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「…ふふ、可愛いな…感じてしまったの…?」
「…ごめんなさ……」
「どうして謝るんです。可愛かっただけなのに」
「……、…」
僕は、ふる、と俯いた顔を横に振った。
モウラも僕を抱きながら『可愛いじゃんユンファ』といった。――まさか嬉しくなんかない。嬉しくない。嬉しいわけがない。
僕が可愛いはずがないのだ。真に受けたら駄目だ、あとで苦しくなるのだけはゴメンだ。
「……、じゃあ…眠気がくるまで、少しお喋りでもしていましょうか……」
「ぉわ、…ぁ…ソンジュさん、…」
するとにわかにソンジュさんは、僕の膝の裏をさらい、僕を横抱きにしてきた。
僕は呆然としてしまう。…思えば彼、度々僕のことをこうして横抱きにしてくる人なのである。
178センチの僕を軽々、ひょいっとだ。――ずっと思ってはいたのだが、さすがにアルファというべきか…彼、僕のことをあまりにも軽々と横抱きにしてくるのだ。
「……ぉ、重く、ありませんか…? あの、無理にそうなさらなくて結構です…、僕、図体がデカいので……」
しかし、それこそ僕は、割と図体がデカい。
たとえば体の小さな女性や、あるいはオメガ男性でも普遍的な体格の人ならばともかく――178センチ、骨格も骨太、痩せ型とはいえそこそこ筋肉質。
そんな男の僕を無理してわざわざ横抱きになんかしなくとも、僕はそもそも別に、自分で歩ける。――脚の痺れは本当にもうほとんどなくなっているし、わざわざこんなことをする必要はない。
するとソンジュさんは、きょとんとして僕を見下ろす。
「…重たくなんかありませんけれど…お 姫 様 抱 っ こ は、あまりユンファさんのお好みではありませんか。」
「……、お姫様、抱っこ…?」
なんだ、それ。…いや、なんとなく聞いたことはあるような、ないような…――訝しく思った僕は一旦目線を伏せたが、またチラリと瞳でソンジュさんを見上げた。…僕を見下ろしているソンジュさんは、狼の顔でもわかるほど、甘い笑みを浮かべている。
「ふふ…俺は…俺の王子様を、こうしてお姫様抱っこ…ならぬ、王 子 様 抱 っ こ したいというだけなのです。俺がそうしたいというだけですよ、ユンファさん」
「……はあ…、……」
なんだかよくわからないが、とにかく、ソンジュさんがあえてしたいことらしい。――いや、僕は別にこれが嫌なわけではない。…良いとも悪いとも思わないが、ただ僕はそれなりに重いから、ソンジュさんにご迷惑なんじゃないかと、いわばそれが心配だっただけなのだ。
僕はまた瞳を伏せたが、ソンジュさんは何か見兼ねたように。
「……。つまりお姫様だっこ…というか、王子様だっこというのはつまり、恋人にだけしてあげたいこの行為のことです」
「はあ。…ですが、お姫様とつくなら、本来女性…」
「俺の世界で一番可愛い王子様は貴方だけですから。俺が強いてユンファさんにのみしたいこの行為のことを、王 子 様 だ っ こ と定義しています。」
「……はあ、そうですか。そうなんですね、ありがとうございます…、……」
よくわからないんだが、そういうことらしい。
いやしかし、それほど特別感を覚えるような行為なんだろうか、このお姫様だっこ…いや、王子様だっことは。もしか、世間に浸透した恋人同士ならではの行為なんだろうか? ――だが僕にしてみればどちらかというと、介 護 されているような気もしないでもないんだが。
「……、やっぱりこう…ユンファさんにはたまに、伝 わ ら な い も の がありますね…」
「…す、すみません……」
また何か鈍いことを言ってしまったようだ。
運ばれながら、僕はなんとも言えない気持ちになった。
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