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「脱がせても……?」
と俺はユンファさんの耳もとで声をかけながら、その人の穿いているグレーのボクサーパンツのゴムをつー…と中指の先でなぞる。――これを脱がせてもよいか、と示すためにである。
するとユンファさんはひく、とほんの小さく肩を揺らしたのち、「え…あの…、はい…」と困惑ぎみながらもそれを許してくれた。――日ごろ性奴隷として扱われている彼は、これまで誰かに「下着を脱がせてもよいか」などとの慎重な、あるいは丁重な伺いを立てられたことはなかったのであろう。
……ともかく許しを得た俺は、「それでは脱がせますね…」と再度声をかけてから、その下着のゴムの下に手を差しこみ――これまで密着していたゴムの圧迫に敏感になっている、そこの肌をおもむろにぐるりと撫でてから…――するり…ユンファさんの腰骨、脚のつけ根、太ももの側面…とゆっくり肌を撫でながら、それを丁寧に脱がせていった。
「……、…、…」
するとユンファさんは、ぞくぞく…と俺の手のひらが撫でた肌を粟 立たせながら、その下半身に少し力を込める。
……しかしその一方、彼自身のお尻を少し浮かせる、下着から足を抜きとるなどの協力的な動作をもって、俺はそれを完全に脱がせることができた。――ふと何気なく確認する。
「……、…」
手にもつ自分のボクサーパンツを。
グレーというのは濡れた箇所がわかりやすい。…その黒に近い大きなシミに、俺の口角が上がりたくてたまらないと震える。――とても洗えない!
……し ば ら く は こ れ を 用 い て 、夜 ご と 熱 烈 に ユ ン フ ァ さ ん を 想 う と し よ う …――ということで持ち帰り忘れないよう、これは俺のスーツのジャケット近くに置いておく。
しかし下着を脱がされたその心もとなさゆえか――ユンファさんは紅いチャイナドレスの下半部の布の下、ゆるく立てた両方の脚、その内ももをする…すり、とこすりあわせながら、
「…ごめんなさい…」と、いささか怯えたようなか細い声で謝ってくる。ので…、
「何を謝る必要があるのです…? ふふ…」
俺はユンファさんの耳に、そう優しいやわらかい吐息をふくませた声でささやきながら、ひとまずはまた彼の片胸を――紅いシルクの上から――ゆっくりと撫でまわす。もとよりそのピアスの着けられた、粒だった乳首もじっくりと撫でころがすように。
……ああして下着を脱がせはしたものの、その実まだ彼の性器に触れるつもりはない。上から、下から順に、このあともじっくりと愛撫をし、徐々にこのチャイナドレスを着崩させて、そうして焦らすように、ユンファさんの体を更に、十分に火照らせてから――完全に勃起させ、また完全に膣内も奥の奥から疼 かせてさらに甘露 を溢れさせ、彼がどうしても触れてほしい…と切に思うようになってから――いよいよそこを愛そう、との段取りを、俺は計画しているのである。
しかし――。
ユンファさんはまるで俺に隷属しているかのような、怯えたささやき声で…、
「ごめんなさい…、淫乱で…おまんこ、ぐちょぐちょに濡らして…ごめんなさい……」
「淫乱…? いいえ…――寧ろありがとうございます、ユンファさん……」
と俺は囁きつつ――まだそこに触れる予定ではなかったが、急きょ――ユンファさんのチャイナドレスの下半部へ、その人の脚の付け根をするりとなぞりながら手を忍びこませ…、そしてそっと…殊 にやわらかなぬるりと濡れた大陰唇 を、二本の指でぬるぬると撫でてから…――にゅぷ…とその大陰唇に指先を差しこみ、熱く濡れそぼった彼の膣口をぬる…ぬる…と優しく撫でる。
「……ッ!♡」ビクンッとユンファさんの腰が跳ねる。
「あぁ…」――俺は彼の耳もとで随喜 の声をもらす。
「まさか貴方が…俺の愛撫でそのお体を昂 ぶらせ、こんなにも濡らしてくださるだなんて…、男として、これ以上の悦 びなどあるでしょうか…? ――本当にありがとうユンファ…――貴方は一切謝る必要などないのです…。…いいえ、そもそもとして…この俺が貴方の体をこうしてしとどに濡らしたのですから…、ね…――仮にそれが咎 め立てられるようなことなのであれば、寧ろ俺が責められなければ道理が立ちません……」
「……は…♡ ……っ♡ ぁ、あの…ごめ、なさ…」
しかしユンファさんはそうぴく、ぴくとしながらも、斜め下へ伏せたその顔を幅 せまくふるふると横に振る。
「奴隷の汚いマン汁で…て、…手を汚してしまって、ごめん、なさい……」
「…いいえ、とんでもない…。ユンファさんのこの清らかなる聖地は、誰のそこよりもうんとお綺麗です…、勿論、この桃の香の愛液にしろ…、……」
俺は中指の先をつぷ、と彼のみずみずしい膣口に突きたて――決して穢 らわしいだなどとは思っていない、と伝えるため――そのままゆっくり、ぬぷぷぷ…と押し入れてゆく。
……なるほどやはり窄 い…が、しかしまるで事前にローションでも注入しておいたかのように、彼のオメガ男性特有の複雑な構造をもつ膣内は、俺の指が浸 るようなほどたっぷりと愛液で満たされている。
「…は…っ!♡」ユンファさんの腰がビクンッとしなやかに反曲する。
「ユンファさん…痛くはありませんか…?」
とユンファさんの耳に気遣わしげな小声で尋ねる俺は、彼のなかに第三関節ほどまで挿入した中指をじっと動かさないままでいるが、しかし非常にデリケートなこの場所は、悪いとそれだけでもヒリヒリとした痛みを感じることもあるそうである(もっともネットから得た情報に過ぎないが)…と、そう本気で心配したのだ。
なお、もちろん俺の爪は短く切りそろえてあるばかりか、ささくれの類 も徹底的に除去、かつ爪の先端から腹も光沢が生まれるほどなめらかに磨いてある。――当然だろう、愛しの美男子の体をそれで傷つけてしまっては、一生悔やまれる。
ところがユンファさんは…、
「痛…い…」と虚 ろな声でつぶやくように言った。…それから、
「…は、…は、…は、…」と呼吸を短く荒らげ、じわりと冷や汗をかきはじめている。――俺はひやりとした。
「…痛みますか、…それはすみません、すぐに抜きますね。…」――俺は内心まずい、と焦りながらも、そろそろと指を引き抜き、再度彼の耳に「すみませんでした」と詫びる。が…、
「…やめ…て…」
「……、…え……?」
俺は今何もしていない――。
そして次の瞬間ユンファさんは――俺には何が発端となったのかはわからないが、――こうぶつぶつと口の中でつぶやく。
「やめて…、やめて…、やめて…――お願いします、やめてください…、やめて、痛い…痛い…、やめて…、…せ、せめて…、せめて優しく……」
「…ゆ、ユンファさ…っ」
と俺は焦りから目を瞠 りながらも、彼の両頬を手のひらで包んで呼びかけようとした――が、…俺のその両手を振り払うように、彼は激しく頭 を振りはじめる。
「痛い! 痛い、…痛いっやめて、…っお願い、やめてぇ…――っ!」
「……、…」
ユンファさんはパニックに…もっといえば今、フラッシュバックの発作を起こしてしまっているのだろう。――もとよりこれだけでは、俺にはそれが「いつの何のどんな」ものなのかはわからない。…それがわかれば少なくともその発作の要因はわかる、要因がわかればそれを排除できる、すなわちそれはこの発作を落ち着かせる鍵にもなり得ようが、…ましてや、彼は性奴隷として日常的に虐待を受けているともなると、なおそれの特定は難しい。
だが、…と俺は慌てて暴れているユンファさんの、その手首の拘束を解 いてゆく。
あるいはこれのせいかもしれない、と思ったのである。――性奴隷として扱われている彼は、こうして拘束をされた上で虐待されることも多いからだ。
「ユンファさん、ユンファさん、――ごめんね、俺がこんなことをしてしまったから、…」
「…せめてっ…せめて優しくしてください、…お願い、お願いしますっ、…」
しかしユンファさんの耳には、およそもう俺の声は届いていない。そうほとんど泣き叫びながら、まるで悪夢に苦しんでいる人のように、激しく頭をふり続けている。
だが、一見奇妙なことに――彼は頭をしか動かしていないのだ。
つまり「やめて」と泣くほど激しく嫌がっているわり、彼の手足は抵抗して暴れるでもなく――むしろ彼の膝の立てられた両脚は開かれたまま、動かない。…しかしここまでパニックになっていれば、それこそ今ここで俺を蹴り上げてもおかしくはないはずなのだが。
また俺のネクタイは、もう彼の両手首を拘束してはいない。それは容易 くほどけたのだ。もとより俺は、すぐにほどけるような縛り方をしていたのである。――ところが彼の両腕は依然として上がったまま、彼の両手首もまたその人の頭上から動かない。
それはまるで、そこを何かで縛り付けられたままかのように…――。
……やはり今ユンファさんの脳を侵 している過去、そのときも彼はこうして両手首を拘束され、頭上で固定されていたのだろう。…またその両脚にしても、何かしら閉ざせないような拘束をされていたのか、あるいは――そこに「何かしら大きなものが挟まって」いて、閉ざしたくとも閉ざせなかった、のか。
そしてさらに彼は泣きながら、またガタガタと震えながらこう言うのである。
「本当に初めてなんです、お願いします、…っせめて優しく……っ」
「……、…」
俺は唖然 とし、…固まってしまった。
ユンファさんの脇の近くにそれぞれ手をつき、口を小さく開けたまま、小刻みに瞳を揺らして彼を見下ろし、ただ固まってしまった。
――『本当に初めてなんです』
それじゃあ今、…今ユンファさんを苦しめている過去の記憶というのは、…
「違うっ濡れてない、…濡れてなんかない、ケグリおじさんの涎 だろ、…嫌、嫌だ…やめ、…もうやめて……嫌、っ嫌、挿れないで…挿れな…、」
そしてユンファさんは、泣き叫んだ。
「ひッ…ッやめ、てぇぇえ…――っ!」
「……、…ッグ、…」
俺は唸 りかけた自分の喉仏を片手で強く押しこみ、険しく強ばり、見開かれる自分の目の乾きを感じながらも、まばたきすらできず、ただ奥歯を強く噛みしめる。
「痛い、…痛いよ…痛い、…痛い…抜いておじさん…どうして、――どうして……こんなのもうやめて…、やめて、…やめ……」
「グ、…ッふ、…ふー…っ! ふー…っ!」
俺の首の側面に自分の爪が突き刺さる。そうして己れで首を絞めてもなお、俺の太い頸動脈の昂 りは生々しく、そうして俺の怒りは死に絶えない。
俺の目から涙がしたたり落ちる――。
ユンファさんはここで突然、泣きながらもこう怒鳴ったのだ。
「「――ッ殺してやる……っ!」」
奇 しくも…俺と、共に――。
そしてユンファさんは烈 しい鋭い声でこう、白い鋭利な犬歯を覗かせながら、「男」を罵倒する。
「ぶっ殺してやる、…殺す、殺す、殺す殺す殺す殺す殺す、――絶対殺してやる、…っこれは犯罪だ、強姦だ、このあとすぐ警察に行ってやる、許さない、――許さないからな…っ! 絶対に許さない、…っふざけるな、気持ち悪いんだよこのクソジジイ、…っ僕がオメガだから何だよ、何だよクソ、…っ触るな、穢らわしい、…っ馬鹿にするのも大概にしろよこの変態…っ!」
「……、…」
俺の頬の内側が熱く燃え盛る。
途端に落ち着いた…銀狼――貴方は…――、……俺の瞳からしたたり落ちた熱い雫 が、ユンファさんの高い鼻の隣にポタ、と落ち、つーと横へ流れてゆく。
そして俺はいまだユンファさんの頭上に「拘束されて」いる手首を片方取り、そのガタガタと震えている手のひらを、自分の頬にあてがう。――そして彼の手の甲を押さえ込み、する、と頬ずりをしてのち…手のひらにちゅ…とキスをする。
「…さあユンファ…そろそろ目を醒 まして…、貴方は今、ただ悪い夢を見ているだけなのです…――ねえ、俺は……誰……?」
つ…と横目に見やったユンファさんは、「っは、…」と短い吐息をもらし、「あ…貴方は…」
「あな、たは……――貴方は……」
俺の頬を、カタカタと震えているユンファさんの親指が、すり…と確かめるように撫でる。
「…そう…、俺は…ケグリなんかじゃないのですよ…――俺は、貴方をこの二人きりの楽園へと連れ去った…――〝悪い魔法使い〟、です…。…ええ…きっと、ね……」
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