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そのふわふわと浮ついた、夢 み た い な パステルカラーの表紙を開き、『夢見の恋人』という縦文字のタイトルを見て、薄い文庫本のページを簡単に一枚、指で捲 ったあたりまでの僕は、まだこう考えていた――。
『どうせこれだって少女マンガみたいな、ありえないご都合主義のバカげた話なんだろ。恋愛脳が書いたバカな話に決まってる。世間ではなぜか特別視されがちだが、恋愛だって一つの人間関係に過ぎないというのに、なぜ人は恋愛だけを特別扱いするのだろう。そうして恋愛を美化して美化して美化した結果、なんだかよくわからないうちにお互いが惹かれ合ってキスして終わりの物語、そうに違いない』――と内心、僕はまだこの物語のことを小馬鹿にしていた。
そんな僕だったが…――この『夢見の恋人』を読み進めてゆくうちに、そうした感情はまるで、わたあめが水に溶けてゆくようにすー…っと、たちまち消えていった。
いや、そういった否定的な感情が無くなったばかりか、読めば読むほど僕はこの物語に、まるで沼へとずぶすぶと沈んでゆくかのように没入してゆき――さんざっぱらバカにしていたくせに――あっという間に僕は、すっかりとその『夢見の恋人』に夢中になっていったのだ。
それこそその日は夜通し没入していて、気がついたら朝になっていたくらいだ。
そうして知らぬ間に徹夜までしていた僕は、暇さえあればそれを読み、そのあとたった数日で『夢見の恋人』、そして『夢見の恋人― 2 ―』まで読破した。…僕はそれほどに集中し、のめり込むようにして読んでしまったのだ。
そして僕は、『夢見の恋人』を読めば読むほど、いや読み終わってもなお、こう思っていた。
ユメミはなぜか、僕に似ている…――。
それこそ初読であった当時の僕だって、一人で物語に夢中になっている分には何も恐れず、気が付いたときにはもう、いつの間にやら夢中になって――感情移入が容易どころか――自分にそっくりなユメミに関してだけいえば、僕は自己投影すらしてその、『夢見の恋人』を読んでいたのだ。
“「ァほんと? いやー私、なぁんかね…いやなーんとなくですぞ。やあーあのお話に出てくるユ メ ミ く ん が 、どーーもユ ン フ ァ さ ん に 似 て い る ような気がしてね……?」”
「……、…」
確かに、ユ メ ミ は 僕 に 似 て い る ――。
すると、あるいは『夢見の恋人』に、何かしらのヒントはないだろうか。――ソンジュさんはもしや本当にpine先生で、もしや…僕をモデルにして、ユメミを…なら僕たちは、もっと前に出会っている…のか?
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