581 / 689

41

                  「…ところで…」    と真剣に切り出しながらユンファさんは、俺を抱き締めていた腕をゆるませ、俺の顔を見てくる。   「……ん?」    俺はユンファさんの途端に沈んだその声にはたと、また彼の顔を八センチぶん見下ろした。――ユンファさんは申し訳なさそうにその端正な黒眉を翳らせており、彼は俺の目を心配げな切れ長の目で見ながら、   「…三ヶ月も……それは随分お待たせしてしまったようで、大変申し訳ありませんでした……」   「……え…?」    と俺へ、なかば本気で真摯に謝ってくる。  俺は驚いて目を丸くした。まさかそんなことで、真摯に謝られるとは思ってもみなかったためである。……だが、確かにそういえば、先ほど俺が「三ヶ月も待ったんだ」というようなことを言ったなり目を丸くしていたユンファさんは、俺が今夜までに過ごしてきた三ヶ月という、その待ちぼうけ期間の長さに少し驚いていたようである(ただ真実をいえばもちろん、俺は三ヶ月どころかおよそ十一年の時を経てしてやっと、こうしてユンファさんとの「再会」を果たしてはいるのだが)。    思えばその時点で少し過剰というか、(真実の)十一年ならばまだしも、三ヶ月程度に対してならそう真摯に受け止める必要もなく、驚くまでのことでもない。リアクションとてせいぜいが「ええそうなんですかー? 随分待ちましたねー」くらいで十分足りるだろう。こと今のユンファさんは、他人のことを気にしすぎなのかもしれないね。  とはいえ、俺の愛する人が何か、気を揉まれてらっしゃるようなのは事実――俺はすぐに彼の不安な気持ちを和らげようと思い、(おど)けるように軽くこう笑った。   「はは、いやそんな……まあそう、確かに俺は三ヶ月も待ったんだ。…ユエさんとこうして今夜会えるまでに俺は、三ヶ月も待った…確かにそれは事実だよ。――それこそこの三ヶ月間、俺は本当に毎日毎日、今このときが待ち遠しかった……まるで遠足の日を心待ちにしている、小学生のような気分だったよ」    と、俺は冗談っぽい笑いを含ませた声で、俺なりにちょっとした冗談を言ったつもりだ。俺はこれでユンファさんにくすりとでも笑ってほしかったのである。――しかし、彼は依然としてその美しい顔をしとやかに曇らせたまま、あくまでも下手(したて)の態度で俺の目を見てくる。   「…そんな、毎日ですか……それは本当に、随分お待たせしてしまって……」   「いや…はは、……」    困ったな……まさかシリアスに捉えられるとはね。  ……それにしても…まあ確かに、と俺も思うところがある。  それこそ先ほどから思うに、あまりにもユンファさんにはこの『DONKEY』で、晴れて「No.1キャスト」とまで登り詰めただけの納得の理由がある。やはり彼が「No.1キャスト」とまでなったのは、何も「NN(ナマナカ)」という禁断の果実の蠱惑性ばかりではなく、彼自身の実力と、元々のユンファさんの魅力による真っ当な人気と見て間違いなさそうだ。    例えば今もそうである。  確かに「No.1キャスト」とまでなっている人にして、このようなユンファさんのしおらしい態度はやはり何とも人好きする、謙虚な品の良い印象を人に抱かせるようである。    それこそ「No.1キャスト」ともなれば肩書きにしろ華やかである。それを悪くいえば、多少ギラギラとしたところや大胆なところ、歴戦のキャストならではの心得顔や得意顔とて垣間見えそうなものではあるが――ただ、必ずしもそれが悪いということではないにせよ――ユンファさんからはそのようなハングリーさや物知り顔はおろか、裏も表も、どこを探してもプライドの高さより素朴な腰の低さ、無知の知という聡明な奥ゆかしさ、初心から良い意味で何も変わっていないキャスト……この奥ゆかしい態度では、誰の目にもそのように見えて当然である。    また有り体にいえばユンファさんのこの態度は、男好きのする「可愛げ」があるのである。  それもキラキラした若いcuteの可愛さではなく、大人っぽく綺麗なprettyの可愛さだ。また、何かしら苦労の翳りがチラつくような慎み深さであるからこそ、それがまた何とも唆られるほどに色っぽいのだ――喪服の未亡人の白肌がやけに色っぽく見えるようなそれである――。    そしてもちろん、ユンファさんのこの慎み深い謙虚な印象というのは、彼が接客をしてきた客のほとんどが彼に抱いてきた印象なのであろう。  それこそこれまでのユンファさんの態度にしてもそうだが、今はこと顕著であるユンファさんの、このいじらしいほどに慎ましい態度――やはり例の口コミ掲示板等にあった数多くのレビュー通り、「No.1キャストにしてそれらしい慢心がなく嫌味なところのない、礼儀正しくて腰の低い謙虚なキャスト」という、それそのままの印象を俺にも抱かせるようなのである。    ましてや、顔立ちこそこの高潔そうな怜悧な美貌の青年が、とことんまで下手(したて)に出ていじらしく俺を立てようとするとは確かに、男の優越感を十二分に満足させるものと実感をもって思える(ある意味でこのような姿勢は、顧客がほぼ男だろう風俗店のキャストに必要なスキルともいえるかもしれない)。  なるほど性奴隷となってからのユンファさんは、もともとの「(無自覚天然)人たらし」に唆られるような哀愁をも得てして、このように彼は、自然と客からの好評を得てきたのだろう。と、そう感心はするものの…――ただしユンファさんのこの態度は、何も「人に好かれよう」という意図のものではない。  この謙虚な態度が奏功して多くの指名数を得るなど、何か偶然歯車が合ってしまったようだがね……ユンファさんのこれはむしろ「怯え」からくる警戒の態度であり、およそ今、彼が(いちじる)しく自信を失っているが故の態度である。    ましてやこの件でユンファさんが、「自分に非がある」と認めて謝るべき要素など、万に一つもあるだろうか?  つまりユンファさんは今、()()()()()()()()()()に対して、心から謝ってしまったのである――。   「いや、はは…ユエさんが謝ることは何もないじゃないか。ごめんね、嫌味に聞こえてしまったのなら。…俺としては、ただの冗談のつもりだったのだけれど……むしろこれほどお美しい上に賢い、No.1キャストの貴方を貸し切り指名……三ヶ月は待たされて、当然では…?」    まあ俺が今夜の実現に至るまでの三ヶ月間、毎日毎日今日までを指折り数えていたことこそ事実ではあるが、しかし、それほどの期間を俺が待たされたというのは、仕方ないというよりもむしろ「当然」としか言いようがない。    ただ単にユンファさんが「No.1キャスト」とかなりの売れっ子であるからこそ(それもネット上のあちこちで高評価を受けている彼では尚の事)、彼を指名する客が後を絶たず、あれよあれよと次々彼の日々のスケジュール(指名予約)が埋まってゆき、そしてその過密スケジュールを日々ひたむきにこなしていただけのユンファさんに、一体何の非があろうか。  ――まあキャストという立場上のお体裁で「それはごめんなさいね」程度に謝られるのならまだわかるが、ユンファさんは「怯え」から、なかば本気で自分が悪いような気がしていたのだから(ちなみにもうなかばは「憐れみ」といったところである)、全く今のユンファさんは、かなり深刻な程度で「他人の怒り」に敏感になり過ぎているのであろう。   「…ですが……」    とユンファさんは不安げな顔をしているが、俺は笑いながら首を横に振った。   「いや。貴方には何の非も無いよ。万に一つもね」    こうして人の顔色を(うかが)いすぎてしまうというのは、今ユンファさんが置かれている境遇的に考えて、そうなってしまっても致し方ないことである。  今の彼にとっては「他者の怒り(不快感を示した態度)」というのが、例の虐待的、拷問的な「お仕置き」に紐帯(ちゅうたい)しているためだ。――そのため今のユンファさんの精神には、いわば過剰なる自責、自省、自虐の癖がついてしまっている。    もちろん俺は、ユンファさんのその点においても必ず、どうにかして差し上げたいと考えている。――しかし、ユンファさんのそういった自虐的なマインドセットは、肉体の苦痛から躾けられたマインド・コントロールによって、精神的な深い傷(恐怖)と共に刻み込まれているものだ。  潜在意識的な精神は元より、ことそういった根深い「精神の癖」を変えるということは、まず一朝一夕にどうにかなるようなものではない。…ましてや他人である俺が、ユンファさんの精神を是正するともなれば、尚の事である。    太陽は月と共に歩調を合わせ、日々をゆっくり歩むもの……俺にとっても、ユンファさんの歩調に合わせてゆっくり歩むということは、何ら苦ではない――日進月歩だよ…決して焦らず、こうして、少しずつ。   「…俺は少しも怒ってなどいないよ。それに…むしろこの三ヶ月間俺は、久しぶりに毎日が楽しかったんだ。…」    言いざま俺は、やや目を丸くしているユンファさんの、そのひんやりと骨っぽい片手を両手で包み込みながら――ひんやりとした彼の片手をこの両手であたためつつ――その人の白っぽい色味となった薄紫色の瞳を、優しい愛の気持ちで見つめる。   「はは…貴方に会えると思うと、毎日毎日今夜が楽しみでね……言ったでしょう、まるで遠足の日を待ち侘びている小学生のようだったって。…だから、貴方に会える今夜を待ち侘びていたその三ヶ月間も含めて、とても素敵な時間だった。――その素敵な時間はもちろん、貴方がくれたものだよ。…ありがとう」    ユンファさんはまた目を丸くしているが、俺はそう、しみじみと腹からの深い言葉をその通りの低い声で紡いだ。  ――さらに俺は間を開けず、こう一音一音をじっくりと丁寧に紡ぐことで、ユンファさんの心に心地良い愛の重みをかけよう。   「俺はずっと貴方に会いたかったんだ……ふふ――だからこうして、やっと貴方に会えて俺…本当に嬉しいよ」   「……、…」  ユンファさんは先ほどから神妙な顔をし、少しまた驚いている。ただその驚きとは、…まあ俺の恋心のバイアス抜きにも、俺の「優しさに癒やされた」といったところかな。――まあ何なら彼…少しだけ心拍音が速くなり、ドキドキしているのだ(俺は聴覚が狼並みなので、耳を澄ませば人の心拍音も聞こえるのである)が、  但し人とは概して、好意の有無など関係なしにも「見つめ合う」という行為自体に、そういったある種のドキドキとした緊張感を覚えるものである――目を凝視する、されるという行為はほとんどの動物にとって「威嚇」なのである(現代人の中にはその感覚が薄れている人も多いが)。ましてや見つめ合うという行為は、いわば危険を察知するための自分の目を、一時的に拘束されている状態ともいえる――。   「…今夜は、素敵な夜にしようね」   「…………」    ぽけーっとした顔をしているユンファさんは、ぱち、ぱちとその、今はやや丸みを帯びている切れ長の目をゆっくり、しばたたかせる。――ところで……なるほど。  先ほどからの自分の様子からも見るに、どうやらあの「絶世の美貌鑑賞」の時間を取ったのが奏功したか、俺はだんだん月下(ツキシタ)夜伽(ヤガキ)曇華(ユンファ)の圧倒的な美貌にも多少の耐性ができてきたらしい。――なお、しばし目を丸くしたまま固まっていたユンファさんだが、   「……、ふふ…はい。」    とふんわり…「華が綻ぶように」というのに全く相応しい、柔らかく美しい微笑をその美貌にたたえると、自分の片手を包んでいる俺の両手の、片方の手の甲に彼もまた、そのひんやりとした手のひらをそっと添えてくる。   「僕もカナイさんとやっとこうしてお会いできて、本当にとっても嬉しいです。…このお仕事で、こんなに素敵な方に出逢えるとは思いませんでした。――僕がこうして今夜カナイさんとお会いできたのも、きっと何かのご縁ですね。……もしかしたら“エイレン様”が、僕たちをこうして出逢わせてくださったのかもしれません。」   「……んグッ、……………」    しかし俺は顎を上げて息を止めた。…いや俺が止めたというよりか、…勝手に止まった。()()()()()。  なるほどdrop dead gorgeous…すなわち死にそうなくらいお綺麗だ、これが「(無自覚天然)人たらし」の実力たるkiller smile…oh my…いや、明らかに「営業スマイル&営業セリフ(俺が注文した恋人プレイに合わせての、恋人っぽさを演出する導入セリフと微笑み)」だというのにそのふんわりとした美しい微笑、ユンファさんの華、いや月下美人の(かんばせ)的微笑にはやはり、この心臓を金の矢でグッッッサリと射抜かれて死にそう(本望だけれど)、(勝手に)殺されそうです(本望だけれど)。  いやいくら「営業スマイル」とはいえども――ユンファさんのこの艶然(えんぜん)とした微笑に惚れてきた人は、もはや属性別に関わらず多かったことであろう…(アルファ女性もそうなんだが、陰茎も膣も持つオメガ男性は、どだいから全属性別の恋愛対象になりやすいのである)。      俺の(恋)敵は多そうだね…――。     「……? カナイさん…?」   「……、…、…」    いや…――(勝手に)死んでいる場合ではない。  ……俺は顔を伏せた。今のユンファさんのkiller smileによるダメージのせいで目は泳ぐが、 「…と、ところでごめんね…、あまりにも切り出すのが遅かったとは思うのだけれど……」    さて俺よ――いつまで我が最愛の人月下(ツキシタ)夜伽(ヤガキ)曇華(ユンファ)を、玄関のタタキの上に突っ立たせておくつもりだ?    俺たちは幸い、ちょっとした難関(俺のユンファに横恋慕したスタッフからの「(ある意味業務)妨害」)を乗り越えた――というかユンファさんが奮闘の末、見事にそれを乗り越えてくださった――その結果、予定通りに今宵、二人の蜜月の時を過ごすことが叶うのである。    つまりもはやいつまでもユンファさんを、この部屋の出入り口に突っ立たせておく必要などない。彼は少なくとも翌朝の五時頃になるまで、このFantasticなスイートルームに、ひいては俺の側に居てくださることがもう決まっているのだ。    ましてや……何にしても、さっさとユンファさんのために俺が用意をした(というか探して探してやっとの思いで取った)、この「魔法の部屋」へ彼に上がってもらわなければ、何も始まらないことだろう。  ……つい立ち話をしてしまったが、要するに俺たちはいまだ、このスイートの玄関にいるのだ。俺は辛うじて部屋の床を踏んではいるものの、ユンファさんのほうはいまだクリーム色の大理石模様のタタキの上に、黒い革靴を履いたまま立っている状態なのである。    大体ユンファさんと話しをするにしても、まず彼には部屋に上がってもらい、それからソファに二人並び座るでもして、何か温かいものでも飲みながら…がマストであったろうに…――やはり今夜の俺は何かおかしい、やけに凡ミスが多い。  これはぜひ名誉…ならぬ「好意挽回」のためにもと、俺は――。   「入ってから部屋にも上げず、ずっと立たせてしまってごめんね……お疲れでしょう。さあどうぞ、部屋に上がって…」    と俺は言いざましゃがみ込み、片膝を立ててその場に跪く。   「あぁ、ありがとうごさ…、……?」    ユンファさんは可愛らしく大きく目を開けて俺を見ては礼を言い掛けるも、その場にしゃがみこんだ俺にはきょとんとし、その顔で俺を見下ろしてくる。しかし俺はふっと一笑を返してから、さっとユンファさんのくたびれた黒い革靴を見下ろし、その埃っぽい靴の側面を指先で撫でる。   「…どうぞ片足ずつ、お御足(みあし)をお上げになられて。――靴を脱がせて差し上げます」   「……、……へ?」    ユンファさんにしてみればゆくりなく、自分の靴を脱がせようとその場にしゃがみこんだ俺に、彼は一拍と存分に驚いたようである。――しかし、ややあってからユンファさんは「あぁ、いえ」と軽く笑いながら遠慮するなり、自らもその場にしゃがみこむ。  そしてユンファさんは、自分の両膝の上に両腕を重ねて置くなり、顔を傾けて俺の顔を覗き込んでくる。 「…はは、…何だか王子様みたいですね、カナイさん」    とにっこり笑っているユンファさんを上目に一瞥した俺だが、(先ほどの()()()()がまだ残っているので)再びさっと目を下げ、俺は彼の黒い革靴の二つのつま先を見る。   「…そう。俺は、貴方の“運命の王子様”だからね」    なんてね…――とはいえ、さほど嘘ともいえまい?  そもそも条ヲク家とはこのヤマトの王家の血である。  すなわち現代にもまだ身分制度が残っていたなら、九条ヲク家に生まれている俺は嘘でもなく本当に、一応はこの国の「王子様」となるのだ。  また更にいって俺はまず、ユンファさんの“運命のつがい”で間違いないのだから、いみじくも俺は彼の「運命の王子様」なのである。――なおユンファさんも五条ヲク家の血を引いているため、彼もまた俺の「運命の王子様」ではあるのだけれどね。   「……ふふふ…、でも…僕はお姫様ではありません」    ユンファさんはこうして冗談っぽくも、「(性奴隷の)自分なんかが、こんなロマンチックな扱いを受けるのは分不相応だ」というのだが、俺は目を伏せたままに優しい声で、そうした彼に小さな異議を唱える。   「…貴方もまた、俺の“運命の王子様”なんだ。…どうして王子様の運命の相手が、お姫様だけだと思うの…? ――王子様と王子様が…運命によって、結ばれてはいけない…?」   「……あ…いえ、そんなことは…、確かに変な固定概念でした…」    まあそれ以前に、ユンファさんは「例え」でも何でも『僕は王子様なんて柄じゃない。僕は性奴隷だ』と考えているようだが。…これだってきっと根深い認識なのだろうが、いずれは彼にも、ご自分の「本当のご身分」をご理解いただけるように努めよう。  俺は「うん」とだけ低くまったり答えるなり、床に膝を着いて下がっているほうの腿を「おいで」とポンポン叩いてから、床に尻を着けて座り直し――片脚はあぐらの形、もう片脚は立てて座る(「立て膝」という座り方である)。   「……え…?」   「……、…」    チラと見れば、きょとんとしているユンファさんと目が合う。――俺は可愛いなぁと胸が(ふか)されるが、再度寝かせているほうの腿をポンポンと叩きながら、   「もしよろしければ…どうぞ、こちらに腰を下ろして」   「……、…ぁ…、……」    ユンファさんは遠慮したように俯く。  こんな丁重かつ甘い扱いは受けたことがない、というので、どうも彼は戸惑っているらしい。――ただ彼はすぐに、客の俺が求めているものが「恋人プレイ」であることを思い出すと、俺のこの誘いも無碍(むげ)に断るわけにはいかないとみて、「じゃあ…」と遠慮がちながら、中腰ほどまで膝を伸ばし、   「…失礼します…、……」    そうはにかんで笑いながらも、支えに俺の肩をそっと控えめに掴むと、俺の床に寝かされている腿の上にゆっくり、その腰を下ろした。――いや、これは大変……。   「……お尻の感触が……」    成人男性の体重による「ずっしり」はもちろんなのだが、痩せている割に案外「むにゅぅ」としていらっしゃるのですね……いけない勃起しそう、   「え? ぁ、重たいですか? やっぱり…」   「あっいえ何でも。全然重たくないよ、大丈夫…んふふ…――では次に、こちらに片脚を乗せて…どうぞ」    と誤魔化して笑った俺は、膝を立てているほうの自分の脚をトントンと示しつつ――お尻を少し浮かせたユンファさんの腰を、俺の片手はさり気なく(なかば下心で)を抱いた。……その「むにゅぅ」を俺の腿にもっと押し付けてくれ……。   「……脚…あ、ふふ、はい…、…よいしょ……」    と照れ臭そうに笑ったユンファさんは目を伏せ、俺の首の横から背中に片腕を回して支えにすると――膝を立て、やや脚を畳むようにしてタタキに着いていた足の片方、まずは外側の抜きやすい片脚を上げ、  ……その脚の、膝の裏を片手で掴み持ち上げようとしたとき、ユンファさんは腰を丸めるようにしてやや、前かがみへと――チラリと見えた小さな薄桃色と銀色、     「……はあああ゛っ…――!?」      俺は思わず大きな声を出してしまった。      ――()()()!  いや()()()()()()()……のだ。         

ともだちにシェアしよう!