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                       そうして僕は、母さんになかば無理やり「ユンファにそっくりな子が出てくるんだから、読んで確かめてみな」と『夢見の恋人』を押し付けられ、それを読むことになったのだが――。    今の僕から結論を言わせてもらうと、ユメミはたしかに、僕にそっくりではある。――薄紫色の瞳、切れ長のまぶた、やや面長のすっきりとした輪郭に痩せ型、作中では(からす)の濡れ羽色と表現されている黒々とした眉と黒髪、青みがかった色白の肌…そしてどこか、性格もまた少し僕に似ている。    もちろん僕はユメミのような美少年というわけではないが、ただたしかにユメミと僕は身体的特徴と、そして僕が読んでいて共感しうる程度には性格も、僕に似ている登場人物だったのだ。…が――残念ながら僕には、カナエのような男の子に出会った記憶はない。    僕はその鬼才っぷりから勝手に、pine先生はアルファなんじゃないかと思ってはいるものの、そもそも僕の知り合いには、これまでにアルファは一人もいなかった(それはあくまでも当然のことなんだが、僕が通っていた中高は私立とはいえ、まさか飛び抜けてお家柄も良く優秀なアルファがいるはずがなかったのだ)。    ましてやまさか、pine先生と会ったことなんかあるはずもない。…そもそもソンジュさんと出会うまで、アルファにすら出会ったことがなかった僕だ。  あるいは、僕がpine先生だと知らないで会っていたとしても、そもそも僕は、三歳年下の子と出会う機会なんかそうなかった。――エスカレーター式の男子校で、下級生の幅はもちろん広かったが、部活も人気のない文系(文芸部だ。ただし僕は創作活動はしなかった)で後輩も少なく、周りの友人も同級生ばかりだったのだ。    そしてもちろん、僕の同級生や数少ない後輩たちは、みんなベータである。…あるいはpine先生がベータだったとしても、それこそ文芸部の部員はみんな、もともとの僕タイプ――純愛小説なんて馬鹿馬鹿しい、それなら純文学を読めよ! タイプ――しかいなかったのだから、彼らの中にpine先生がいた…とも考えにくい。    つまり…僕は見ず知らずの“三歳年下の小説家”なんて、本当に誰一人知らないのだ――まあ街ですれ違ったりなんかはあったかもわからないが――。…そもそも、僕を作品のモデルにするほど密接な関係を持った小説家なんか、というかそもそも小説家なんか僕は、今になってやっと出会ったソンジュさん以外に知らないのである。    ということは、だ。  たしかにユメミと僕は似ているにしろ、とはいっても、これは()()()()()に違いなく――結局は偶然、所詮は()()()()()、ということである。     「…………」      それかあるいは――…僕が覚えていないだけ、  なんて…まさかな。         

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