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                 ユンファさんのその高潔さときたら、いまだに惚れ惚れとしてどうしようもなく、「好きだ、ああ好きだ」と痺れるほどだ。申し分ないほど容姿も世にも美しい青年。賢く思慮深い性格と、高潔な精神。付け加え()()()()()()()……兎にも角にも、ユンファさんは俺の婿として三拍子揃った完璧な人である。その実俺は、彼が五条ヲク家に生まれていようがいまいが、ユンファさんを選んだことだろう(まあ猫も杓子も上手く使うに越したことはないがね)。    容姿こそ月下美人の名に恥じない端麗さがあり、妖艶ながらもどこか壊れそうに儚げな人でありながら――とはもちろん、今彼の名の字を知ってから思うことだが――、精神のほうは何らか弱いところのない、誇り高き騎士、高潔な狼を思わせる人が、あのときのユンファさんだった。  いや、その容姿にも、月華に染まった銀狼(ぎんろう)を思わせる聡明で澄ましたところはあるが、それでいてどことなく儚げな美を纏っている人でもあるのだ。    夕暮れの中に幻を探しているかのような、夢見がちな遠い眼差し――目尻のツリ具合は彼の意思の強さを現して、とても高潔そうだった。それでいて真っ白な切れ長のまぶたは恍惚に近くゆるみ、キワに生え揃った黒々としたまつ毛は長く、そのまつ毛の先に重たく宿る憂いは、彼のまぶたを伏し目がちに、彼の瞳を朧げにした。  高い鼻は男の翳りをもっていた。やや面長ぎみの男らしい、シャープな輪郭もまた、繊細な男の色香を香らせていた。精悍さのある美形でありながら、どこかわずかに中性的な、艶めかしい柔和さ、端正な儚さもあった。    鴉の濡れ羽色――黒が濃く、濡れたような艶のある艶美な髪が、澄明(ちょうめい)な青や紫を下に潜ませた白肌によく映えて、とても艶めかしかった。  彼の瞳は、影や光の具合によって群青にも赤紫にも濃い紫にも、はたまた薄紫色にも変わって、あたかもクラックの入ったタンザナイトのようにキラキラと、いくつものさまざまな色を宿して輝いていた。  艶ののった赤い唇がぷっくりとしていて、とても妖艶な印象だった。それでいて感触は弱々しいほど、とても柔かった。  彼の男らしく広い肩を、もっとよく眺めておけばよかった。今でこそあの端正な山の裾野をうっとり眺められるのだが、あのときは彼の広い肩からあえて目を逸らしてしまった。――己の負けがそこに広がっていたからだ。    生白の流れるような首筋は長く、ぽつんと浮かんだ喉仏が、白く痩せた大きな手が――彼の体のパーツの一つ一つが、とても男らしいセンシュアル(官能美)を持っていた。  爽やかでかろやかな男性の低い声――あの声があっと上擦れば、どれほどの激しい肉欲を覚えることだろう。    それに、あの優しい手――清く美しい手だ。  あの手にも恋をした。俺を守るように、俺の手を包み込んだ彼の手は、本当にあたたかく気高い手だった――。    艶めかしい魅力をもち、したたかなまでに人を誘惑するようでいて――儚げな奥ゆかしい清らかさがある。  獰猛な狼のような人でありながら――穏やかに微笑む、月のような人でもある。    なんて気高い人だ。  なんて美しい人だ。    貴方のその美しい瞳には、僕が見えていただろうか?  いや、きっと見えていなかった――一度だってあの瞳の中に、僕は映らなかった。悔しいな。  貴方の美しいタンザナイトの目には、僕はどう見えていたのだろうか?  頼りがいがなくて非力で、馬鹿で我儘な少年――とても張り合いのない、男とさえ見做されない小さな子供?    どうしたら僕は、貴方の瞳に映ることができるの?  僕がどんな男になったら、貴方は僕を見てくれるの?  僕がお迎えにあがるまで、絶対に()()なんかしないでね。  僕の恋人…僕の夢見の恋人…僕のユメミ――貴方は僕だけのもの。だって神様がそう決めたんだもの。  僕はこれから先、ずーっと貴方だけを愛すると約束してあげるね。貴方だけだよ。貴方だけ。僕はもう絶対に貴方にしか恋をしない。もし万が一貴方以外の人に僕が恋をしちゃったら、死ぬからそれで許してね。来世では絶対にまた貴方だけ。貴方だけを見てあげるからね。でも――その前に貴方も殺してあげないと、二人で生まれ変わるときに間に合わないかも。    ううん、でも大丈夫。  僕って凄く一途な男だから。  絶対に僕も浮気なんかしないよ。安心してね。   「……はぁ…、ふふふ……」    あの日からしばしば、俺の呼吸は浅くなった。  ユンファさんを思い出すと――決まって死にそうだと思うほど、俺の肺や心臓はあの桃の香で浸潤した。すると俺の心臓はむしろもっとよく働いたが、しかし一方の俺の肺は、ひとまずのところ機能を縮小したのだ。      それはもちろん――彼を想う時間、素晴らしく甘い夢想に、耽溺するためにね。         

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