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俺は情欲が燃えるこの両目をじっと見上げてくるユンファさんの、その貴石のように澄んだ紫の――不安げに小刻みな横ゆれをしている、しかし、それでいて期待のきらめきととろめいた火照りを帯びた――二つの瞳に陶然と見入りながら、するり…指の背で、彼のうっすらと薄桃のにじんだあたたかい片頬を撫であげつつ……、
「ユンファさん…、俺、貴方を抱いてもよろしいですか……?」
と…ユンファさんに、切実な男の低い声で許可を求めた。
「……、…え……?」
するとユンファさんは、そう不安げながらもきょとんとした。
それから彼は困惑気味に「あ、あの、」
「えっと、だ、抱く…って、その……」
……と言うユンファさんも、もちろん「抱く」の意味くらいわかってはいるのだ。
しかし、いまだかつてそれにおいての許可を求められた試しなどない彼は、――相手から一方的に強いられる、あるいはそうでなくとも、言わずもがなと当然のようにその行為を求められ、かつ応じてきた彼は、――初めて許可する・しないの判断を求められた、または初めてその意思表示をする権利を与えられたために、動揺してそう言っているだけなのである。
「ええですから、」と俺は優しいやわらかい声で言いながら、く、と少し顔をかたむける。
「……要するに…もし貴方がお嫌でないようであれば…――是非俺とえっち。…してくださいませんか、ユンファさん。」
……もちろん俺の目には彼の動揺の原因が視 えてはいたが、話を前に進めるにおいても、あくまでも会話が成立していなければならない。――したがって俺は、もう少しわかりやすい言葉でそう言いなおしたのであるが、ただしふとこの両目を細めてほほえみ、こうも言っておく。
「俺は今、ふふ…その実、それこそ少し強引に迫ってでも、愛するユンファさんが欲しい…、本当はそれくらい、気持ちが高まっているのです。これでもね…――しかしその反面、愛する人がそうした気分でもないのに無理強いをすることは、俺の主義に反します。――ですから、お聞きしておきたいのですよ。…貴方も今俺と同じお気持ちでいてくださっているのか、どうかを……」
「……、…」
俺の目を見上げているユンファさんの両目は今、うっとりととろめいている。
しかし、その宝石のような紫の瞳は『どうして…』と、切ない疑問に揺れている。――『どうして彼、こんなに…どこまで優しいんだろう…、そんなこと、初めて聞かれた…、…だが当然だ…。まさか、誰が性奴隷にそんなことを聞くだろう……』
「嫌なわけが…ありません…」とユンファさんは、少し寂しそうな目をして、しかし微笑みながら言うのだ。
「ですが…むしろ……」そしてそう悲しそうにその長いまつ毛を伏せる。
「あの、ごめんなさい…、むしろ、僕のような……僕の、ような…、その、本当にいいんですか…――貴方こそ、本当に…」
「いいえむしろ、俺はユンファさんだからこそ…」
「でも僕、性奴隷…なんです、」――ユンファさんが伏し目のまま、今にも泣き出しそうに眉をひそめる。
「…本当に汚い体で、…とても貴方にお見せ出来るような体ではありません、…とても、…っとても貴方に抱いていただけるような体じゃないんです、――綺麗なところなんかもう一つもない、本当に、――どこもかしこも醜くて汚くて、臭い、…それこそ肉便器だとか、公衆便所だとかとさえよく言われるような、…顔だって、」
「ユンファさん」
俺は静かに、あたたかく包み込むような声で彼の名を呼んだ。――はたと彼の潤んだ紫の瞳が俺を見上げる。…俺はこの両目で彼に微笑みかけた。
「貴方は綺麗だよ」
「……、…」
は…と息を呑んだユンファさんは、揺らいでいる紫の瞳で、俺の目を不安げにじっと見つめてくる。
見つめ返す俺は、この仮面の下でも、――初恋の美男子への恋心にとろけた――満面の笑みをうかべた。
「ユンファさんはお綺麗です。…俺にとっては世界で一番、貴方は本当にお綺麗だ。――貴方のお顔も、髪も、お体も…そのお心までもが…――どこもかしこも、貴方は本当にお綺麗だ。」
「……、…」
ほろ、とユンファさんの切れ長のまなじりへあふれた涙が、つぅと白いこめかみのほうへと伝ってゆく。
……俺は爪の腹でその涙に触れ、それから親指の腹でぬぐって、心から彼にこう詫びる。
「……しかし、悲しい思いをさせてしまって本当にごめんなさい…――まさか、貴方を責めるようなことになってしまうとは……」
「……、…、…」
するとユンファさんは、しかめられた泣き顔を横に振る。――そう何度もふるふると首を横に振り、彼は泣きながら俺の両頬に触れると、
「抱いてください、」
そう、哀訴するように言う。
「抱いて…ください、…お願いします、…どうかお願いします、…っお願い、――お願い……」
そしてユンファさんは、俺のうなじをおそろしいほどの力で抱きよせると、そうして何度も「お願い…」と泣きながら繰り返した。
「……頼み込むのは、寧ろ俺の方ですよ…」
と俺はしいて笑いながら、彼の耳に囁いた。
………こんなに美しい人は、初めて見た…――。
「貴方ほどの美人を抱けるのですから…当然でしょう、ねえユンファさん…――愛しています…、……」
夢にまで見た…――貴方との目合 い。
どうして…貴方は綺麗だよ…ずっと、綺麗なままだ……いいや、…俺はユンファさんを安心させるため、あえて明るい声でこう仕切りなおす。
「…ふふ、何にしても、やっとユンファさんと念願のえっちが出来るのですね。ありがとうございます。…それでは、」
そのように俺は一旦颯爽 と、ユンファさんの腰あたりを跨 いだ状態で膝立ちになり、手早く深緑のスーツのジャケットを脱ぎ捨てた。――それから顔と目を伏せ、首もとにある真紅のネクタイの結び目をゆるめてゆく。
「……、…」
が…絡みつくような視線を感じてふと見下ろすと、
「……、…、…」
「……ふ…、……」
俺はおもむろにまた前へ――腕を立ててユンファさんを組み敷き、ニヤリと細まった両目で彼をじっと見つめる。
……ユンファさんはハッと泣きやむほど、俺の脱衣にドキドキとしながら見惚れていたのであるが、俺と目があったなりふと気まずそうに目を伏せたのだった。
しゅるり…俺はカッターシャツの襟からほどけたネクタイをゆっくりと引き抜いてゆく――見せつけるように、ゆっくりと…――とはいえ、その圧を感じはしつつも、彼はきまり悪そうに目を伏せたままである。
「……貴方ってお綺麗なばかりか、本当に可愛い。…さあユンファさん…、そうだな、まずは……――。」
×××
ユンファさんは今、その両目を黒いアイマスクでふさがれている。
それは……次には必ず俺の素顔をその美しい二つの瞳に映し出す――ユンファさんがそう俺に約束をしてくれた以上は、彼のその決心をあたかも裏切るように、今無理強いをしてまで俺の素顔をその目に映そうとするなど、明らかな悪手であるから、だ。
……よって俺は彼とのその「約束」を尊重するように、「キスがしたいからアイマスクを着けますね」と、その人の目もとをそれで覆った。
そしてその宣言通り、――言うまでもなく仮面を外した――俺は、じっくり…たっぷりとユンファさんとのキスを愉 しんだ。
まずは彼の両頬を手のひらでつつみこんでから、その肉厚なかたちのよい桃色の唇に、力をぬいた極めてやわらかな自分の唇をそっと重ねあわせるだけ――するとしっとりと唇の表皮同士が吸いつきあい、そのくすぐったいような幸せが俺の初心 な恋心を高鳴らせ…――ついついあの日に散った火 花 と や け ど を思い出し、若き日を少々恥じながらも結局、俺の肉体の反応はあ の 日 と そ う 変 わ ら ず …――さらにそのままただじっとしていると、そのうちにお互いのやわらかなぬくもりが溶けあって、まるで二つの唇が一つになったかのような夢見心地な錯覚をも覚えた。
「……ふふ…」と俺が唇をわずかに離してうっとりと笑うと、ユンファさんも少しだけ口角を上げた。
それからはちゅ…とあらゆる角度から、やや尖らせた唇を押しつけながら、ユンファさんの両耳の耳殻 を親指の腹でかすめるようになぞったり、耳の軟骨をやさしくつまんでもみこんだり――するとぞくぞく…としばしば体を震わせていたユンファさんも、次第に俺の唇にちゅ…と唇を押しつけかえしてくれるようになった。
そしてちゅ…と唇を離したあるとき、俺はちょっとした思いつきで、――唇ではなく――ユンファさんの耳にちゅっとキスをし、彼の耳もとで「ふふ…」と笑った。
するとぴくんっとしながら肩をすくめたユンファさんだったが、すぐに「はは、」となごやかに笑ってくれたなり、おそるおそると俺の背中に両手を回し……しかしひとたび俺の背に両手が触れた途端、彼はぎゅうっと強く俺を抱きよせ――俺も彼の両肩の裏を抱き上げるようにして、強く抱きしめかえし――そうして胸板同士が密着した状態で、俺の耳に寄ってきた彼の唇は、こう嬉しそうにささやいてきた。
「実は僕…こんなキス、初めてしました…」
「……そう…。んふ…どうですか、このようなキスは……お気に召していただけました…?」
「……はい…、何だか…幸せを、すごく感じられるようなキスで……」
俺はユンファさんが愛おしくてたまらなくなった。
ぎゅっともう少し彼の背を抱き上げながら、「愛しています、ユンファ」と彼の耳に甘く囁いた。
すると彼ははにかんだように「ふふ…」と俺の耳元で微笑し、「もっと、貴方とキス…したいです…」と可愛いおねだりをしてきた。
それに興奮を覚えた俺は、次にユンファさんの黒手袋をはめた片手と指を絡ませあいながら、彼のぽってりと厚い唇をじっくり、ゆっくりと食み…――はむ…と一度食んでは離れ、また角度を変えて、はむ…と食んでは離れ…――しかし、やがてちゅぷ…ちゅぷ…と食みあうようになると、いよいよ俺は確かな男の意思をスラックスのなかで堅固なものとした。
……要するにまだ舌を絡め合わせもしないうちに、「ガチガチ」になってしまった、というわけである。
しかし、興奮しているのはユンファさんも同様であった。
彼はつないでいる俺の手の指のあいだからその長い指を引き抜くと、俺の両頬をその革手袋の両手でつつみ込みつつも、はじめこそ俺の緩慢な唇の動きに合わせていたが――次第に俺の顔をくっと引きよせると、自分もやや顔をかたむけて、はむ、あむ、と大きく、また激しく俺の唇を食みはじめ――そのさなか、静かながらもはぁ…はぁ…と呼吸を乱しはじめた。
……そうして、気がつけばまるで俺の唇をむさぼるようなその弾力のゆたかな唇は、ちゅぷ…と俺の下唇に吸いついて舐め――同時に俺が彼の上唇に吸いつき、やはり舐める――、しかし噛みつくようにすばやく俺の上唇にも吸いつき、あむ、ちゅぷとくり返し、…すると俺のほうがいささか圧倒されぎみなくらいであった。
「……はぁ…」と俺がため息をつきながら、一旦休憩に唇を離したなり、つ…と引いた糸がぷつりと切れて落ちた先、たっぷりと唾液に濡れてつやめくその肉厚な唇は、妖艶にも赤味が増していた。はぁ…と彼の半開きの唇からもため息がもれでて、俺の濡れた唇を熱く刺激する。
そしてそのぽってりとした横幅の小さな唇は、ふとその口角を上げる。
「きもちいい…。はぁ…正直、知りませんでした…、キスが、こんなにしあわせで…気持ちがいいだなんて……」
「…ふふ…可愛いなぁユンファさん…、いえ、俺も驚いているくらいですよ…、……」
俺は親指の腹で、その濡れたふくよかな下唇をぬる…ぬると横に撫でる。と…ユンファさんの舌が俺の親指をちろりといたずらに舐め、そのままぬるぬると舐められる。
……一層たまらなくなった俺は、ユンファさんの顎をつかんで仰向かせ、さっと斜めからその唇をふさいだ。
そのままにゅるりと舌でその唇をわり開く――しかしすぐにぬるんと退出し…――ほんのりとした甘味のある彼の唾液は、やはり桃の甘い薫りがある――それを繰り返していると、何度めかでユンファさんの唇が俺の舌をとらえ、ちゅう…と吸いついてきた。
そこからのキスは自然、唇よりも舌同士の動きが盛んになっていった。
唇は離れるときに食む動きをするばかりで、ほとんどは斜めからぴったりと合わさったまま――ややざらついているが、たっぷり、ぬるりと唾液にまみれた甘い舌をねっとりとなめ合い…――相互に挿しこんだ舌で裏も表もこすりあい――ゆっくりと舌の根から絡ませあう、濡れた唇で舌先を吸いあう……。
……俺はそれも、ユンファさんの両耳をふさいでわざとくちゅくちゅとした音を聞かせたり、はたまたその耳へじらすかのようなほど優しい愛撫をしたり、彼の肩を撫で、二の腕を撫で…――かと思えば、わきの下からあばら…あばらからわき腹、腰…腰骨…太もも…と、紅いシルクをまとった彼の体のラインを極めてゆっくりとなで下げながら…――と、舌を絡めあうキスのさなかにも、彼の他所の官能を刺激することも忘れなかった。
すると次第にユンファさんは、その細い腰をなまめかしくくねらせはじめ――もどかしそうにもぞ…もぞと揺れるようになったその腰は、時おりくっと強ばって反れたり、びく、と跳ねたりして、俺を悦ばせた。
……そうして俺たちは非常に甘い蜜月の接吻 を交わし合っていた、が――。
「はぁ……は…、ぁ、あの…――お願い……」
しかし――そう悩ましく腰をくねらせているユンファさんは今、頭上で両手首を俺のネクタイにしばられ、拘束されていた。
黒い目隠しに両手をまで拘束されている、黒いベルベットの敷布 によく映える紅いチャイナドレスをその細身にまとった、この憐 れな妖しい美男子…――。
しかし、ユンファさんは一体なぜ俺に拘束されたのか――?
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