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               もちろんあのバストアップの写真のみでも十二分にヌけ……いや、――バストアップの宣材写真を横にスクロールをすると現れる、ユンファさんの全身を映したいくつかの写真。  それはとにかく人の情欲を誘うように意図された、彼の肉体の魅力を扇情的に強調した写真である。ただしいずれの写真にも彼の目元を隠す黒い目線が入っていた。    まず一枚目――妖しい雰囲気の赤と黒とを基調にした薄暗いゴシック風の部屋だ。その二色の濃淡はあれど、この部屋にはほとんど赤と黒の要素しかない。基調となっている赤と黒も、黒はより黒らしく、赤は妖しげな少し暗い赤だ。  その赤と黒を基調にした部屋には、何かしら黒一色のカウチソファや壁掛けのシャンデリアなどインテリアがあるらしいが、何せ背景は背景である。部屋のインテリアもそれの造形も何も重要ではない、重要なのは被写体であるユンファさんである。要するにユンファさんにピントが合っているため、背景の赤黒の部屋の内装はかなりぼやけて不鮮明なのである。    そうした赤と黒の部屋を背にしたユンファさんが、天井まで貫いていようかという銀のポールを黒革の手袋を着けた手でゆるく掴み、細いそれに縋り着くように身を寄せながら立っている。なおこの写真には、彼の頭からつま先までとその人の全身が全て一枚に収められている。    しかし、この写真のユンファさんが身に纏っている衣装で何より特筆すべきは、彼の左耳の十字架のピアスや赤い首輪やニップルピアス――それ以外の衣装である。  彼がその細長い扇情的な肉体に纏っている衣装は、その細身にぴったりと張り付き、その体の艶麗なる形を浮き彫りにする黒い柔らかい革のボンテージコート――ぴったりとした袖は七分丈であるが、肩の丸い部分はくり抜かれて黒に映える白肌が見えている。その肩と鎖骨の付け根の骨の出っ張りが何とも扇情的である。  また鎖骨あたりに二本の黒い革のベルトが留められており、その上は赤い首輪は見える前面の開いた立て襟である。  しかし、その下の胸の部分はくり抜かれているばかりか、その白い胸板は胸の中央に通う黒い一本のベルトから脇のほうに繋がる、等間隔の五、六本のややたわんだ銀のチェーンに飾られているばかりである。すなわちほとんどその白く平たい胸元は丸見えといってよいが、むしろ単に胸やその乳首、ニップルピアスを晒しているよりか銀のチェーンに飾られているこのほうが、よっぽど何か(良い意味で)いやらしい。    また胸の下からはその細腰(さいよう)を浮き彫りにするコルセットのようなレースアップ、そして、平べったい白い下腹部に浮かぶような淫猥な卵巣、卵管、子宮を象った赤と黒のタトゥー上から(へそ上あたりから)八の字に広がる黒革、そこから彼の膝下あたりまですとんと裾が落ちる黒革の――こうしたボンテージコートを、ユンファさんは身に着けているのである。    また丸い小さいへそ上から末広がりの黒革では、当然タトゥーのある下腹部から下の下半身もほとんど丸見えだ。  ユンファさんが穿いている下着は(もちろん男の膨らみはあるが)黒レースのパンティと呼べる逆三角形のもの、彼は何と赤レースのガーターベルトまで着けている。  へそ上の腰の骨の始まりあたりに留められた赤いレースのそのガーターベルトは、赤い横一線から二つ腿のほうへ丁度葡萄の一房が垂れ下がるような形の、赤の逆三角形のレースが垂れ下がり(その二つの逆三角形の間に下腹部のタトゥーのほぼ全貌が見えている)、その逆三角形の終わりには小さな黒リボン、リボンから繋がる二本の赤い紐は黒い下着の下からはみ出て、彼の白い細い両腿の中央を通ってゆく。  その赤ガーターの紐と繋がるのは股下十センチほどまである黒ストッキング(ガーターの赤い留め具が噛み付いている端には十センチ幅の黒レース付き)、更に彼は、十センチはあるだろう高いピンヒールの黒いパンプス(靴裏ばかりは赤いため、細いヒール裏の赤がちらりと覗いている)を履いている。    そのような衣装を身に纏っているユンファさんが、あやしいフックのある銀のポールを黒革の手袋をはめた手でゆるく掴み、そしてその棒に縋るよう身を寄せて立っているのだ。――すらりと背の高い彼はパッと見にもまるで人形(フィギュア)のようにスタイルが良い。  肩幅は広いが腰は細く、足首辺りでクロスしたヒールの高いパンプスを履く両足はその脚が細長いことをより際立たせるが、その手脚の長さから比較すると彼の顔は驚くほどに小さいのである。  銀のポールの影から覗くシャープな細面(ほそおもて)、あらわななめらかな白い額、やや長い艶美な黒の前髪は痩せた白い両頬の側面にかかり、艶やかな端正な黒い眉は憂いて力ない――そして目元を隠している黒い目線――高い鼻、半開きの赤く肉厚なその唇は、今にも画面越しの俺へと恐る恐る話しかけてきそうだ。    すると思えばこの部屋の赤と黒の基調は絶妙といえる。  黒革のボンテージコートに黒い手袋、その靴裏は赤くもボディの黒いピンヒールパンプスにしろ、赤いレースのガーターベルトに黒レースの下着と黒いストッキングにしろ、そして何よりユンファさん自身の濃い黒髪と深い血のような赤の唇にしろ、この赤と黒の組み合わせはいかにも妖しく刺激的で、大変官能的だ。何よりこの濃い赤と黒には、よりユンファさんの艶めかしい白肌がよく映えて素晴らしいのである。  ましてやこれほどの美男子がこんなにも妖しい格好をしているとは、……大変淫ら。だけれど耽美。あぁ素晴らしい。Standing ovation!      更に、ある一枚の写真ではその衣装を着たユンファさんが斜に顔を伏せ、やや内股気味に膝を立てて床に座っている。撮影した部屋は先の一枚と同じ部屋のようである。床は赤と黒の市松模様だ。    なおこのとき彼が下着を穿いているのかどうかも判然としないのは――だからこそStanding ovation――、彼の両腿に挟まれた彼自身の両腕、その黒革の手袋をはめた両手でユンファさんが自分の股間を隠しているためだ。  ユンファさんの目元はやはり黒い一線に隠されていて見えないが、彼がはにかんだようにやや斜めに顔を伏せているのもまた一つ、「もしやこのときは下着を穿いていなかったんじゃないか」と思わせるエロティックがある。ましてやその憂いの滲んだ力ない赤い唇は、静止画だというのに羞恥に起因する儚げな震えさえも感じ取れるのだ。    また膝を立てて床に座っているために覗いている白いお尻(ここにも下着の気配がない!)のほうから、白い腿の裏の中央を通っている赤ガーターの紐が(エロい)、「隠すな、きちんと見せなさい」と命じれば目に涙を浮かべて股間から手を退け、のみならず震えながらも自ら両方の腿の裏を持って脚を開くというような絶対服従を匂わせる赤い首輪が(エロい)、その黒ストッキングに透けている真っ白く細い両脚の内股気味のしなが(エロい)、それでなくとも脚の細長い彼が高いピンヒールを履いているこの妖しさが(エロい)、黒い革手袋の手に隠された秘所の膨らみ(を想像すると堪らない)、銀のチェーンばかりではほとんどあらわな白い胸板でも、ギリギリ黒い七分丈の袖の両腕で隠された乳首が……(なるほどStanding ovation)。      更に、ゴシック調の一脚の黒ずくめの椅子に座っているユンファさんが、物憂げに俯いている一枚の写真。また同じ赤と黒の部屋である。  彼の赤い首輪に繋がる銀のチェーンは椅子の側の、画面から見切れるほどに高い銀のポールのフックに留められている。そして、黒い一線で隠されている彼の目線の先には恐らく、手首に銀の手錠ががっちりと嵌められた自分の黒革手袋の両手の甲がある。  またユンファさんの手錠で拘束されているその力ない緩んだ両手は、膝から下の(すね)を八の字にするよう膝同士を着けて閉ざし合わせた白い細い両腿の、その赤ガーターの紐が繋がる、半分以上が黒ストッキングとそれの黒レースに飾られた両腿の上に置かれているのだ。    椅子に座るその人が纏っている雰囲気の従順そうな(しと)やかさにも相まって、黒革ボンテージもくり抜かれた胸元の銀のチェーンに飾られている白い胸板、そのチェーンから覗く無垢な薄桃色の乳首の先についた銀のニップルピアス、胸板中央の黒の縦線を目で辿ればレースアップに固く締め上げられている細腰が目に入る。そこから下腹部の淫猥なタトゥー、そして小さくなった黒の逆三角形……何とも言いしれぬ背徳感を醸し出している。  またその八の字になった黒ストッキングを纏う膝から下はまっすぐとして細長い、その骨っぽい足首はしかし男らしくしっかりとして、その上で履いている高いピンヒールの黒パンプスのつま先は内向き、黒パンプスのチラと覗く靴裏の赤……いっそエロとは芸術である。  ちなみにその他にもこの写真には、ユンファさんが座る椅子の傍らにある丸テーブルに各種アダルトグッズ(バラ鞭やらバイブ、ディルド、口枷やロウソクなど)が乱雑に置かれている。…あたかも今から僕はこれらで調教されます、いやむしろ「どれでもお好きなものを使って、僕のことをどうぞお気の済むまでご調教ください…」とでもいうような危なげのある写真だ……(もちろんStanding ovation)。      他には――赤と黒の市松模様の床でユンファさんは四つん這いになり、頭を床へと下げて、カメラへと細身のわりに柔らかそうなふっくらとした白いお尻(穿いているのは黒レースのTバックである)を向けている写真。ボンテージコートの背面はその細腰から膝下の裾まで真っ二つに分かれているため、その黒レースTバックを穿いた彼の白いお尻はサイド以外ほとんど見えている。    しかし四つん這いというと少し違うか、画面奥で床に片頬を着けているユンファさんの、そのガーターの赤い紐が食い込んでいる白いお尻の上には銀の手錠が嵌められている両手首が乗っており、その黒い手袋をした両手の四本指は軽く尻たぶを開いて見せている――ちなみに彼の背中はボンテージの黒い革で全面覆われているが、寄せられて盛り上がって見える肩甲骨の両翼が美しい――。  しかも、彼の赤い首輪に繋がっているのだろう銀のチェーンはやはり側のポールのフックに留められているらしく、それは緩やかなカーブを描いて宙に浮いているため、するとこのまま一切の抵抗も許されないうちに犯されてしまいそう、いやむしろユンファさんのほうが「どうぞ犯してください」とでも言いたげな格好である。    とはいえ、そうして彼は自ら軽く尻たぶを開いている上、いくら穿いている下着がTバックとはいえども――彼が着用している下着は「男用のポケット」がある上、それのクロッチ部分は細いとはいえ紐というほどの細さではない。そのため、(正直残念なところもあるが、これもまた「余白エロ」)際どいところまで見えてはいながらもアナルはギリギリ端さえも見えてはおらず、その下にあるのだろう膣口に関してももちろん黒い道に隠されていて見えない。  しかし、黒い下着に覆われているふっくらとした男の膨らみには重厚な存在感もあり、これは大変……「後ろからお好きなように、お好きなほうで、お好きなだけ僕のことを犯してください」とでも言いたげな、なんとも服従的な妖しさのある写真だ(秒でStanding ovation)。      また俺の『曇り華ときどき甘露雨(秘蔵のユンファ)フォルダ』が潤ってしまった…――何度Standing ovationをしたことか…一体ユンファさんは、何千回俺にStanding ovationをさせれば気が済むの…? 全く困った人――しかし願わくばどうか、どうか実際にこのコスチュームを身に纏ったユンファさんを生で見たい、というかこの格好をしたユンファさんをたっぷりと俺が可愛がってあげたい……あぁまた(はかど)る。      ――Standing ovationが。         

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