466 / 689
35
「あ、会えないってなんだよ、ユメミ、なぜそんなことを言うんだよ…」
しかし、カナエにとってそれはショックなことだった。
何も知らないカナエは、高校を卒業してもユメミと関係を断つつもりなど毛頭なく、むしろ高校を卒業するタイミングで、ユメミに告白しようと決めていたのだ。――なぜ、と尋ねたカナエの言葉に、ユメミは遠く窓の外の夕暮れを見て、振り返らなかった。
「なぜかな。そんな気がするだけだよ」
そうとだけ言って、ユメミは見ていた窓のロックを外し、ガラリとそれを横に引いて開けた。――すると聞こえてきた、文化祭のフィナーレに校庭で開催されている、舞踏会のワルツが聞こえてきたのだ。
「そんな気って、」更に問い詰めようとしたカナエ。
そこで振り返ったユメミはニコッと、困ったように笑って立ち上がり、カナエの手を取った。…カナエは大好きなユメミの、その白くて大きな手に言葉を失った。――そしてユメミは無理やりカナエを立ち上がらせ、「踊ろうよ」と微笑み、そっとカナエの体に身を寄せた。
ユメミの綺麗な微笑が一瞬間近に見えて、近くで見た透き通った薄紫色の瞳が綺麗で、カナエはまた何も言えなかった。ドキッとしたからだ。
ふわりと嗅いだこともない、甘くて素晴らしい桃の匂いがユメミから香った。……二人は踊り出さなかった。
そしてユメミもまた、カナエの大きな体にドキドキしていた。…カナエから香るほのかな汗の匂いが、なにかやけにとても良い匂いに感じていた。――二人は“運命のつがい”であった。
ゆったりとした優雅な音楽が窓の外から、ノイズ混じりに聞こえている。
二人はそのまま自然と、ぎこちなく両腕を動かして、抱きあった。
震えている手でユメミの腰を抱き寄せるカナエ、カナエの背中にそっと両手を回したユメミ。――カナエはたまらなくなって思わず、
「ユメミが好きだ」
言いながらカナエは、ユメミを強く抱き締めた。
それに意表を突かれ、驚いたのはユメミだった。
「え…?」
「俺、一目惚れだったから。初めてのとき付き合ってっていったのも本心だった。此処で寂しそうに外見てるユメミが、すごく綺麗だったから。…っというか、ユメミは本当にいつも綺麗だ。見た目も本当に綺麗だし、お前の中身も本当に綺麗だ。…可愛いと思うときも、カッコいいなコイツって思うときも、美しいって思うときもある。ずっと…ずっと好きだった、お前のことが…」
待ち望んでいながらも、叶ってほしくはなかった“夢の言葉”にユメミは、はっと小さく息を呑んだ。
ともだちにシェアしよう!

