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144 ※ ※微モブユン
俺たちが今に取ろうとしている体位、それというのはいわゆる「対面座位」である。
――俺は、ベッドにあぐらをかいた俺の上でひざ立ちになっているユンファさんをふと見上げる。
「…お客様…?」
彼は俺のことを見下ろすその明敏 な目つきのなかにも少々の焦燥 をくゆらせながら、しかしその声にばかりは哀れっぽい、熱情に身を焦がされているかのような切ない調子をつくってこう言う。
「…あぁお客様、どうか…どうかお願いいたします…。この淫乱肉便器のまんこに、どうかお客様のおちんぽ様をお恵みください……」
なおユンファさんは、要するにこのセリフをもって俺のことを『すみません、早くお返事してください(貴方がお返事してくださらないと話が前に進まないんです)』と、遠慮がちにも急かしてきているのである。
いけないいけない、…今は集中しなければね。
そこで俺はまず「…はぁー…」と、わざと神経質な大仰 なため息をついた。
「阿呆 、何ぐずぐずしてんねん…。そんなん僕よう言わんわ…。奴隷の癖して僕に恥かかせんといてや……」
といら立った声でユンファさんをいびった俺は、つまりここまでに俺がユンファさんのある種の「要請」に応えなかった理由を――挿入の応否など確かめるまでもないことだろ、勃起している男を前にしてそんなこともわからないのか、ぐずぐずするなさっさと挿入しろ、そもそも俺を自分(ユンファさん)の変態的なマゾヒスティックな性的嗜好に巻きこむな、そんな恥ずかしい応否をわざわざ俺に言わせるつもりか――といったようなこととしてフォローし、そして更には、あたかも募 りにつのった欲望のあまり血気 盛 んにいら立っているような男を演じてみた。
……ちなみに今黙りこんでいるケグリはというと、
『…ふ゛ー…っ、ふ゛ー…っ、ふ゛ー…っ』
幸いといえば幸いにもネチャネチャふーふーと、どうも今は自 分 事 に 忙 し く しているようである。相当気色悪いが。
といって俺はユンファさんに(演技とはいえ)ひどいことを言ってしまったと少々不安にはなったが、……しかしこれこそは全く幸いなことに、ユンファさんは俺のこれにほっと安堵してその肉厚な桃いろの唇の両端を少し上げ、俺を見おろすその眼差しのなかにも『やっと、…よかった…』とやわらかい一安心を宿しながらも、しかし声ばかりは自分の失態にあわてた風に、
「ご、ごめんなさい、愚図 でごめんなさい、…では失礼いたします、……」
と俺に怯えているかのような卑屈な態度で謝るなり、目を伏せながら俺の肩を片手でつかむ。
つまりユンファさんは今から俺の勃起へむけて腰を下ろそうとしているのだ。が、…俺はふと気がつき、彼のもう片手にあるその人のスマートフォンをやさしく取る。…これよりは彼が能動的にうごく以上、片手がふさがれていると些 かやりにくいだろうと思ったからである。
「……、…」
するとユンファさんがチラと俺を一瞥 し、その目配 せで俺に『ありがとうございます』と微笑してくれた。――きゅん……。
……そうして数秒のうちに両手を解放されたユンファさんは、俺の左右の肩をそれぞれつかんでより堅固なバランスを得ては、ゆっくりと俺の勃起へむけて腰を沈めてゆく。
「……おちんぽ様、頂きます…。…んあ、あぁ……どんどん、おまんこのなかに、入ってくる……」
「……、…、…」
ヤバい、……俺は今シンプルにドキドキしている。
ユンファさんのそのなまめかしい美貌に目が釘付けだ。…ゆっくりと下りてくるユンファさんのその伏せられた美しい切れ長のまぶた、その際 に密生 した黒い長いまつげ、…そして俺の熱い凝視に気がついたその人の潤沢な黒紫の瞳は、長いまつげの下で俺のことを慈しむように見下ろしてくる。
「…はぅぅ……♡ おちんぽ熱いよぉ……♡」
なんてうっとりとした声で言うユンファさんの、そのじゅわりと色っぽく火照って赤らんだ痩せた両頬、半開きのふくよかな桃色の唇――俺が息を呑 むような彼のそのあでやかな美貌に見とれているそのさなか、にわかに――その人の黒い秀眉 がきゅっと官能的に寄り、そしてその人の眉目は悩ましげに翳 る。
「…ッぁ、♡」
それと同時にユンファさんの腰もビクンッと跳ねる。――なおこれは、ちょうどユンファさんのお尻が俺の太ももに着地したときのことであった。
すなわちいま俺の太もも、厳密にいえば俺の両方の内ももにはむち…と肉感的な、ハリのあるやわらかい彼の豊満なお尻の肉が、俺の硬い内ももに押されてやや広がっているような――俺の内ももの一部がユンファさんのお尻のぬくくやわらかい肉に包みこまれているかのような――官能的な感触がある。
……俺は思わずニヤッとしてしまったが、…しかし一方のユンファさんは身を焦がすような羞恥心に、かあっとその顔全体をうす赤く染めながらうつむき、そしてその嬌羞 に濡れた伏し目を泳がせつつもそっと、困惑した小声でこう俺に謝ってくる。
「……ご、ごめんなさい……」
彼の伏せられた長いまつげの下にある黒紫の瞳は『う…、彼の、おっきい…硬い、熱い…。何となくドクドクしているような気もする……これで僕が腰を振る…? いや、そもそもこの体位じゃ彼にいやらしいところ、とか…僕の顔とか、全部見られちゃうじゃないか…。…失敗、だった、かも、…僕は何て馬鹿なんだ、…この体位、恥ずかしすぎる、…かも……』と自らすすんで今のこの対面座位をなかば俺に強いたことを、今に燃えさかる羞恥心を所以 として後悔している。
「……、…、…」
はいわかりますよユンファさん、この体位ほんまあかんですよね、…可 愛 す ぎ る …………。
「……、…」
しかし、ここで若干放心状態だったユンファさんがハッとする。そして彼は気遣わしげにお尻を浮かせようとしたが、…俺は『頼むからぜひこのままで』と片手で彼の腰をぐっとつかみ下ろし、多少強引にも彼のお尻を再度自分の内ももに密着させた。
「……っ?」
するとユンファさんが意外そうに目を丸くして俺の目を見下ろす。『えっいいんですか、大丈夫なんですか?』というのである。むしろ彼は俺を気遣ってそのお尻を浮かせようとしてくれたのだが、しかし俺にしてみればこれ以上の棚 桃 尻 …いや、「棚ぼた」もないのだ。頼むからその素晴らしい桃尻をもっと俺に押しつけてほしい。
……ところで、…俺はさっそく手に持っているユンファさんのスマホが邪魔になってきた。よってあぐらをかいている自分の片腿 の隣、ベッドの上にそっとそれを置く。(まあこれは完全なるあと付けの理由だが、しかし、)こうすることで臨場感たっぷりにベッドのきしむ音がより大きくケグリに聞こえる、というようなメリットも生じることだろう。
とはいえ一番のメリットはそう……俺は、向かいあう二人の上半身の距離をもっと縮めようと、ユンファさんのその細い腰を両手でつかんで抱きよせ、…ようとしたが、
「……! …な、なんやこの細すぎる 腰は……?」
と俺は彼の腰を凝視しながらぼそりと独りごちた。
今さらだが――ほっそ ……。
いや先ほども俺が掴んでいたこの細腰 だが、あらためて実感する。とても硬く細い。これは大変な男の細腰である。…それでいて桃尻は熟 れた桃のサイズ、…ここを掴んでガツガツと突き上げてやりたい、そのたっぷりとした甘やかな桃がより熟 し赤らむまで恥骨を打ちつけてたぷたぷと波打たせてやりたい、なんて身勝手な男の欲望を誘う、これは悪いほど細いみだらな腰だ。
「……?」
俺を見下ろしているユンファさんが、どうも聞き取れなかった俺のつぶやきに小首をかしげている(聞こえていなくて本当によかった)。
さて、…俺はあらためてユンファさんのその腰の裏をぎゅっと抱きしめ、自分からも上半身を近寄せる。
「……っあ、…」
すると彼は驚き、そして恥ずかしそうにつかんでいる俺の肩をやや押して抵抗はしたが、…それも本気の抵抗ではなく、あえなく俺たちの上半身の距離は――少なくともユンファさんの勃起が俺の下腹部にやや押しつけられるほどまで――縮まる。と、
「…ぅ、♡」
ユンファさんは敏感な勃起にかかる圧に恥ずかしそうな甘い小さい声をもらした。しかし俺が笑顔で見上げた先、彼は間近に俺の目を見下ろすその伏し目になかば嬉しそうな可憐な艶気 をにじませたばかりか、もう離れようとも、そのお尻を浮かせようともしない。
「……、…」
そしてユンファさんが困り笑顔ながら、俺のことを甘い伏し目で睨んでくる。『もう…』とでもいうような、俺の強引さに喜びながらも少々呆れているそれである。……最高!
……が、ユンファさんもユンファさんでこの甘い状況にドキドキと胸を高鳴らせながらも、しかし名残惜しいが今はこのとろけそうな蜜に浸っている場合ではない、この作戦を前に進めねばと信念をもってケグリに――こちらでは何が起きているとも知らず、馬鹿にここまで黙ってひたすらねちねちと自慰に耽 っていたケグリに――こう報告する。
「……ぁ、…あぁ…ん…♡ はぁご主人様…、お客様のおちんぽ、ぜ、全部ユンファの…ぉ、おまんこに入りました…。お客様、…肉便器の僕なんかには勿体無いおちんぽをまんこに挿れさせていただき、ありがとうございます……」
するとケグリが手を止め――ネチャネチャとした気味の悪い音がやみ――、はぁはぁと息を荒らげながらも、俺にこう媚びへつらってくる。
『…そのメス奴隷の主人の私からもお礼を申し上げます、…そんな何の役にも立たない淫乱バカヤガキをわざわざ犯していただいてありがとうございます、…どうぞ今夜はお客様の心ゆくまで、お好きなようにお好きなだけ、その変態マゾのユンファを嬲 り弄 び、しこたま乱暴に虐 めてやってください…――なあユンファ…お前は変態マゾだから、優しくされるより虐められたほうが嬉しいんだもんなぁ。お前も公衆便器として雑に扱われたいな?』
とケグリに卑 しめられたユンファさんは、
「……、…」
……その切れ長の目に妖艶な鋭さを宿しながらもっと目を伏せ、俺からその目を逸らす。その伏せられた黒く長いまつげの下の黒い瞳は恐ろしいほどうつろである。――彼の唇の端は上がっている。その人の黒い瞳は『今だけだ』と、まるで捕虜 となっても己れの信念をよすがに拷問に耐えている騎士のそれのような、ある種狂気的な、妄信的な殺意がほのめいている。
「……はい…ユンファは変態マゾだから、絶対に優しくなんてされたくありません…。ユンファは優しくされると物足りなくてイけない、救いようのないド変態です…。変態マゾのユンファは、乱暴に犯していただく方が気持ち良くなれて、何回もみっともなくイけます…、ユンファは虐められるのが大好きな変態マゾ奴隷です…――だからユンファのことをたくさん虐めて遊んでください…。勿論ユンファのまんこはどなたでもご利用いただける公衆便器です、どうかユンファのことは便器だと思って雑に扱ってください……」
「……、…」
ニヤけた俺のうなじの下がぞくりとざわめいた。
――『今だけだ。恩義は返す。だがいつか絶対ぶっ殺してやるからな』――この美しい騎士は、ともすればそのうちケグリを殺すことだろう。
とっても素敵。愛してる……俺はうつむいているユンファさんの片頬にそっと触れた。する…とその人の頬を撫でると、つと上がった彼の恐ろしい黒い瞳が俺の目をうつろに見やる。
……俺は自分のこの青白い光で彼に微笑みかけた。するとそのやわらかい光を見たユンファさんの瞳に澄んだ紫いろが蘇 る。ほのかに微笑した彼は照れたように目を伏せ、とくとくと胸を高鳴らせながら――きゅ…と遠慮がちに俺の首に抱きついてくる。
そして、
「…へへ……」
と俺の耳もとでユンファさんが吐息で笑った。
「…ほんま可愛らしなぁユンファさんは…」
俺が彼の後ろ髪を何度かゆっくりと撫でさげながら、そう最小限まで抑えた小声でその人の耳にささやくと、「……ん…♡」と彼が蚊の鳴くような甘い鼻声をもらし、ぞく…と震える。
……しかし当然といえば当然だが、――二人のこの秘めやかな蜜月の時はそう長くは続かなかった。ケグリがまた忙 し く し な が ら こう言ったからである。
『…ユンファ、ちゃんと孕ませてもらえるように頼み込めよ…!』
「……、ぁ…は、はい、ご主人様、……」
俺もそうだが、ユンファさんもケグリのこれにはハッとしたようである。それこそ二人で『あ、そうだった。今ケグリと通話中だった』と同時に思い出したとでもいおうか。…俺はついその優越感にニヤける。そして一方のユンファさんは、
「……それでは…ユンファのこの浅ましいヤガキまんこで、おちんぽ様にご奉仕させていただきます…」
と言いながら俺にそのうっとりとした顔を見せた。
ユンファさんは俺のうなじにゆるく両腕をかけたまま、さらには俺の目をやさしい色っぽい眼差しで見下ろしつつ、まずはゆっくりと腰を上下させはじめる。するとそのたびにギッ、…ギッ、…ギッとベッドのスプリングがうめき声をあげる。
「……ん、…ぁ…♡ ぁ…♡ ぁ…♡ ゆ、ユンファのこと…どうか妊娠、させてください……♡」
「……ぐ、……」
これは…いや演技だ、――わかっていても大変、…
……それもユンファさんがその腰を上下させるたび、俺の下腹部にすり…すり…と彼の熱い勃起がこすれるのである。――これは余計にあわや苦しいほどの勃起をしてしまう。
さらにユンファさんは動きながら至近距離、俺の目を見つめるその伏せた切れ長の目を嫣然 とやわらかく細め、その口もとにも可憐な微笑みをたたえる。
「ん…♡ …ぁ…♡ あん…♡ ぇ、遠慮なく…ユンファのおまんこのなかに、いっぱいザーメン出してください…。ユンファのこと、…どうか貴方の精子で、は…孕ませてください……♡」
となまめかしいささやき声で言うユンファさんの、そのふくよかな唇からもれる甘い桃の香のおだやかな蒸気が、俺の唇をしっとりとしめらせる。
ヤバい……それもユンファさんは、ある意味では特殊なこのシチュエーションが俺たちにもたらしているその高揚感からか、少々大胆になっていたのである。
「……、へへ……」
ユンファさんはずいと俺に照れたような愛らしい微笑を迫らせてきた。それこそあと数ミリで俺たちの唇が触れてしまうくらいの、二人の唇がかすめるかかすめないかのギリギリの距離である。――そしてその至近距離で俺の目を覗きこんでくる、彼のその潤んだ紫の瞳に映る青白い光の玉はやや大きくなっている。その光こそはまるで明け方の紫の空にうかぶ蒼い月のようである。
その澄明な宝石のような紫の瞳は照れつつも、また恍惚としたやわらかなとろけるような艶がありつつも、それでいて俺のことを扇情させてみせようという、ちょっとした挑発的な冴えた妖艶さが輝いている。
そのような甘美な緊張感のただよう至近距離、ユンファさんはギッギッギッと膝を起点に腰を上下させながら、甘えたような上ずった声でこう俺の唇にささやきかけてきた。
「…は…、あ…♡ あ…♡ ユンファを妊娠させてください…♡ お願いします、…ご主人様のご命令で、…んっ…♡ だから僕、ぁ…♡ 貴方の精子で、僕…どうしても、妊娠したいんです……♡ ――だから…だから貴方の赤ちゃんを、僕に下さい……♡」
「……っ」
俺はドキッと肩をすくめる。ぞくぞくぞく…と甘いわななきが俺の背筋の内側にいやらしく這いまつわる。……すると俺のうなじに回している彼のその両腕にも、俺のそのビクつきやわななきが伝わったのだろう。
「……ふふ…、……」
と嬉しそうに微笑んだユンファさんは目をつむりながら顔を傾け、
「……っん、…」
俺の唇に、その肉厚な唇を押しつけてきた。
その人の唇がにわかにぷに、とやわらかく俺の唇を押し、その唐突な初恋の美男子からのキスに驚喜 した俺の胸は今ドクドクとはしゃいでいる。
……しかしそのまま唇を食むでもなく、すぐに唇を離したユンファさんは依然腰を縦にふりながら、その潤んだ紫の瞳の虹彩のしわ一本一本にいたるまで見とめられる至近距離、陶然 とした半目開きで俺の目を見つめてくる。
「…はぁ…、…貴方の、ぉ…おちんちん…当たってます…。…僕の、…奥の、奥に…――僕の子宮まで、…貴方のおちんちん、…届いて、いますね……」
「……、…」
気を呑まれた俺は口をぽかんと開けたまま赤面した。――俺の目を涙目で見つめてくるユンファさんは、突然その美しい黒眉を悲しげにひそめ、今にも泣きだしそうな笑顔を浮かべる。
「…っ責任なんか取らなくていいです、だって僕はただの便器だから、オナホだから、ラブドールだから、…だからいっぱいなかに出して、…僕のなかに全部出してください、…貴方のザーメン僕に全部下さい、…貴方の赤ちゃん孕ませて、…お願いします、僕の子宮にザーメンぶっかけて、…排卵日前の僕の子宮に貴方の精液全部下さい、――受精したいの、妊娠したい、…僕のこと、どうぞ無責任に孕ませてください、…」
ほろ、…その澄明な紫の瞳の片方から、透きとおった涙の粒がこぼれ落ちた。――『貴方が好き、貴方が好き、貴方が好き…。どうせいつか妊娠させられるなら貴方の子がいい、…貴方になら本当に妊娠させられてもいい、…貴方の子がいいよ、…僕は貴方の子なら本当に妊娠したい…。貴方の綺麗な目を見つめていると、子宮が切なくなる……貴方の子なら僕、…本当に産みたい……』
「貴方の赤ちゃん、…僕に産ませてください、…」
至近距離にあるユンファさんのその紫の瞳は哀艶とうるみ、俺になかば本気の哀願をしてきている。
「…貴方の赤ちゃんが欲しいんです、…僕を妊娠させてください、…どうか、…どうかお願いします、…」
ユンファさんの切ない紫の瞳は――『どうせなら貴方の赤ちゃんが欲しい、…貴方の赤ちゃんが欲しい、…貴方の赤ちゃんが欲しい、…』と、……
「っユンファさん……」
俺は思わず切ない声でユンファさんの名を呼んだ。しかし彼は俺が困惑していると思ったのだろう、困り笑顔をうかべると、俺のうなじにぎゅうっと抱きついてきた。――俺は彼の背中をつよく抱き寄せる。
「…はぁ、…はぁ……」
そうして抱きあう形になると、ユンファさんは俺の太ももにお尻を下ろしたまま上下する動きを止め、今度はその腰をテクニカルにくねらせるように前後させはじめる。――その動きはあたかも自分の子宮口に俺の勃起の亀頭をこすりつけるかのようである。それもギィギィというベッドの音ばかりか、くちゅくちゅと極わずかながら扇情的な音まで聞こえてくる。
ユンファさんはそうしながら俺の耳に唇を寄せ、およそ俺の耳にしか聞こえないだろうというほどの小さい、吐息を言葉にしたような声でこう言う。
「…はぁ…はぁ…僕のおまんこ、どうでしょうか…。少しでも…貴方のことを、気持ちよく…出来ていますか……?」
「……、…、…」
俺はコクコクととにかく頷いた。
……何ならもう……いや、…すると俺の耳もとで「ふふ…」と幸福げな含み笑いをもらしたユンファさんが、俺のうなじにまわした両腕にぎゅうっとより力を込める。そして、やはりくちゅくちゅと絶えず腰をなまめかしくなめらかに前後させながら、彼は俺の耳にこうこっそりと囁いてきた。
「貴方も…興奮、してくださっているんですね…。へへ…嬉しいです…。しょ…正直、僕…――おかしくなるくらい、僕も…ちょっと、…興奮してしまって…。…何だか嬉しいんです…、ドキドキ、してしまうの…――ごめんなさい、いやらしくて……」
「…いやらしいなんてとんでもな…」
と俺が、(もちろんケグリに聞こえない声量の)ささやき声で返そうとするも――そこでケグリが、
『何だユンファ、そんなにアルファの子が欲しいのか…?』
とまた嫉妬したらしい不機嫌な声でいう。
「……、…」
俺の片頬がいら立ちに荒波を立てる。
やっぱりコイツ邪魔。殺すぞドブガエル。まあ幸い俺たちがひそひそと交わしていた蜜語 は聞こえていなかったようだが。
……しかし思いのほか俺なんかよりも冷静なユンファさんは、さすがにまずいと思ったのか一瞬硬直はするが、――やはりさすがである――彼はすぐさま「うぅ…」と悲しげにうめくなり、泣きそうな声でこう言う。
「い、言わないでください、…っあなただと、ケグリさまに抱かれていると思い込もうとしていたのに、…」
そしてユンファさんは、あたかも一途に愛する配偶者にはにかみながら呼びかけるように――。
「ぁ…あなた…♡」
と、甘えた声でケグリを呼んだ。
およそ彼も把握してのことだろうが――なるほどケグリはどうもこの美男子のこれ、「あなた…♡」に弱いらしい。…それこそ先ほどまでのこの男なら、つづけてまたユンファさんをおとしめるようなセリフを吐き捨てたことだろう。
『……、…何だ』
ところがケグリはぶっきらぼうに――まるで彼の亭主のように――そう返事をするだけであった。
……ユンファさんは俺のうなじに抱きついたまま、膝を起点に腰をはずませる。
「あ…っ♡ あ…っ♡ …あなた、…あなた…っ♡ 僕あなたの子が欲しいんです、…あぁ…っ♡ あなたのおちんちん、僕の子宮まで届いてる、…いっぱい出して、♡ 僕のおまんこのなかにザーメン全部出してあなた、♡ このままあなたの子妊娠したい、受精したいの、♡ あなたのザーメンいっぱい子宮にぶっかけて、♡ お願いあなた、ユンファの排卵日前の子宮にザーメンいっぱい下さい、♡」
ユンファさんのこの迫真の演技にはさすがのケグリも満足げに、厳格な主人 のふりはしつつも――そのわりに情けなくもネチャネチャとモノを慰めながら――その低い声に、隠しきれない歓 びの上ずりを孕ませてこう言うのである。
『お前のまんこは公衆便所だろうが、誰のザーメンでも一滴残らずおまんこでしっかりと受けとめなさい、…それでアルファの子を妊娠したってお前はむしろ本望だろう、私の命令とあらばお前は誰の子だって妊娠すると契約書にもあったはずだ、…』
「……、…」
虫唾 が走る。度しがたいゲスであるというのももちろんそうだが――それこそ俺のこの殺意さえ世のため人のためとさえ正当化できそうなほどのクズっぷりではあるが――、それにしてもこのようなことを平気で言えるこの男の神経をもうたがう。つくづく気持ち悪いというか、もはやこいつに投げかけたい罵詈 雑言 さえ思いつかぬほど生理的な嫌悪感に苛 まれる。
「……は、はい…、で、でも……」
とユンファさんが腰を上下させつつもさすがに動揺していると、ケグリはネチャネチャとモノを扱きながら『声が小さい!』と怒鳴る。
するとユンファさんはビクンッと怯え、ぎゅっと俺の首にすがるように抱きつきながらも、それでも精一杯声を張り上げる。
「っはい、はい、ご主人様……っ、貴方様のご命令とあらば妊娠したいです、妊娠させてください、…」
『そうだ、…たっぷり排卵日前の子宮に種付けされて孕ませてもらいなさい、…帰ったらちゃんと中出しされたまんこを私に見せるんだぞユンファ、…お前に避妊薬をやるかどうかはその時に決めるからな、…』
とケグリが何やらおかしなことをやけに大真面目な声でいう。のだが――。
「……、……?」
いや……この男はアルファ男の俺に嫉妬をし、それだからこそユンファさんにあのようなむごたらしい命令をしたはずだった。要は俺と彼が両想いとなってしまうことを阻止しようと、俺が彼に失望をするようにと、ケグリはあえて俺の前で彼に「ド変態の性奴隷ユンファ」の姿をさらせ、そしてそのまま俺に強姦めいた暴行を受けろ(アルファ男と優しい恋人らしい行為はするな)、と命令をしたはずである。
――ところがどうだ。
今ケグリは強がりでもプレイのつもりでも、また客でありアルファ男の俺に阿諛 したのでもなく、ユンファさんに膣内で俺の精液を受けとめるよう――あわよくば彼に俺の子どもを妊娠するよう――なかば本気で言いつけた。…ように俺には聞こえた。もちろん声ばかりではケグリの本音があけすけに見えているわけではないにせよ、これは、……
「……、…――。」
いや、これは冗談にならない――俺は早いところユンファさんを迎えに行かなければ、…ともすると、これはかなり拙 いことになるかもしれない。
というのもこのケグリ、このままではそのうち――本当にユンファさんを妊娠させることだろう。
しかもその「種」はおおよそケグリのそれではない。いや――「はじめは」ケグリの種ではない、というべきだろうか。
といって今はその件に関して考えこんでいる場合でもない。――今はこの作戦成功に集中しなければ。
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