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「お願いします…――もう……」  とか細い切ない声で俺にゆるしを()うようなユンファさんは今、その両目を黒いアイマスクで(おお)われ、すなわちそうして目隠しをされているばかりか――その人の頭上にある、革の黒手袋をはめたままの両方の手首を、俺の真紅のネクタイによってゆるく、しかし制限はたしかに縛りつけられ、拘束されている。  ――それはなぜか?  ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、である。  というのも…――ユンファさんは俺と舌を絡めあうキスの合間、ちょうど唾液にたっぷりと濡れた唇同士が「はぁ…」とひと息ついて離れたとき、その妖艶(ようえん)なふくよかな唇で少しほほ笑みながら、優しく俺の両肩を押し上げた。 「あの…、そろそろ…僕が上に…」 「…ん? ふっふふ……」  しかし、俺は彼が言わんとしていることを察知してはいながらに、あえて意味深な含み笑いをもってそうとぼけた。  そしてユンファさんの片耳に唇を寄せ、耳珠(じじゅ)――頬側の耳のつけ根にある半円型のでっぱり――をちろちろと舌先でくすぐり、 「……っ♡」ぴく、と肩を跳ねさせた彼の、そのチャイナ服とマントとを繋いでいる内側のフックを、ぷつぷつと外してゆく。――あくまでもその耳珠を舌先でくすぐりながら。  ……すると俺が頭を低めて、さらに彼の肩で手を使っているこの体勢的に、ユンファさんはなお俺の体に覆いかぶさられている感が強くなり、いよいよ自由な身動きの余地が手足ばかりの状態になったのだが――しかし、彼はもう少し強い力で俺の肩をくっと押し上げながら、 「あ、あのごめんなさい…あの、僕、正直この体勢では何も出来ないんです…、だからお願いします…一旦、退()いて…」 「いいえ。――ユンファさんは今宵、何もしなくてよいのです。」 「……え……? で…すが、僕……」  と困惑しているユンファさんは――ほとんど性奴隷としてのセックスをしかしたことがない以上、これまでは当然、相手の男らに必ず性奉仕をせねばならない立場に置かれつづけてきた。  それもそれは多くの場合一方的な奉仕、彼の快感や気持ちなどが度外視された奉仕であったわけであるが、かえってそのようなセックスこそが当然のものとなっている彼には、その自分の奉仕のないセックスなどそもそも考えてもみないこと、だったのである。 「…ふふふ…」と俺は彼の耳を、しっとりとした甘い含み笑いでくすぐる。 「ユンファさん…、今宵はどうぞ安心してこの俺に、その麗しいお体の全てをお(ゆだ)ねください…、どうぞ、ごゆるりと…ね……」 「…っは…――〜〜っ♡♡」  するとそう俺に(ささや)かれただけでぞくぞくぞく…と震えたユンファさんだが、しかし「で…でも…」と、儚い吐息まじりの小声で食い下がる。 「その…それでは貴方に申し訳が…――それに…ごめんなさい、我儘(わがまま)かもしれませんが、…最後まで…していただきたいんです、どうしても……、ですから……」  そう言うユンファさんは俺に申し訳ないなかば、自分に愛撫をしているだけでは――自分の愛撫で俺の性感を刺激しないことには――、俺が興奮しきれない――有り体にいえば、俺の勃起が不完全な程度にとどまる――のではないか、とやはり懸念しているのである。  ……今の彼は自分の性的魅力を自覚できていないどころか、自分は頭からつま先まで、どこをとっても人を不快にするほど醜悪なのだと思い込まされているために、まず挿入にいたるには、自分の性的奉仕が必要不可欠なものと勘違いしているのだ。――しかしそれにも加えて、これまで必ずといってよいほど、性奉仕をさせられた上で挿入にいたってきた事実もある以上、それとこれとが相関している、と彼が無意識に思い込んでいるのも無理からぬことではあるのだが。 「いずれも問題ありません。――俺を信じて……」  と囁きながら……その実俺は、すでにユンファさんのマントとチャイナ服との肩の連結部を外しおえており――次に今は、そのマントの筒状の襟を留めている、二つの金ボタンを外しにかかっている。 「…そもそも…」とさらに彼の耳を低い声で愛撫する。 「俺から言わせてもらえば…貴方は俺にその麗しいお体を許してくださっている時点で、既に十二分なほどのgiveをしているのですから…――いえ、もとより俺も…愛し合う者同士が相互に触れ合う…、それもまた目合いにおける醍醐味(だいごみ)の内の一つである、ということは重々承知しております…――だけれど…ユンファさんは今宵、完全に〝俺だけのもの〟になるべきなのです……」  そして二つの金ボタンが外れたなり、俺はその襟をゆっくりと左右に開き…――、 「たとえば今宵の、貴方のこの両手は……」と彼の耳に唇を押しつけて吐息で囁きながら、自分の肩にあるユンファさんの片手を、肘のほうからなで上げてゆく手で取ったなり…――自分のわきの下から、おもむろにこの背に回させる。 「俺と指を絡めて手を繋ぐか…、あるいはこうして、この俺の背に(すが)り付くためだけに…――そして貴方の唇は……」  と次に囁く俺はあらためてユンファさんを組みしき直し、その人の顎をく…と人差し指と親指とで少しつまみ上げ…――半開きの濃い桃色の肉厚な唇に、この唇を迫らせる…――そして触れるか触れぬかの距離で……、 「俺のこの唇と口付けをするか、あるいは蜜語を交わすためだけに、存在している…――と…、手前勝手でしょうけれど…、今宵ばかりはどうぞこの俺のために、そのようにお考えいただけませんか……」 「……、…、…」  ユンファさんの唇は()われそうだと怯える小動物のように、努めてじっとしながらも、しかし小さく震えている。――「それは何故と言え…」と俺はニヤリとしながら、その唇をこの低声(ていせい)(ねぶ)る。 「それこそが今宵…ユンファさんが〝俺のためだけに存在している〟という状態に違いない、と…――その状態こそ貴方が〝俺だけのものになった〟…ということであると…――俺が、そう考えているからです……」  そして俺は「いいですか…?」と、圧をかけるような喉の奥からの声で承服を求めた。  ……これは本題のすり替えである。いや、だとしても、俺にしてみればこれこそが本願である。 「……、…、…」  しかし、彼はその震えている唇を半開きにしたまま、反論もなくコクコクと極あさく頷いた。――  ところが……ユンファさんはそのあとすぐ、俺の(むさぼ)るような激しい口づけに翻弄されているうち――つい立ててしまったらしい片方の膝、それによってその太ももにコツンとぶつかった俺の「男盛り」を認知すると、即座にはびく、と驚いた反応を見せたはものの…――やがて俺と舌を絡めあわせながら、するり…――親指の腹でする…すると、そこを撫でさすってきた。…おそらくはある種の習慣、その無意識で。  とはいえ、俺はすぐにはユンファさんのその手を(とが)めるでもなく、キスと共に、ちゃっかりとその甘美な快感をしばらく堪能したのだ…、が……どちらともなく唇を離したときに――その実、当然だが初恋の美男子にそうされて悪い気はしなかったので、ニヤニヤとはしながらも――「いけない人。」と低い吐息で彼を叱った。  ……そして「そんな悪い手は、こうしてしまいましょうね…」と――密かに笑いながら――そうしてユンファさんの両手首を真紅のネクタイで優しく縛り、ひとまず彼の頭上に退()けておいた…というわけである。  ちなみにユンファさんの言っている「お願い」というのは…――俺が両手首を拘束してすぐにはあえて何もせず、まずは彼のその背徳的な姿をこの目で堪能をして……、  そう…本当に…――マントとチャイナ服とが完全に分かたれると、そのマントは彼の背に敷かれる黒いベルベットの敷布と化して、彼のシルクの紅いチャイナ服をまとったしなやかな細身をよく映えさせていた。  ……なお、マントの襟の下に隠れていたチャイナ服の襟は、浅いハイネック状のものであり――彼の首にまかれた赤い首輪は露出しており――、また中央の切れ目には銀の(ふち)取りがなされ、そしてその銀のラインは彼の右脇へ向けて斜めにつづいている。――またちょうど襟と胸もととの境い目と、右胸上のあたりに走るその斜めの銀のラインは、精巧な組み紐の銀の留め具三つで留められている。  と……そうした耽美なチャイナ服のざくろ色のシルクの布は、ユンファさんの美男子らしい胸郭(きょうかく)に、見ている者の胸がくすぐられるようなほどほっそりとした腰に、その細腰からふくよかな広がりをみせる太い腰骨に――その胸からなだらかに細まる腰、腰からふくらむ腰骨、お尻のなまめかしいラインに――ぴったりと張りついて、さらには、深い紅ににじんだシルクの妖しい光沢もまた、なおその端整な肉体の妖美さを際だたせ、…  ……そして、そのような美男子の長めの気高い首には隷属(れいぞく)の赤い首輪…、頭上で両手も拘束され、さらに目隠しをまでされている背徳的なその人の艶態(えんたい)を、俺はあえてじっくりと観察する時間を少しだけ取り――。  なお「あえて」というのは、そうした時間をもつことで彼に、…優しくとも両手を拘束されて自由を奪われている、アイマスクで目隠しをされて視界も奪われている、…その上で次にどうされるかわからない…――と、ちょっとドキドキしてもらうためであった。  ……そして俺のそのたくらみはまあ上手くいった、といってよい。  というのも、…俺が五分程度の鑑賞を終え、さあそろそろ…と、ユンファさんがそのチャイナ服の下に穿いていた黒い袴を、焦らすように至極ゆっくりと脱がせ…――更には、彼がいまだ履いたままであった、ふくらはぎ下までの黒いロングブーツも丁寧に、丁寧に脱がせたとき……、 「あの……」とユンファさんは切ない小声で言いながら、斜め下へ顎を引いた。 「お願い…します…、もう、()れてください……」 「…んふ…、……」  なるほど…と俺は思った。  あえての「無」の時間に高められたユンファさんの官能的な期待は、次に俺に優しくゆっくりと衣服を脱がされたことによって、いよいよ最高潮とまで達し――そうして脱衣させられるというのもまた、人のロマンチックな愛欲を誘うものである――、そして彼にそう言わせたのであろう。 「…いいえ…、折角のこの蜜月の夜に、そう事を急ぐべきではありません……」  とユンファさんの足下に座っている俺は、微笑しながらそう言いつつ、じっくりとその人の悩ましげな両脚を眺めて愉しむ。  ……彼のちょうど腰骨の尖りあたりにある、この紅いチャイナドレスの銀の月下美人を()した飾りを始点とした、深いスリットの片方からはみ出た彼の生白い長細い素脚が、いまだかろうじて前布をかぶったままの、もう片脚の膝となまめかしく、恥ずかしそうにこすり合わされており…――また、もちろんそのスリットの始点近くには、俺の貸したグレーのボクサーパンツまでもが覗かれている…ともなれば、エロ…大変あでやかだ。 「…ふふふ……」  ちなみに、俺が彼の視界をアイマスクでふさいだ理由のうちには、「かの約束を尊重する」というのの他にもう一つある。  ……俺はつーーと指先でかすめるようになで上げる…――ユンファさんの片方のまっしろな細い太もも、そこの側面を。すると、 「……は…ッ!♡」  ユンファさんはビクッとその腰を跳ねさせ、身を強ばらせた。  ……アイマスク、いや、目隠しというものは彼から視界ばかりか、俺の次なる一手への予測をも奪う。――そしてその予想外に対する警戒心というものは、肌の感覚をより鋭敏なものとする。――要するに、(よくそれを狙って使われるアイテムでもある通り)目隠しには、性感を通常より倍は感じやすくさせる効果がある…ということである。  ……さあその状態で――俺はその後も、ユンファさんの全身をとにかくもどかしい程度に撫でまわした。  もちろんシルクのチャイナ服は脱がせないまま、またちゅ…ちゅ…と布越しにも彼の体にキスをしながら、その平たい胸をするりと撫でてみたり――みぞおちやあばらを、ゆっくりとかすめるように撫でまわしてみたり…――なまめかしくもぞもぞとしているその細い腰を、下腹部を、ねっとりと執拗に撫でまわしてみたり…――、そして生肌の内ももをする…する…と、ちゅ…ちゅ…と、膝を、(すね)を、足の甲を、つま先を…――それから意外に盲点であるかもしれないが、敏感な(わき)なども胸のついでに、するりするりと撫でまわして、キスをしてみたり……。  すると俺のその愛撫にぴくんっとしたり、ふるふると体をわななかせたり、悩ましげにその細身をくねらせ、ゆるやかに(かぶり)をふってみたりと、やはりよく感じてくれていたユンファさんは、そのうちにはぁ…はぁと静かながら息を乱しはじめ――その耳を真っ赤に、またなめらかな紅いシルクの胸元にツンと粒立つ乳頭をふたつ浮きぼりに――、さなかも「お願い…もう挿れて…」と何度も乞うてきたが、そのたび俺に「焦らないで…」などと(かわ)され、そうしてたっぷりと()らされていたせいもあり……、 「はぁ……は…、ぁ、あの…――お願い……」  と…いよいよその柳腰(りゅうよう)の悩ましい揺蕩(ようとう)も増して、いささか泣きそうになっているのである。 「僕…もう…、もう……濡れ、ています…、だから……」 「…クク…それは嬉しいな…、では、もっともっと気持ちよくなりましょうね…、……」  と――ユンファさんの「もう濡れている」の先にある意味を理解はしていながらも、あえてはぐらかし――そう言った俺が、ユンファさんの胸もとに空くダイヤ型の白皙(はくせき)にちゅっとキスをすると、ぴくんっとした彼は「い、いいえ…」と(あえ)ぐように言いながらふるり、一度首を横にふる。  そして、その濡れたふくよかな桃色の唇の薄く開かれた隙間から、泣きそうに震えたささやき声をそっとこう、ゆるやかに放つ。 「もう…これ以上のお手間をかけていただく必要など、ありません…――あの…どうか、…その…――ぼ、僕の…ぐちょぐちょに濡れた、はしたなくていやらしいおまんこに…、貴方の……」 「NONONO……」しかし俺はそう心外だ、と首を横に振った。  そしてユンファさんを組み敷きなおしてから、こう言う。 「申し訳ないが、俺がまだユンファさんのこの美しい肉体を味わい足りないのです…――手間だなどととんでもないことを…、愛するユンファさんへの俺のこの愛撫は、間違っても手間などではありません…――寧ろその実、していて大変exciting…とても楽しくとても興奮すること…、したがって俺にしてみれば、却ってこれは自ら進んでやりたいことなのですよ。」  ……それから俺はユンファさんの片耳にちゅ、とキスをしたのち、こう微笑しながらささやく。 「俺はまだまだ愉しみ足りません…、ですから貴方もそう即物的に、またお焦りになられませんよう…、ね…? ――さあゆっくり…じっくりと…この目合いをもっと愉しみましょう……」  そして俺はおもむろに見下ろしたユンファさんの、その白い顎をつかんでうわ向かせ――斜めからその半開きの唇をはむ…と、この上下の唇でそっとはさむ。  そのまま優しく吸いつきながら、はむ…はむ…とやや大きな動きで、彼の唇を食む――顎にあった手を彼の手首をしばるネクタイにかけ、もう片手では、なおもなまめかしく揺らいでいる彼の腰を撫でまわして…それから――その人の下着のゴムに手をかける。

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