあのご夫妻は()()()()というようだ。  つまり、長年の結婚生活を経たが故に得たのだろう信頼関係、お互いの短所も長所もよく知り得た上で、お互いのことはもちろん、結婚や夫婦関係というものの清濁を併せ呑んでいるが故に築き上げられた、強固な信頼関係――それがあるからこそ――モグスさんとユリメさんはきっとあのように「ジジイ」、「ババア」と悪口を面と向かって言い合っても、単なる軽口、なんなら楽しい軽口というようになれていたのだろう。    ましてやソンジュさんと僕、ユリメさんとモグスさんは、カップルとしても何かタイプが違うような気がする。  それこそソンジュさんは、人目も(はばか)らず僕へと愛を囁くようなロマンチストタイプであるし、(彼が癇癪を起こさなければ)喧嘩するよりか、冷静な話し合いを重視するようなカップルが、僕らだとするのなら。  一方のモグスさんご夫妻は――若いときはどうだったのかわからない、ましてや二人きりのときはどうだろうかとは思うものの――サバサバとして表向きは「お前なんか嫌い、離婚してやる!」とはいいつつ、喧嘩するほど仲が良い熟年夫婦…というようなカップルではないだろうか。    すると、もちろん素敵なカップルだとは思うが、少なくとも現段階の僕に彼らご夫妻は、ロールモデルとはならない。   「…………」    では、月下の両親――父さんと母さんはどうだろう。  父さんと母さん……いや、むしろ本当なら考えたくはないのだが。息子としては、わざわざ彼らがキスやらなにやらをしている、というふうに考えるのはどうも厳しいところがある。――いや、そうしてそもそも考えたくない、想像したくないという以前に、息子の僕の前では、彼らは当然のように父母の顔しかしてこなかったのだ。  その実、両親がちゅっと軽いキスしている姿でさえ、僕は一度も見たことがない(むしろ両親共に僕には「可愛い、可愛い」とちゅっちゅしてきたが)。    そもそも僕の前ではカップルというより父と母、親、それ以上のものではなかった彼らは、お互いを大切にしているような素振りこそ見せていても――それというのは恋愛的なものというよりか、人生を共にするパートナーとして、一人のかけがえのない家族として…そのような感じで、僕の前では特にしっとりとした雰囲気になったことがない月下の両親に、僕がこの件で得られるものはあるのだろうか。    とはいえども、月下の両親は恋愛結婚のようであったし、僕が小学生になる頃には僕と彼らの寝室は別、そして大学生になった辺りからは、結婚記念日に二人でデートに行くようにもなってはいた、のだが――確かに(僕の目のないところで)いちゃついてたんだろうな、とは思うものの、やはりはっきりとは見えてこない。  それに、あまり二人の恋人時代の話などもされて…されてはきたが、きたな…――されてきたにはされてきたが、そもそも僕がこれまで恋愛に興味関心ゼロオブゼロすぎだったせいで、しっかりとした記憶にはない。   「……、…」    あ…いや、ただ一つだけ――それらしいといえばそれらしいような記憶がある。  それは父さんが一週間ほどの出張に行っているとき、当然一人っ子の僕と母さんはその期間、家で二人きりで過ごしていた。――そして、それは僕が成人したばかりの頃で、その頃の僕は週一のペースで家族と酒を飲んでいたため、その日もなんら普通に母さんが「せっかくだし母子水入らずで飲まな〜い?」なんて誘ってきたのだ。    ちなみに、僕がなぜ週一ペースで家族と飲んでいたかというと、両親曰く「ユンファは男とはいっても、まずはお酒に慣れて酔う量知ってからじゃないと、他の人と飲んじゃ駄目」といって、両親が僕にお酒の飲み方を教えてくれていたためだ(恐らくは僕がオメガで、一見ではオメガらしくないようでも、一応レイプされてしまう危険性があったからだと思われる)。    そうして僕は母さんと二人きり、その日の夕飯を食べながら、酒を飲みはじめ――ほどほどに酔っ払ってきた母さんがなかば不満げ、もうなかばは笑い話的な愚痴という調子で、このような話をしてきた。         『ユウジロウさんってね…ものっすごい()()なのよ』           

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