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そうして俺はあの雪縞 ・玉 ・嘉綯緯 に身分を借り、またクレジットカードも借りて、あの『DONKEY』でユンファさんを指名予約したのである。
なお『DONKEY』のシステム上予約はネット予約のみであったため、俺はその店の公式サイトに訪れる必要があった。…またこの店で指名予約(飛び込みではなくキャストを指定しての予約)をする際には、キャストのプロフィールページから予約を入れるシステムである。
もちろん俺は迷わずユンファさんのプロフィールページへと飛んだ……とはいえ。――彼に関する情報収集に凝っている俺が、この黒とマゼンタ調の妖しいプロフィールページに初めてたどり着いたわけがないことは言うまでもない。
この『DONKEY』でのユンファさんの源氏名は「月 」だ。
そして触れ込みは『〜某アルファ名家の血を引く、麗しき変態マゾメス奴隷〜』
ちなみに『DONKEY』の公式サイトに載っていたユンファさんの宣材写真の一枚目は、ギリギリ両目を映さない目元下から胸板までのバストアップのものである――しかしそうして一応目元ばかりは映し出されていないものの、彼はボタンの一つも留められていない白いカッターシャツを羽織っているのみで、そのバスト部分はほぼ裸といって差し支えない――。
この写真は青味かがった白い大理石風の壁を背景に、ユンファさんのあらわな白い胸板までが映されているだけといったような、かなりシンプルといえばシンプルな構成の写真だ。
しかしそうして画面構成が単純であるからこそ、彼の横顔に近い左斜め向きのよりセクシーに見える角度であれば強調される、その耳の下から顎にかけてのシャープなラインや逸れて浮いた長い首筋、痩せている鎖骨あたりの官能美をじっくりと堪能し尽くせる珠玉の一枚となっている。
その肌は全体を通して青ざめているというほど澄み渡って白い。背景の青味かがった白い大理石にも負けず劣らずの冷たい白さだ。というよりか、むしろ背景の大理石のほうが、彼のその青白い月華のような澄明な肌の色に迎合しているかのようである――ユンファさんの肌の色に合わせた色調補正によって、むしろ大理石のほうがより青白くなっているようなのだ――。
しかし、まあ一般的にセクシーな肌色といえば、ぬくもりに満ちた血色感のある色味というようなイメージがあるだろうか? 例えばポッと火照った頬など、血の色とは確かに何か「情事中」を彷彿とさせる艶色といっていい。
だが――それだけが色気だというのなら、それは全く短絡的な考えである。
むしろこの血の気の無さがまた儚げで艶 めかしいのだ。――肌の露出は多いというのに清潔感さえ覚えるほのかな青味、その透明感のある白い清艶 さにこそ思わず襲い掛かってむしゃぶりつきたくなるような、骨盤の底から込み上げてくる男の破壊欲を掻き立てるような、ユンファさんの白い肌にはそういった危ない情念を唆 られる魅惑が漂っている。
むしろこの冷艶とした白肌を生き返らせるかの如く自分が赤く染めてやりたい、激しく犯せば一体どのような肌色になるだろうか、などといった――いわば彼の肌には男の淫らな空想を許す「余白」がある。であるからこそ、肌一つにも奥深いエロティックがあるのである。
さてその白い横顔気味のシャープな輪郭線、耳の下の角から顎までのなだらかな坂道は脂肪が無くくっきりとして、また斜めの角度ではより端正さが強調されている高く鼻筋の通った鼻、それらの造形はいかにも美男子のそれである。
そして今にも「どうか僕を抱いてください」と、哀婉 のか細い声で懇願してきそうに緩く合わさっている肉厚な上下の唇には、血のように透明感のある、深みのある濃い赤のぷるんとしたなめらかな艶がある。
――肌が生白いからこそよく映えるこの赤い唇よ!
その赤い潤いの甚 だしさはまるで、その上品な造りの唇に赤い血をたっぷりと塗りたくったかのようであるが、のみならず今にもその赤い血が彼のふくよかな唇からこぼれ滴って、お行儀悪くその白い顎に赤い鮮血を伝わせそうなほど潤んで見える――もちろん「血」とはおよそ比喩であり、ましてや今現在のユンファさんの唇の素 の 色 は青みがかった桃色であるため、恐らく写真撮影の際に口紅やリップグロスでも塗られたのであろう――。
またその唇は斜めから見ても可憐に横幅は狭いほうであり、彼の唇の口角は「無」ではありながらも下がっては見えない。
そもそもユンファさんの厚い上唇は山のそのM字のメリハリがしっかりとして形が良く、下唇にしても、ぷっくりと内側から潤いで満たされているかのように膨らんでなめらかにつるんとしている。…また斜めの角度からの上唇と下唇の境い目が殊 に妖しい。上唇の山のM字に添うように緩やかなM字のカーブを描く、その何ら角のない緩やかな曲線のラインは肉感的な立体感がある。そして、その肉感的な曲線に添って上下の唇の境い目に生まれている陰影の濃い赤が何とも凄艶 な様相である。
斜めからの角度、そもそもの唇の横幅の狭さ、艶のある透けるような赤に染められた唇の合わせは緩い――それらの要素が巧みに複合されて――より際立つ上下の唇のぽってりとした分厚さはしかし、黄金比率というほど形が良いために、いわゆる「たらこ唇」というような野暮な印象を抱かせない。
むしろ平坦なる写真でも分厚いからこそ肉感的なこの唇は、ぞっとするほどに美しくも蠱惑的だ。
唇が肉厚であるからこそたっぷりとした柔らかさがありそうだと、この唇が己の全身の皮膚に触れる快感をさえ彷彿とさせるような、貪りたいと、この唇に咥えられたいと、己の肉体のあらゆる場所にキスをさせたいと、この唇に貪られたい、噛み付かれたい、Love biteさえやぶさかではない、啄 まれたいと、むしろ形の良い肉厚さがあるからこそ誰しもがそう唆られるような凄艶な唇である。
その赤い唇から更に目を下げよう。
すると白いカッターシャツの立った硬質な襟の柵の門は無防備にも大きく開かれている。せいぜいがうなじを守る程度の頼りない襟の柵の元、やや斜め向きの顔に伴って浮かび上がっているその流れるように美しい長い首筋はやはり生白く、その首の裏に一房ばかり覗いている長めの襟足は白に囲まれていれば際立って黒い。
そして、その首に嵌められた金の南京錠つきの赤い首輪は肉厚で太く、何かしら危うい絶対的な隷属を匂わせている。
また彼の顔はやや右を向いているので、その左耳の可憐な淡い薄桃色の耳たぶにつけている、冷え冷えと冴えた銀の十字架のピアスの全貌も写っている。
およそ十センチないくらいでも目を惹くような存在感があるその十字架は、厳かなる神の神聖なる自己犠牲と神の救済、そして神の慈悲深き愛とを彷彿とさせるが――しかしその銀に輝く神聖な十字架のすぐ下に、悍 ましささえある絶対服従を示唆する赤い革の首輪があるのだから、込み上げてくるこの言いしれぬ危うい背徳感には全くまばたきさえも忘れてしまったほどだ。
まるで神と悪魔の和解、淫魔として神に寵愛されている美しい天使、神聖なる屈服と神秘的な慰み、神の欲望から守護されている性愛と美の象徴、特別な加護と恩寵とを受けられる聖なる神の愛玩物 ――芸術的だ。
更にその首輪から目を下げれば、白いカッターシャツを纏うユンファさんの広い肩はやや丸まっている。
というのも、ユンファさんのカッターシャツの袖を纏う肘から曲がった片腕が彼の生の胸板の下を通り、そして彼は、反対側の同じく白いシャツを纏った二の腕にそっとその四本の白い指を添えるようにしているためだ。
但しその片手の半分はカフスボタンの留められていない淫靡な袖口に覆われており、そこから覗く長い四本指の先の大きな爪の腹は薄桃に色付いて艶 めいている。
しかしシャツはボタン一つ留まっていないため、彼の痩せた長い鎖骨は付け根まで見えそうである。繊麗 と浮き彫りになっている鎖骨の形を強調する影の色は、彼の肌があまりにも白いばかりに淡い。その青味の含まれた白っぽい淡い灰色が濃淡を以って悲しげな翳りとなり、その鎖骨の造形の完璧さと艶めかしさとを際立たせている。
その造形はミケランジェロの最高傑作とも評される、ダビデ像の美しい首元をも彷彿とさせるほどである。なめらかな肌の白さも相まってか、何かそのように造り物めいてさえ見えるほど完璧な造形だ。
そしてその鎖骨の下には、やはりダビデ像よろしくうっすらと青年らしく膨らんだ白い胸筋が――雪のように白く眩いその胸板には無垢な乳輪の小さな薄桃色の乳首、しかし無垢な薄桃の乳首の先はぷっくりと妖艶にも一センチはあろうか、その上その両方の先についているのは隷属的な妖しい銀のリング――ニップルピアス――だ。
意図的なトリミングによって目元は見えずとも、これだけでもユンファさんの艶麗な容姿はありありと伝わってくる。――男の期待を唆るにはもはやこれだけでも十分といえるだろうが、
しかしユンファさんの宣材写真にはその他にも、彼のその魅惑的な全身を映した写真まで何点かあった。――そのいくつかの写真は俺が思うに、とんでもなく「(男特有の)Standing ovation」を余儀なくされるものである!
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